part6
拙者とクレメンス殿は苦労しながらも、団子をお客さんに届けた所だ。意外な重労働で、探すのに時間がかかったでござる。
そして、気がついたら夜になっていた。現在は……。
「い、意外と疲れたでござる」
「そうだね、ある意味戦うより大変かも」
こんな感じで疲労困憊な状態でござる。起きたらいきなり団子配達を頼まれ、戸惑いながらも引き受けたのは間違いだったかもしれない。
「取り敢えず、今日は戻って寝ようか」
クレメンス殿は疲れを感じさせる表情をしながら、ゆっくりと飛行している。拙者はクレメンス殿の提案に便乗しようと歩き出した。
「「!!」」
拙者達が帰ろうと歩き出したときに、互いに殺気を感じた。強い敵が近くにいるのがわかる。
「これは不味いね」
「拙者の合図でクレメンス殿が技を放ってほしいでござる。その隙に大技を叩き込むでござる」
敵は誰かは把握出来ないでござるが、拙者達の声が聞こえる範囲にはいない。確実にゆっくりと近付いて来ているのがわかる。
「分かった、その作戦で行こう」
クレメンス殿は拙者の作戦に乗り、準備を始める。勿論、拙者も"シェルブレード"が何時でも放てるように準備していた。
まずは、いつ合図を送るかどうか見極める。タイミングが肝心なので自然と少し緊張が走る。焦りや緊張は失敗の原因によくなるのだから集中しなくては……。
拙者は気配を感じとり、敵が大体どの位置かを感で判断する。レオ殿がいれば確実でいいのだが、残念ながらいない。感で判断するしかあるまい。
やがて、気配が拙者の技の範囲に入るとクレメンス殿に合図を送る。それを見たクレメンス殿は砂地獄を放つ。
「「ぐうあぁぁ!」」
クレメンス殿の砂地獄が敵に当たったらしく、苦しんでいる。最高の出来だ。これなら、"水流双閃"の範囲内かつ溜める時間を作れる。さて、いっきに……。
「10万ボルト!」
「シャドーボール!」
溜めている最中に砂地獄を突き破って、電撃と黒色の球体状のエネルギー体が襲って来た。電撃は避けるとしても、シャドーボールは無理だ。計算されていたのだろう。
「ならば……、
切る!」
拙者は作っていたシェルブレードでシャドーボールを切り裂く為に振り下ろす。ギリギリでシャドーボールは真っ二つになりシェルブレードは消える。
「大丈夫かい!?見たところかなりの威力だったけど……」
「大丈夫でござる。以前なら腕が痺れていたでござるが、修業のお陰でなんとか……」
クレメンス殿が拙者を心配そうに見ながら尋ねてくるが、修業のお陰で助かったと答える。しかし、あと一秒遅れていたら直撃だった。
「ほお、あれをギリギリで防げるのか。大分強くなったのだな」
「さっきの一撃は痛かったぞ。まぁ、まだまだ実力不足ですがね」
さっきの技を放ってきたと思われるポケモンが余裕な調子で現れる。一人は上から目線で拙者のさっきの行動に感心していた。コイツに感心されたくないでござるが。
もう一人は皮肉めいた発言でクレメンス殿の事を言う。クレメンス殿にとって奴は仇で、最も憎いポケモン。
「っ……、ウィル!!」
「ボルト!」
現れたのは拙者とクレメンス殿がそれぞれ憎んでいる相手だった。特に前に暴走したクレメンス殿にとって不味い対面だ。前のようにならなければいいのだが……。
「……心配しなくてもいいよ。前のように憎しみに飲まれないから」
クレメンス殿はそう言って拙者を安心させようとしたが、歯を必死に食いしばって怒りを堪えていた。暴走はしなくとも戦いに影響はあるのは火を見るより明らか。どう影響するかは分からない以上退くのが吉かもしれない。武士としては恥をかくのが何よりも残念でござる。
「逃げるのは読めてる、諦めろ」
ウィルは拙者の考えが読めており逃がすまいとスプーンを構え、何時でも得意のサイコキネシスが出せるようにしている。向こうはどうやら本気で水晶を奪いに来たみたいでござった。
「例えお前達が俺達から逃げても、"六皇"が三人来てるぜ。果たして逃げられますかねぇ」
ボルトはそこで追い討ちをかけるように、言った内容は絶望的でござった。その三人の内一人はルワールでござろう。しかし、残りの二人は分からない。レオ殿とアルビダ殿が言うにはムラサメというキリキザンも"六皇"の一人にいるとか。まだ、拙者達が知らない"六皇"は丁度二人。可能性は大いに有り得る。
「それはハッタリでござろう」
拙者はここで意味の無いことを敢えて尋ねる。時間を稼ぐのだ。何でも良い、この状況を乗り越える策を考えるでござる。
「ハッタリではありませんよ。少なくともあなたの頭の中で一人確定しているでしょう?」
ボルトはニタニタと不気味な笑みを浮かべながら笑っていた。奴の言う通りでござった。この調子だと埒があかないでござる。
「お喋りはもう終わりだ。貴様等を殺し、水晶を奪い取る」
ウィルは拙者の無意味な時間稼ぎに気付いているのかはたまた苛ついているのか勝負を急かす。戦いは避けれそうにない。
