part12
「フォックスさん!」
テンコは目の前で、ダメージを負ったフォックスさんを見て狼狽としていた。直ぐに助けにいかないと、とでも言いたげな表情で走ろうとする。危ないので、俺が尻尾を掴んで無茶はさせないようにする。
「分からねぇのか?危ないし、それに……本当にやられたと思ったのか?」
俺はテンコを掴みながら仕方なしとして説明する。その言葉を聞いてさすがのテンコでもどういう事か気がついた。フォックスさんの種族上、もっとも考えるべき事は……
「………幻覚か……」
アドルフは呆気無く倒れるフォックスさんを見て幻覚と確信を持つ。直ぐにアドルフは不意な一撃を防ぐために思い切って飛んだ。空中に居る限り基本、剣での攻撃は当たらない。とはいえ、それだけではまだ甘い。ゾロアークは特殊技をメインとして戦うイメージが強めだ。
もっとも、アドルフは分かっているだろうが……。
「飛ぶ高さはその程度で良いのか?」
フォックスさんはアドルフより上に居たのだ。周りの木々を使って、あの高さにまでジャンプしたのだろう。アドルフは丁度良いだろうという事で剣が届かなくて、尚且つ自分の技を最大限に生かせる中距離ラインに調整したつもりだろう。
だが、フォックスさんは綺麗に欺き上をとった。種族的にはこんな光景はなかなか見ないだろう。飛べるポケモンが飛べないポケモンに木を使うだけで後ろをとるのは容易い事じゃない。
「凄い……」
テンコは開いた口が塞がらず、驚嘆としていた。幻覚を見抜けなかったこいつには当然だろう。そこらの奴より強いのだが、まだまだ実力が足りない。
このまま、剣を突き刺して奴の首をとれば最高だ。少し不安要素があるので難しいだろうが……。
「まだだ!空中では俺の方が動きは早い」
アドルフは致命傷にならない程度はくらい、ダメージを抑えることに専念して避けた。その判断は称賛に値するものだ。いくら、空中を自在に飛べるとはいえどもあのタイミングでは完璧に避けるのは無理だ。ならば、被害を少なくすればいい。
「ちっ!」
フォックスさんはダメージが抑えられた事に舌打ちする。だが、そうしている間にアドルフから気合い玉が飛んできていた。空中では身動きは不可能なのでフォックスさんもガードしてダメージを抑えに行く。
今の一連の行動は、まさに"肉を切らせて骨を断つ"。危険だが時には大事な選択もある。フォックスさんの方はダメージがでかいのが残念だ。
「やはり、貴様を倒すには技が一番か……」
「さてと、幻覚に騙されないようにしなくては……」
二人は空中での戦闘は終わらせ再び地上での戦闘が始まる。フォックスさんは手に黒いエネルギーを集めていた。技は恐らく"ナイトバースト"だろう。
対するアドルフは何回も見た"竜の波動"だ。小回りが利いて使いやすい技だ。
さきほどまで、ポケモンとしての戦闘が見られない為に見てるこっち側も余計に緊張が走る
―――――――と、思っていた時だった。
「"ブラストバーン"!!」
アドルフに向けて強烈な炎が繰り出されていた。あまりにも突然が故に、アドルフは避けきれなかった。
その炎は森の中で容赦なくポケモンを燃やしていった。威力はすごく高めだ。俺が知る限りでは、これほどの"ブラストバーン"を放ったのは間違いなく……、
「戦いはそこまでだ」
――――――バーンさんだけだ。
「まさか、あなたまで来るか……。こうなっては仕方ない」
バーンさんの登場に驚き、燃えていながらも喋っていた。その様子と口調は全然噛み合っていない。奴は恐らく"アレ"を持っているに違いない。
ビュンッ!
