part7
拙者とクレメンス殿はウィルとボルトと戦っている。修業はやっぱり正解でござった。
「ふむ、想像以上に強くなったのだな」
ウィルは拙者と戦って拙者の成長を実感していた。まだまだ余裕そうなので全力ではないだろう。だが、それは拙者も同じでござる。
「まだまだ、行くでござるよ!」
拙者はアクアジェットを使ってウィルに全速力で接近を図る。間合いを詰めなくては拙者の技は話にならない。強い技なら尚更でござった。
「サイコキネ…」
「させないでござる!」
ウィルはそれをサイコキネシスで止めようとしたが、拙者はそんな事を許さなかった。声を出すのと同時にアクアジェットを止めて、冷凍ビームを放つ。水タイプだから覚えてろ、と師匠に言われた為覚えた技でござる。
「ちぃっ!手が……」
拙者の放った冷凍ビームはウィルの右手に当たり、持っていたスプーンごと凍らせた。これによって念力が半分弱まったでござろう。叩くなら今でござる!
「"水流双閃"!」
とっさに出来るだけ二つのシェルブレードを大きく作り、大きく踏み込んだ。一気に二つの水太刀をウィルに斬りつけた。
「ぐうあぁぁ!」
ウィルは"水流双閃"を諸にくらい、悲痛な叫びをあげる。手応えは言うまでもない。油断は出来ないから確実に止めをささなくては……。
「させませんよ」
止めををさそうとした拙者に気づいたボルトは雷パンチを作り、接近していた。
「砂地獄!」
だが、その攻撃はクレメンス殿よって叶わなかった。牽制の為に放たれた砂地獄はボルトを退けるのに十分だった。これで、邪魔はいなくなった。マロンには何にも背負って欲しくない。だから、ここで……。
「"竜巻砂漠"!」
クレメンス殿は一気に勝負を決めるつもりなのか自信の最大の技を放つ。当たればクレメンス殿の勝ちは確定でござろう。
早く止めを―――、
「…い、いない!?」
止めをさそうとしても、ウィルはいなかった。ここでテレポートがあった事に拙者は気づく。不覚でござる。見逃してしまったのだ。
「サイコキネシス!」
ウィルは拙者の死角から強力な念力を拙者とクレメンス殿に喰らわせた。強い力で拘束されてしまい、抵抗は奇しくも叶わない。
「ぜぇ、まさか貴様等がここまでやるとはな……」
拘束された後にボルトが傷だらけにして近寄って来た。右手に冷気を、左手に電撃を纏わせながら。何にも出来ないこの状況で最悪な物を目の当たりにしてしまった。
「終わりだ」
ウィルは冷徹な声で言って背中を向ける。もう、戦いは終わりと言っているのだ。悔しい、そんな気持ちが拙者を支配していた。
キィィィンッ!
何やら不快な音が響いてきた。何故か水晶からだ、と拙者は分かった。しかし不思議な音だ。ウィル達には聞こえておらず別段表情を変化させてはいない。クレメンス殿には聞こえているのか、しかめっ面をしていた。ましてや拙者の目にはボルトの拳がとんでもなく遅く見えた。走馬灯が起こっているようだ。
(『殺せ』)
次は何やら低めの声が聞こえてきた。不吉な予感がしてきた。
(『やめろー!』『お願いだ!まだ家族がいるんだ!だから命は……』『死ね!』『ギャアアアア!』『根絶やせ』『死にたくないよぉ……』『息の根を止めてやる』『許さない』『この恨みは必ず……』『悪かった!だから……俺だけでもたす…け、………うわああああ!』)
何だ、これは……?まさか、これが水晶に眠る憎しみ…?一体何が起こっているのだろうか。
―君に覚悟はあるかい?水晶の憎しみと戦う覚悟は…あるかい?
不意に聞き覚えがない声が聞こえてきた。さっきのとは違い、穏やかだ。
―勿論……、
……ある!
