part10
なんてことだ……、テンコが……。
「雑魚は引っ込んでろ」
アドルフは吹き飛んだテンコに対し、そう言い放つ。明らかに軽蔑の意がこもった今の台詞は腹立たしいものだ。
「さて、残りはフォックスと動けないアムネジアだけだな。楽な仕事だ」
「残念だがそれは叶わんぞ。何故なら―――、」
アドルフとフォックスさんは闘いの準備を始める。いや、闘いという生ぬるいものではなく"殺し合い"だ。
それが始まるのが分かると何故だか懐かしい気分になった。大体の検討はつくが……もしそうだとしたら俺の過去は非道なものだ。
「しかし、アムネジア。貴様を見ていると、とある暗殺者を思い出す」
ここでアドルフは俺の方を見てニヤニヤとしだした。"とある暗殺者"―――、その言葉がどうしても俺に不信感を募らせる。まさか、コイツは俺が記憶を失う前の事をしっているのではないか。そうだとしたら、俺は間違い無く……。
「お前の戯れ言はいい。とっとと片を付ける」
「出来ると思うのか?モリと同じだな」
モリ…………?誰だ。何故俺は懐かしく感じる。どうして……悲しい気分になる!?
―ねぇ、兄貴。もし、生まれ変わって会うことが出来たら……、もっともっと良い世の中で会いましょう。
突然、俺の頭の中に声が流れてくる。その声は自分の声だと分かった。でも、何だか感じは違う。まるで別人のようだ。記憶を失う前はこの世に対し絶望していたのだろう。
これは間違いなく、俺の記憶だ。それも記憶を失う寸前に違いない。そして、兄貴とというのは……モリというポケモンに違いない。その名前は俺を奮い立たせ、記憶を一部、呼び起こした。やっとだ、何年間か待ち望んでいた自分の記憶がほんの一部だけ戻ってきた。その内容がどんなに悲惨だったりしても俺は受け入れよう。
「アンタ……大丈夫!?」
ここでいつの間にか意識が戻っていたテンコが俺を心配していた。だが見るからに傷があちこちにあり出血もしているテンコの方が大丈夫なのか。余程のバカだ。さっきまで心配して損した気分だ。こっちがどれだけ心配していたか……。
「お前も俺も立てそうにないな。今は既に始まっているフォックスさんとアドルフの戦いを見るぐらいしかやる事ないな……」
俺はテンコのいる方を見てそう言った。テンコもそう思っているのか、そうねという返事が返ってきた。その時に笑みがこぼれる。
俺ってこの笑みを守ろうと今は頑張っているのかな?……意外にも俺が一番単純なんだろうな。
☆ (アルビダサイド)
私はマロンさんと一緒にムサシ達を助けに行ったんだけど……、やっぱりまずかったかな?
「貴様ら……、どうやら殺されたいらしいな」
ウィルは明らかに殺意をむき出してスプーンをこちらに向ける。その姿はまさに暗殺者。モリさんとはまた違った雰囲気だ。1対1で戦ったら間違いなく負ける。六皇の中では強い部類なのかもしれない。手負いのムサシ達と私達がボルトと合わせたコイツに勝てるだろうか。もしかしたら無理かもしれない。
「早いところ、消してやろう」
ボルトは拳に電撃を纏わせ殺意をさらけ出す。こっちも凄まじいものだ。思わず足がすくんでしまう。そうなると回避行動に遅れが生じる。つまり、簡単に殺される。
「「死ね!」」 二人は勢いよく駆け出し本気で命を取りに来た。こうなるともう戦うと逃げる以外の選択肢は無い。
「グラスミキサー!」
「電光石火!」
マロンさんはウィルに、私はボルトに攻撃を仕掛ける。ムサシ達よりかは劣る私達が相手では勝負になるかどうか分からないが。
「アルビダ殿!、マロン!!無茶でござる!!」
「こうなったら僕達も……」
ムサシ達は戦う私達を見て心配になったのか体を無理に起こす。そんな事をすると間違いなくただでは済まない。出来ればそんな事はしてほしくない。
「そこだ!」
「しまった!」
マロンさんは無理に起きようとするムサシ達を見て心配になったのか動きが止まり完全な隙が生まれた。そこにウィルが攻め込もうとする。
「おやぁ?隙だらけですよ」
「え?」
私はボルトに遊ばれているのか隙が出来ていると忠告され不味いと思った。何せ今にも雷パンチが私を襲っているのだ。少しムサシ達に気を止めたのがいけなかった。
「間にあえ!砂地獄!」
クレメンスは私を救うために咄嗟に砂地獄を放つ。でも、速度的に間に合わない。死にはしないが私の耐久能力だとまず話にならない。逃げるにも間にあいそうにない。
そんなの嫌だ。私は……強くならなきゃ。レオの足手まといなんかになりたくない。こいつ等との闘いがすべて終わったら帰ろう。
キィィィィ!
「!?何だ?」
ボルトは振りかざす拳を止める。何故なら私が突然輝いてしまっているから。その輝きの正体は技の"フラッシュ"。ただ範囲が狭いのでマロンさんまで助けられない。
取り敢えず、私はボルトから離れ接近していた砂地獄をお見舞いする。あまりにもうまく決まったせいでダメージはでかい。クレメンスが削っていたせいかより一層。その勢いでマロンさんの方へ走る。
すでに、マロンさんの方にはムサシのシェルブーメランが向かっていた。此方も間に合いそうにない。
この場にいる誰もが無駄だと悟る。
だけど、天は私達に味方してくれた。
「まさか、お前がいるとはな」
ウィルは放とうとした攻撃を中断した。そうさせた理由はウィルの首に刀が向けられていたから。
その出来事の正体はマロンさんとムサシが良く知っているポケモンがやった。そのポケモンの名は―――、
「モリ……」
☆ (レオサイド)
「貴様!」
「何を焦っている?」
今、俺とルワールは睨みあっている。トリックルームの効果は切れてしまい、再び発動しようとするのを俺は止めていた。
俺はアユムから力を貰い、ルワールを圧倒していた。この力は素晴らしかった。今の俺は蒼いオーラを纏い、力が沸き上がっていた。
「図に乗るのも此処までだ!」
ルワールは思いっきり拳を振り下ろす。その速度は今の俺には遅く見えた。すぐに対処が可能だ。
「波動弾!」
両手を使い、素早く蒼い波動を作って放つ。今までの俺だとこの動作に時間がかかっていた。
覚醒した今なら、余裕のなんの。早いところ決着をつけて救援に向かおう。そして仇は必ずとる。
「"螺旋波動"!」
俺は一気に勝負を決めたいので威力が高めの技を放つ。この攻撃をルワールは避けきれず仕方なく受ける。もちろんこれにより隙は出来る。
この隙に俺は出来るだけ高く跳び上がる。両手には蒼い波動を纏いながらだ。ここで勝負をつける。その為には"あの技"以外に考えられなかった。リスクは変わらず大きいだろうが、決定力は桁違いだ。
「その技は……!」
ルワールは俺がやろうとしている技に気づいたのか慌てふためく。それからすぐに危険を察知した為なのかこっちをよく見ておらずに狙いを定めながらシャド−ボールを放とうとしていた。
しかし、何故この技を知っているか。ルワールに使ったっけな?見当がつかないのだが、今は関係ない。
俺は両手の波動を掻き合わせ、巨大な波動弾を作る。それを一気にルワールに向かって放る。巨大の波動弾は分裂していき一つ一つの小さな波動弾がルワールに襲いかかる事になる。
「"流星波動"!」
俺の渾身の一撃はルワールに炸裂した―――。