part13
「お前ら……、ウィル達を追い払ったようだな。これ……で…休……める……な」
俺はルワールが去った後に俺は意識がもうろうとしてふらふらとしだし千鳥足状態になる。アルビダは慌てて俺の懐に入り倒れるのを防いでくれた。今倒れたら意識を手放しかねない。
「まったく………、また暫くは監禁治療ね。ムサシとクレメンスもだけどね」
マロンさんはボロボロな俺達を見て仕方ない、とでも言いたげな表情で呟く。その言葉を聞いて俺とムサシはもの凄い寒気が背中を走った。俺もムサシも大分ボロボロになっているので逃げようは無いのが残念極まりない。
「あ、助かります」
何にも知らないクレメンスはただ簡潔にお礼を述べて安心しきった表情になる。それを見ていたムサシは、また犠牲者が増えた、と思っているようで憐れむような目で見ている。
大丈夫、すぐに楽になるからね。「お前らも片付いたか……」
ここで俺達の新たな仲間のアムネジアの声がする。とは言っても見えないのだが……、フォックスさんの幻覚かな?波動はまだ復活していないから分からないけれど……。
何故味方の前で隠れる必要があろうか、いや必要ない。アルビダ達はただ辺りを見わたしてアムネジア達を探す。無駄なんだけどな。
「幻覚はもうういいわよ!!敵はいないんだし」
何処からか聞こえてきたのはテンコさんの声。フォックスさんに幻覚を解くように指示しているようだ。
「分かった、今から幻覚を解く」
フォックスさんの声が聞こえてきた途端、スーッとアムネジア達が現れた。見るからにお化けみたいな現れ方で怖いんだが……。
「フォックス……」
しかし、モリはそれにたじろぎなどせず(想像はできないが)寧ろ、彼の言動に全員が驚いた。モリはフォックスの事を知っているようだ。モリはここ"東国"で生まれ育ったらしいから、知り合いなのは不思議ではないのだが、どんな関係かは分からない。
互いに只ならぬ雰囲気を放っておリ、こっちが竦んでしまいそうだった。良い関係ではないのだろうか?
「モリ、何年振りだろうな……。そこに居るフタチマルとツタージャを逃がすのを手引きした時以来だな」
「ああ、その通りだ。また友に会えるとは思わなかったぞ」
何か……、互いの会話からするととんでもない真実が聞けた様な気がする。フォックスさんからはムサシ達の過去の事、モリからはフォックスは旧知の仲であること。特に前者はムサシ達を逃がすのに協力したのがフォックスだというのは驚きだ。二人はただ唖然としている。
「貴方が……、モリさん………?」
アムネジアはモリを見ながら呆然としていた。まだ短い期間でしか接した事が無いので確実にとは言えないが、何か様子がおかしい。何がおかしいのかは具体的には分からないのが歯痒いが、コイツにとって大事なことなのは確かな筈だ。何故かそんな事が分かった気がする。
「お前らは一足先に帰ってろ、俺はモリとアムネジアに話がある」
フォックスさんは俺達に席を外すように言って、俺達に背を向けて歩く。それを見たモリとアムネジアもゆっくりと歩き始めた。場所を移動する気らしい。三人にとって大事な事だろうが……、内容は分からない。一々突っ込むのも野暮なので素直にしあがうのが一番いいだろう。
「皆行こうぜ、一足先にハンさんのところで休もう」
俺の提案は皆が意図を分かってくれたので、すぐにハンさんのところへ向かった。何を話す気かはしらないが、落ち着いてくれよな。
☆ (アムネジアサイド)
俺達はレオ達が去った後に少し移動して、丁度良いところに座れそうな木イスがあった。何であるんだ?