拙者は謎の声に意志を答える。答えてすぐに拙者を紺色の光が包む。
―いいね。じゃあ君は水晶の真の主とし、『覚醒』する。
それから、謎の声は聞こえなくなり力が沸き上がってきた。
☆ (レオサイド)
「アイツ等は何処にいるんだ?」
アムネジアは辺りを見渡しながら呟く。夜中であるために見えづらいので苦労しているのだ。
「おい、確かレオといったな。波動で探知出来るんじゃないのか?」
フォックスさんはなかなか捜すのが難航しているのを見て、俺に波動探知を頼んできた。
「いや、止まってなら簡単なんですが……、動きながらはまだ厳しいです」
俺は波動探知をしない理由を正直に話す。それを聞いてフォックスさんは考え出した。何かする気だろう。
「ならば、アムネジア。お前がレオを背負いながら歩け」
フォックスさんは暫く考えた後にアムネジアに俺を担ぐように命令した。二人は上下関係にあるために、アムネジアは嫌そうに顔をしかめながらも引き受けた。まぁ、そうだよな。
「アムネジア、悪態なんかつかずにさっさと行くよ!」
テンコさんは渋々と俺をおぶるアムネジアを見て、何故かイライラしながら怒声を飛ばす。その目には嫉妬心が飛び交っていた。なんか勘違いしている気がする。独占欲が高いのかもしれない。少なくともテンコさんがアムネジアに抱く気持ちは分かった。
「はいはい、分かってるって。
レオ、分かるか?」
アムネジアはテンコさんの怒声を適当にあしらい、俺に波動探知の調子を尋ねる。
俺はまだ探知を始めていないので、気を集中させて周りを探る。俺の探知出来る範囲はざっと3kmぐらいだ。
「少なくとも、半径3km以内にはムサシ達は居ない。これまで探して見つからなかったと言うことはまだ奥にいる筈だ」
俺が探知した結果を聞き、沈黙が走る。今俺は目を瞑っているため、皆がどんな表情なのか分からない。恐らく険しいものだろう。
「そうか……。ならば、アムネジアはそのままレオを担いで移動だ」
フォックスさんは俺の探知結果を聞いて、アムネジアにそのまま担がせる。そのすぐ後に溜め息が聞こえてくる。間違いなくアムネジアのものだ。しょうがないから、我慢してもらうしかない。俺だってずっと目を瞑りながら誰かの背中に乗りながら探知するなんて嫌いだ。
アムネジアの溜め息など二人には全く気にされず、つかつかと歩いている。俺が乗っている為走るのは危ないと判断したんだろう。それなら助かる。まぁ、担ぎながら走るのが辛いだろうと考えたのが一番だろうけど……。
それからは三人とも黙って歩いていた。周りを探っているのだろう。"Samsara"がいつ襲ってくるのか分からない為だろう。こうなってくると暇でしょうがない為、俺は考え事をしていた。
それは、さっきの水晶の光だ。何があったのか分からないのだ。しかも、それからアユムが居ないような気がしたのだ。これらは関係あるのだろうか……?ただ俺を無視しているのか、本当に居ないかは分からない。あくまで気がするなうえに見えないので本当はいるという可能性もある。一応、気にとめておこう。
キィィィンッ!
突然、不快な音が聞こえてきた。何だ、今のは何だったんだろうか。金属音の様で嫌だった。この音はアムネジアとテンコさんにも聞こえていたようで何だ?、と言っていた。
ただ、フォックスさんには聞こえていない様だった。どうした?、と聞いて尋ねてきたのだ。どうしてなのかと考えていたらある共通点が浮かんだ。
「水晶の主だけという訳ね」
俺が言おうとした事をテンコさんは横取りする。今はそんな事を気にする場合じゃないが……。
「ッ!!ここからまっすぐにムサシ達が!!」
俺は遂にムサシ達の波動を感知でき、もっと詳しい方角を探る。それを聞いてアムネジア達は走る。俺はあまりにも不意な出来事な溜め落ちそうになった。ここまでくれば眼を閉じる必要はない。
俺が目を開けると光景は真っ暗で目を閉じ過ぎた事がよく分かる。だが、すぐに暗さに慣れてきたのか、周りの光景が見えてきた。
俺は真っすぐの方向に目を向けるとそこには驚きの光景が映っていた。
紺色のオーラを纏ったムサシと傷ついたクレメンスが、ウィルとボルト相手に接戦を繰り広げていた――。