part2
「ハァ……」
俺は深く溜め息を付く。ムサシの話から皆が皆暗い。
それから、晩飯があったが皆黙り込んで詰まらなかった。
でも、ああいう過去は俺とクレメンスさえも持っている。何故こんな悲しいポケモンが水晶の主に選ばれるんだ。実際は関係ない筈だ。
こんな時にはいつもアユムが話しかけてきたのだが、反応がな―――、……………。
―どうしたんだい?
忘れてた、コイツは幽霊のように俺の周りを漂ってるんだ。話しかけてこなかろうがコイツは俺のすぐ近くにいる。
―今日は僕の正体を話そうかと考えてたけど、そんな場合じゃないね。
やっぱり知っていた、いや嫌でも知ってしまうのか。俺の周りに漂ってるんだから聞こえてしまうんだろう。
しかし、正体とは……。気になってしまうではないか。ただの守護霊だ、とか言い出したらある意味ガッカリだけど。
―僕の正体については東国の事が終わってからにしよう。今は友に励ましするなり行動するときじゃないのかい?
なかなか痛いところをついてくる。確かにその通りかもしれない。
しかし、タイミングというものもある。今すぐとはいかない。落ち着くのを待つか、何か行動を起こすのかサッパリと思い浮かばない。
―あの二人は心の奥底で悲鳴をあげてる。……特に紫の主はね。
コイツの言っている事は事実だ。何にも間違っちゃいない。
だから、だからこそどうすればいいのか分からない。コイツは分かってるのか?
―今は様子を見るんだ。その気になればいつでも励ましの言葉をかけてあげられる姿勢でいないといけないんだと僕は思うよ。
そう、か……。
―君だって未だに心の傷と戦い続けている。本当にそれで……、いいのかい?
そして、今度は俺が持つ憎しみについて尋ねてきやがった。辺り構わず聞くと言うのはどうかしている。聞いて良いことと悪いことがあるのに……。
この質問は今尋ねられても個人的に問題ない。答えは憎い、けど敵討ちをしようとは思わない。何故かする気になれない。
―君は、ちゃんと分かってるんだ。復讐に意味は無いことをね。そんな事は一瞬の快感しか得られないよ。むしろ、人格を壊す要因とも言える。逆に殺人鬼になっている事だってある。罪悪感を抱く云々の問題とかでは無いと思うんだ。
そうか、コイツはちゃんと考えてるんだ。復讐について、自分なりの答えを持ってるんだ。
ある意味羨ましいかもしれない。自分の考えを持ち、それで誰かを励まそうとする事が出来るんだ。
「眠い……、お休み……」
でも、俺は今は眠たい。眠た過ぎて死にそうだ。最近は疲れる事が多いんだからこういう時ぐらいは休みたいんだ、分かってくれればいいな。
―え?ちょ、まっ……。
………まぁいいや。お休み。
★ (アルビダサイド) 翌日
「さて、そろそろ着くころかな」
私はベッドの上で背伸びして脳を覚まさせる。あんまり効果は無いけどしないよりはましだろう。
トントンガチャ。
誰かが私の部屋のドアを開ける。誰が来たんだろう?…………あっ!
「アルビダ、もう着くらしくてさ。準備してくれ」
ドアを開けたのはレオ。何でノックしてくれないのかなぁ……。いきなりでビックリしちゃったじゃない。
「因みに言うが、俺はノックはしたぞ」
なんですと!?あ、そう言えばドアが開く前に何か聞こえたような……。あれはレオのノックだったのかなぁ?
私が少しご機嫌斜めになりがちと思われたのかレオはごめん、と一言言って私の部屋から離れていく。私……怒ってるように見えた?
「アイツはほっといて、……もうすぐ"東国"に着くのね。
山賊や強盗が強いっていうし……、気をつけなくちゃ。
……気をつけるだけじゃ絶対駄目ね」
私は次に着く"東国"が四大大陸で最強だと言うから警戒している。犯罪者の戦闘能力が他三大陸よりも高いらしい。それを補ってか警察といった組織も強いポケモンがゴロゴロいるらしい。
でも、聞くところによるとレオとムサシさんは年の割に一人での戦闘能力は"東国"の平均戦闘能力より高いらしい。オマケに2週間修行して二人とも劇的というかは分からないが強くなったらしい。レオは新しい波動弾の派生形が完成したとか……。
あっ、私も修行したのよ。お父さんにつきっきりで見て貰って。お父さんは疲れて実家にファルコンさんとムードさんに連れて行かれたらしい。お母さんに叱られてるだろうなぁ。
ピンポンパンポン!