「ゴメン、さっきは気が立っていたよ。もう大丈夫だよ」
クレメンス殿は意を決した表情で拙者に話し掛け、さっきまでの乱れは消えていた。どうやら腹を決めたようでござった。その気なら拙者も腹を決めるでござる。
拙者は二個のホタチでシェルブレードを形成し戦う意志をむき出した。それを見たウィル達は一層警戒し、場が完全に戦闘ムードに突入していた。
「いくでござる、クレメンス殿」
「分かってるよ」
拙者はクレメンス殿に呼び掛け、それから一気に二人で走り出した。先手必勝が大事でござろう。
「シェルブーメラン!」
「砂地獄!」
拙者達は一気にウィル達に先制攻撃を仕掛けた。
この戦いで絶対に―――、仇をとる。
そんな思いを互いに抱えながら。
☆ (レオサイド)
俺達はムサシ達が帰って来るのを待っていた。俺はする事が無く暇だ。こういう時は修業でもしよう。
俺が修業の為に外に出ようとしたらアムネジアとすれ違った。その時、俺は聞きたいことがあった事を思い出した。ルワールから逃げたときの物凄い光の事だ。
「なぁ、アムネジアさん。聞きたいことがあるんだが……」
「オイラにか?何をだ?」
俺は昼間に言われた事を少し気にしながらアムネジアに尋ねる。アムネジアは何食わぬ顔で聞き返してくる。口調とかが案外穏やかで話しやすいもんだ。すぐにタメ口が完全定着しちゃうだろう。
取り敢えず俺はルワールの時の光の事、どうやって此処に来たのか気になったので尋ねてみた。それを聞いたアムネジアは納得がいった表情をしていた。何を聞かれるか予想なんてしていないんだろうか。
「あれは特定の位置を登録して、登録した位置にテレポート出来る"マーキングテレポート"だ。光は発生した時に勝手に出てくる」
アムネジアの返答に俺は仰天してしまった。"マーキングテレポート"なんて聞いたことがない。そんな便利なものがあっていいのだろうか。
「とんでもなくエネルギーを使うけどな。使うと一週間は使い物にならねぇ」
アムネジアはついでにといった感じにデメリットも伝える。そのくらいのデメリットは何となく想像できた。やっぱ便利な物には何らかのデメリットがつくものだ。
ピカッー!
突然俺達の水晶が輝きだした。突然なので水晶の主は皆驚いていただろう。
「誰かが呼んでるのか?」
アムネジアは水晶の輝きを誰かからの救援サインだと思ったらしい。時々、この水晶は多機能な気がする。ただ、アムネジアの言う事に確証は無い。とは言え何か起こっているのは確かなので俺の答えは一つだ。
「俺が試してくる」
俺は意を決してアムネジアに自分が行くと伝える。アムネジアは厳しい表情に変わり、一人は許さないと言いたげだった。
「一人では行くな。信頼できるポケモンがいるから、一緒に行け」
アムネジアはそう一言を残して走って行った。信頼できるポケモンを呼ぶのだろう。一体どんなポケモンが来るのだろうか。
「あっ!レオ……、さっきのは何?」
ここでアルビダが現れさっきの輝きについてと思われる質問をしてきた。夜中にいきなり輝くから聞かれるのも無理はないだろう。取り敢えず分からないと言って、今から様子を誰かと見に行くという事も伝えた
「そう……、分かった。
―――無茶しないで」
アルビダは何となく理解したような返事をして、最後に溜めて心配そうにこちらを見つめる。
「大丈夫だよ、帰ってきたらまた団子でも貰いに行こうぜ」 俺はアルビダに心配かけさせまいと団子の話を持ち出す。まだ何にも分からないし、戦いがあると決まってもいない。
「さて、オイラとテンコとゾロアークのフォックス隊長が一緒に行く。
……そう言えばこの二人を知ってるか?」
「「いいや、全く」」
勿論、アルビダと俺は揃って分からない。アムネジアが護衛の為に連れてきたのは、赤の水晶の主であるロコンのテンコさんと刀を持っているゾロアークのフォックスさん。特にフォックスさんはどういう方なんだよ……。
「じゃあ、自己紹介させて貰うわ。
わかると思うけど、種族はロコンで赤の水晶の主のテンコよ」
「俺は種族はゾロアークで、王様親衛隊隊長のフォックスだ」
二人は分からない俺達の為と思ってか自己紹介してくれた。テンコさんはともかく、フォックスさんは王様親衛隊隊長とは……。要はアムネジアの上司という事だが、よく来てくれたもんだ。
来るのが早かったから近くにいたのかな……?
「さて、行こうか。
心配しなくとも二人はお前達を知ってる」
アムネジアは出発しようとして、少し間を置いて思い出したように自己紹介は不要と告げられる。どうして、そっちは知ってるんだ?
「さて、今度こそ行くわよ」
テンコさんは指揮を高めようと出発を急かす。その言葉を言い終えた途端に三人は走り出していた。
「……え!?ちょ、待て!」
俺はスタートダッシュが遅れてしまい、焦りながらも電光石火で追いかける。コイツ等は護衛するんだよね……?