「アムネジア、お前に大事な話がある」
フォックスさんはいかにも深刻そうで、不安なように見えた。モリさんも眼つきが鋭く、これから話そうとすることの重大さがひしひしと伝わってくる。
「俺の失われた記憶について―――、ですよね?モリさんは俺の……」
「コンビだ」
俺は先程の戦闘で見た記憶を頼りに言おうと思った事を遮られて代わりにモリが言った。ああ、やっぱりだ。
「だが………、お前の名前はアムネジアだ」
モリ、いや兄貴は俺を本来の名ではなく今の名であるアムネジアと呼ぶ。その様子はどこか寂しげで、見るに堪えなかった。冷たい風が吹きそれはより一層増していくような感じがする。
「本当の名前は何なんですか?」
だけど、俺は知りたいんだ。自分がいったい何者なのかを。ハッキリとさせて終わらすんだ。それを知るのがどんな意味を持っていたとしてもだ。
兄貴はそれを聞いて黙ったまま去ろうとする。話す気は毛頭ないらしい。話すのが怖いのか、俺にとって良くないのか……。どちらにしても、そんな甘えは許すわけにはいかない。
「ならば、俺が変わりに答えよう」
そんな重たい空気を破いたのは俺の上司のフォックスさん。その口ぶりからして全てを知っている模様だった。
どうして、話してくれなかったのだろうか?彼もまた避けてきたのだろうか、タイミングを図っていたのか……。どうやら、この二人は俺に秘密を隠し通してきたみたいだ。これではまるで子供扱いなんじゃ……。
「お前の本当の名前は"スラッシュ"。かつて"東国"で暗殺者として活動していたものだ」
ああ、そうなんだ――――。やっぱり俺は……ロクデナシだったようだ。俺は多くの命を消してきたんだ。俺は憎む者ではなく"憎まれる者"だったらしい。
「俺達は昔、四人である者を暗殺をするために集まった事がある。それはムサシとマロンを逃がす為に当時の上官から出された条件だったんだ」
フォックスさんは落ち込む俺が居てもお構いなしに話を続ける。もうすべて話すと決めたのだろう。
「そのターゲットはな……お前達を暗殺者として育てたものだ。暗殺者としての道から解放される為にお前らはその暗殺に臨んだんだ。」
そしていきなり、衝撃の真実を述べる。当時の俺は暗殺者としての道から外れようとしていたらしい。わずかな希望にすり寄っていたようだ。
「俺達はそのターゲットの暗殺に成功した。それからムサシ達とお前とモリを逃がす準備をしていた。だが、その時に悲劇が起った」
「悲劇……?一体何が?」
フォックスさんは俺の聞く事を本当は話したくはないのだろうか、トラウマを思い出しているかのようだ。
「ターゲットの息子が暗殺者の精鋭を引き連れて俺達を殺しに来たんだ。そいつが今のアドルフだ」
なんて言ったんだ……?ターゲットの息子がアドルフだった?じゃあ、俺は奴に憎まれているのか?
俺と奴には大きな因縁が隠されていたのか……。奴の言う"とある暗殺者"とは俺だと薄々感づいていたが、嫌がらせとかではなく憎悪を込めて言ったものだったに違いない。
「その精鋭たちからモリとムサシ達を助ける為にお前はたった一人で奴らに挑んだんだ」
その一言を終えるとフォックスさんは黙った。これで終わりの様だ。今言ったのが真実らしい。ここから先の話が無いことからここで俺が記憶をなくしたらしい。恐らく、
『ねぇ、兄貴。もし、生まれ変わって会うことが出来たら……、もっともっと良い世の中で会いましょう』
あの幻聴は間違いなくその時のことだ。俺はその時、死ぬ覚悟が出来ていたんだ。だが、死なぬ代りに記憶をなくし"スラッシュ"から"アムネジア"として生まれ変わったんだ。
しかし、結局生まれ変わってもいい世で出会えたといえようか……。
ん……?待てよ……。
「おい、ターゲットの暗殺は四人でやったって言ったよな!?誰だ!」
そうだ、フォックスさんは最初に四人で暗殺を行ったと言っていた。ここに居るのは三人、つまり一人足りないのだ。
「それは、俺が答えよう」
ここで黙る事を決め込んでいた兄貴が説明する気になったらしい。此処まで知ってしまったら今更何も変わりはしないだろう。どれほど衝撃的なものが待っていようが先ほどと比べると軽いものだろう。
暫く兄貴は間を開けて、真実を話し出した。それは衝撃的で皮肉な事だった。
「その一人は"Samsara"六皇の一人ウィルだ。奴が居なくてはターゲットの暗殺は叶わなかった……」
おい、一体どういう事だ……。ならば、ムサシ達は仇によって命を救われたのか!?