part11
今、フォックスさんとアドルフが死闘を繰り広げている。どちらも決定打に持ち込めず硬直状態だが。
「埒があかないな」
「全くだ」
二人は進展が無いことに苦難していた。技の範囲が広いアドルフは様々な技で仕掛けにいく。対するフォックスさんは特性による幻覚を巧みに使ってかわしきっている。これが続きどちらも決め手を欠いていた。
攻めているのはアドルフなので、エネルギー切れだってあり得る。逆に幻覚を突破できたら強烈な一撃を浴びせられるだろう。フォックスさんには決定打はあるだろうか?気合い玉位しかなさそうだ。ということはフォックスさんの方が不利か?
「まずいわね……」
テンコは俺と同じ考えなのだろう。フォックスさんの方が攻め手に欠けているのを理解している。命中しがたい気合い玉で頑張るしかない。
ドドドドドッ!
突然、凄まじい轟音が聞こえた。あまりにも突然なので戦う二人もびっくりしていた。誰かがやったのだろうか?こっち側か向こう側のどちらかのポケモンがやったかは分からない。出来ればこちら側の攻撃であってほしい。しかし、そうだとしたら誰が?
「さっきの凄まじい音が気になるが……」
「今は目の前の闘いに集中しようか」
アドルフとフォックスさんはすぐに切り替えてさっきの状態に戻る。恐らく戦闘はそろそろはじまる筈だ。巻き添えをくわない様に避難しよう。
「テンコ、今は退こう。今の俺たちじゃ足手まといになる」
俺はテンコに退却の意思を告げる。テンコはそれを聞いて若干渋るがそれからは何もなく承諾する。いずれ復讐は果たすつもりだろう。ただ、恐らく絶対にテンコはアドルフに勝てるわけがない。種族でも才能的な意味でも無理だ。今日のあれだけでそんな事が分かった気がした。まだ確実に分かったものではないが、そうだろう。
「逃がすと思うか?」
だが、アドルフは逃げようとする俺達に止めを刺すつもりなのか竜の波動で俺達を攻撃する。水晶の主から出来るだけ水晶を奪いたいのだろう。要は欲が出たのだ。それは大きな隙の原因ともなりうる。フォックスさんが見逃すはずがない。
「お前こそ俺が隙だらけなお前を攻撃しないとでも?」
フォックスさんは隙だらけなアドルフに敢えて声をかけて気合い玉を放つ。気付いてしまったアドルフはそれにより攻撃を中断してしまい、俺達への攻撃すらかなわなかった。その次にフォックスさんの気合い玉が直撃する。
諸に食らったアドルフは大きく怯みさっきより絶対的な隙を生みだしていた。それを見たフォックスさんは刀を持ってアドルフに接近する。ここで殺すつもりらしい。いちいち捕まえて取り調べをするよりこっちの方がいいと判断したのだろう。
「ここで!死んでたまるかぁ!!」
アドルフは声を荒げる。何となく俺にはワザとらしく見える。アドルフは見事に太刀筋を両手の顔の口で防ぐ。その反射速度からして分かっていたのではないかと推測出来る。
「ちッ!罠か……」
フォックスさんはアドルフの意図に気づき舌打ちをする。その頃にはもう遅かったのだ。アドルフは口にエネルギーを溜めていた。何らかの技を放つのは間違い無い。
「ちょっと!まずいじゃない!助けに……」
「行かせねぇよ」
俺はテンコが何を言うのか分かっていたので、尻尾を掴む事で遮る。それをされてテンコは半ギレしているが、気にする場合ではない。さっきの様な無様な失敗をコイツにはさせたくはない。
「行かせてよ!」
テンコは俺に対して自分の意志を吐き出す。反省、いや学習の様子は全くない。今度こそ自分の命が危ないのに行かせるなんて駄目だ。
「お前は俺の命の恩人である親父さんの娘だ。死なれたら合わせる顔がねぇ」
などと嘘を言ってみる。一応その通りとも言える嘘だ。本当は恥ずかしいだけなのが情けない。
本当の理由は少しも同じではない。俺はコイツを失うのが怖いのだ。過去の記憶、コイツの親父さんでさえ悲しみが深いのにコイツまで消えるなんて……、恐ろしくて考えられない。
「じゃあ、フォックスさんがやられるのを黙って見てろなんて言うの!?」
テンコは最後の反論に痛いところを突いてきた。テンコに助けに行かせず、戦闘不能の俺も行かない。つまりは……嫌な選択をせざるを得ない。
「そうだ」
俺は意を決してテンコに真意を言い放つ。テンコは怒りと悲哀の気持ちが見える表情で睨みつける。
その後に悲鳴が俺達の耳に伝わる。
☆ (レオサイド)
「遂に、遂に……ルワールを倒した………のか?」
俺はボロボロな身体を起こして辺りを見渡す。特にルワールがいた方向を見ていた。ルワールがどこにいるのかは波動を使いたい所だが生憎技の反動で使えない。肉眼で確認するしかない。
暫く見渡すと倒れているルワールを見つけた。それにより俺は一気に楽な気分になれた気がした。父さんの仇を討てたからかもしれない。いくら殺す事は考えなくなっても憎いことに変わりはない。一歩間違えれば俺はルワールを殺そうとしていたに違いはないのだから。
これからどうするか。決着がついた今は誰かに加勢して事を早く終わらせたい。ムサシ達に加勢したアルビダ達はどうなっているのか?相手が相手なので苦戦は免れないだろう。今の俺は波動弾は使えない。物理技しか出来ないのが現状だ。波動弾をメインとして戦う俺は今、足手まといかもしれない。
"流星波動"は強力な分、リスクが高い。波動弾を暫く放てなくなる事は致命傷だ。物理技で戦う事も出来るが体力の消耗が酷い今ではまともな戦闘になるか不安が募る。
「まさか……私を倒したつもりかね」
絶望―――、その二文字が俺の脳内に突き刺さる。有り得ない、何で倒れないんだ。追い込みが足りなかったのか?
だが、間違い無く有り得ない。ルワールがボロボロになっているのはこの目で確認したばかりだ。幻覚や見間違いなのだろうか?どっちにしてもくらったはずだ。
もしかしたら運良く立ち上がれただけかもしれない。ならば、トドメを刺そう。相討ちになるだろうが、今はそれが良いはずだ。
俺はルワールの声がした方を見ると、有り得ない光景が待っていた。さっきの声はルワールのはずなのに違ったのだ。何せ今、目の前にいるのはミロカロス。どうしてなのか分からないがルワールの声を発している。他の誰かが似せている可能性があるが、出てくるのはミロカロスと全然見た目が一致していない。
「"この身体"にやっと馴染めたからな」
「どういう意味だ」
ルワールの意味深な発言に俺は疑問を持つ。内容からして憑依能力があるような発言。考えてみると俺は一つだけ知っていた。
「そうか、お前は"水晶伝説"に出てくるポケモンを乗っ取ることが出来る人間なんだな」
この事が本当ならまずいの一言で済む問題ではない。"水晶伝説"と同じ事が起こりうるんだ。世界が創り替えられる事もあり得てしまう。
「早くその水晶をこちらに寄越せ、汚れた神が管理する世界の住人よ」
ルワールは余裕めいた表情で俺に詰め寄る。意味深な発言だが本題は分かりやすい。
「やだね、と言ったら?」
俺はルワールの要求に応じない意志を告げる。返答は分かりきったものなのだが。
「罪深き神、アルセウスと同じだな。よかろう、―――葬り去ってくれる」
ルワールが言い終えると俺は地を力強く蹴って攻撃を始めていた。