一瞬にして燃えていたアドルフは俺達の視界から消えていた。これで奴らは間違い無く"アレ"を持っていることが分かった。
「"マーキングテレポート"で逃げたか………」
奴に対して何も出来なかった俺はただただ悔しかった。
☆ (レオサイド)
「無暗に突っ込むだけか?波動すらまともに使えない今で勝てると踏んだのか?そうだとしたら私もなめられたもの……」
「ゴチャゴチャうるせぇ!」 ヨノワールからミロカロスになったルワールは余裕綽々としており、べらべら喋り出す。イラッときた俺は怒声を飛ばし"はっけい"をかます。別に波動弾を使うだけが俺の戦闘ではない。
「"雷パンチ"!!」
続けて俺は電撃を拳に纏わせ、ルワールに振るう。水タイプである今のルワールに対しては良い攻めての筈だ。
しかし、ルワールはそれを受け切った。それからすぐに自己再生を行い、この攻撃をほぼ無に喫しさせた。それから見るに今のおれでは攻撃力が足りない。"流星波動"なら大きな負担をかけれるだろうが、今は放てない。前は使ったら気絶していたので戦えるだけマシだ。
「フンッ!麻痺状態になってしまったか」
ルワールは俺の攻撃をくらって麻痺状態になったのか動きがすごく鈍い。ルワールはそれを喜んでいるように見えた。理由としては簡単だ。奴の特性は"不思議な鱗"というものだ。状態異常になると防御力が恐ろしく上がる特性。今の俺にとって最悪のお知らせだ。
「貴様の攻撃は終わりか?ならば―――、
今度は私の番だ」
ルワールは口をあけて水を放つ。何かの技か分からないが、食らうのは御免だ。不幸中の幸いとして麻痺状態なので動きは鈍い。避けるのは難しくない。
「っ!熱いな……"熱湯"か」
俺は避けた自ら熱気が伝わってきたためにその技は"熱湯"だと判断する。何とも厄介な相手だ。
"熱湯"は水タイプの技なのだがその名の通り熱い。それによる火傷にする追加効果がある。大抵の炎タイプの技より火傷になりやすい。今の俺にはハッキリ言って勝機は無い。
「此処まで強いとはな……インチキ能力もいい加減にしろ!!」
俺はついヤケクソになってそう叫ぶ。本来ならばラッキーな状態異常が特性によってアンラッキーに変わる。攻撃を当てても直ぐに回復される。なった状態異常は麻痺なのでワンチャンスはあるかもしれないが、下手に近付いて"熱湯"をくらって火傷になるのが怖い。せめて、覚醒が出来ればいいのだが……。
「縮こまってんじゃないわよ!バカ!!」 この声は…………アルビダなのか?ここに来たのか……。ヤケにでかい声だ。
俺はアルビダの声が聞こえて来た方向を見ると、アルビダがクレメンスを、マロンさんがムサシを担いでいた。その隣には以前、ルワールを破ったジュカインのモリ。
見るからにウィル達は追い払ったのだろう。モリもいることだし、そうに違いない。ルワールもアルビダ達を見て状況を察したのか、舌打ちしていた。
「せめて、"蒼の水晶"だけでも回収したかったのだが………」
ルワールは目的が果たせなかった事に対して残念がっていたが、すぐに余裕そうにしていた。
「逃がすと思うなよ」
モリは余裕綽々としているルワールを見て逃げるつもりだと気付いたのか、一瞬でルワールの目の前に移動していた。
だが、ルワールの目の前に来た途端にルワールは光に包まれ一瞬にして視界から消え去った。エスパータイプではないポケモンがテレポートするとしたら、アムネジア太刀と使った"マーキングテレポート"が真っ先に思い浮かんだ。
それはエネルギーの消費が莫大な変わりに、マーキングされた特定の位置あるにテレポート出来る石である。前にもボルトは使っていたのでこの流れからして"六皇"全員があの石を持っているかもしれない。
なんて、面倒なんだ……。だが今は……、奴らを追い払えたことを祝おう。