何このうるさい音。高い音で少しうざったらしい。
『え〜、只今より"東国"に到着いたしますが少し問題が発生しました』
なにやら船内放送らしい。それよりも気になったのは放送の内容。問題が発生したってどういう事?あとこの声は……バーンさんかな?
『どうやら現在"Samsara"の戦闘員が5人うろついているらしく、面倒なことになりました』
何それ怖い。5人もうろついてるなんてしゃれにもなんない。
『という訳でそれぞれ一人ずつ撃退してくれ。ちょうど修行したお前ら5人の出番だ』
私、バーンさんに10万ボルト打ってくることにしようかな。文句は無い筈だ
★ (レオサイド)
「成程……、丁度良いな」
俺はさっきの放送を聞き終えた後ニヤリと笑みを浮かべながら呟いた。それを見たマロンさんは気持ち悪い、と言って鞭を取り出した。
どうして、俺をいじめたがるんだ?それじゃ雄に嫌われるに違いない。意外と元気だからなによりとも言えるけど……。
ムサシはもう何にも反応していない。いつもの事過ぎて反応に困ってる?
「僕も肩慣らしはしたいし、良いんじゃないかな?」
「実戦で試すのが一番でござるしな」
クレメンスとムサシは今の放送を聞いて嬉しそうにしていた。意外にもクレメンスは穏やかなように見えて好戦的なんだな。
「なんで、あんた達は嬉しそうにしているわけ?」
「男性陣は何で戦いの興奮するのよ……」
一方、女性陣は今の放送を聞いてガッカリとしているようだ。マロンさんとアルビダは溜め息をついている。
「さて、見えてきたぞ。あそこが四大大陸最強とうたわれる"東国"だ。
もちろん、"Samsara"の下っ端だって一筋縄じゃいかなくなるぞ。情報によると"六皇"の次に強い奴らも沢山いるらしい」
それは面白い情報だ。いずれは戦うだろうと思われる"六皇"の面々。まだ二人分かっていないが、関係無い。ただ倒すだけだ。
「拙者達の故郷が見えてきたでござるよ……マロン」
「分かってるわ、もうあんな風にはならない。ここに来るのは恐らくこれが最後ね」
ムサシとマロンさんは自分達の故郷である場所に今近づいている事に改めて実感がわいているのだろう。
しかし、妙に元気になっていたと思ったら…晩御飯の後に何かあったのだろう。心の叫びを抑えているみたいだ。これじゃ、アユムのアドバイスはいらないじゃないか。
「さぁ、行け!お前達の力を見せてやれ!」
バーンがそう言うのと同時に船が"東国"に辿り着く。それを合図に俺達は船の出口へ走る。女性陣も何だかんだ言って戦う気はあるらしい。
俺達は船から出ると空からバーンが呼びかけてきた。
「奴らの種族は"ゴルバット"、"ラムパルド"、"ヒヤッキー"、"アーボック"、"エネコロロ"だ。
ここから西の森に集まってるらしい。急いで蹴散らして来い」
なるほど、もう種族は分かってるのか。楽だな。あんまり油断するのもいけないけど……。
「助かった!行ってくるぜ」
俺はバーンに一言お礼を述べて西の方向へ走りだした。早く蹴散らして水晶の主を探そう。
―レオとムサシ、クレメンスは走り出した時に気づいた。
レオ達が全力疾走で向かっている最中にわずかに気配を感じた。レオは走っている時波動での探知は無理な為、気になったが確かめるのを諦めることにした。
「すごいな、あの3人。オイラが僅かに殺気を出しただけで気付くとはな……、
確かに期待出来るな」
「もう!いきなりそんな事は止めてよ。普通は気付かれないのに気付いたのはすごいけど……。
アムネジア!!」
レオ達から見えないところである2匹のポケモンはレオ達を見ていた。彼らがどのくらいの力量を持つのか確かめるために。
一匹は手全体がほぼ鋭い爪で、本来は赤い模様が入るのだが青色になっていた。爪も朱色らしき色で覆われて、白い毛を体中に纏っている。そのポケモンの種族はザングース。殺気を放ったアムネジアと呼ばれた方だ。
もう一匹は子狐のような容姿をしており、尻尾は九本生えておりその姿はまさに小さな九尾。そのポケモンの種族はロコン。アムネジアに大きな声で注意していた方だ。
「分かった、すまないテンコ。
それよりもこの国から逃げたというあのフタチマルとツタージャ……。特にフタチマルの方は才能があるみたいだな。気になるね」
「ハァ……、まだまだあんたの方が上よ。
それにあんたは記憶喪失なんだから、私に会う前のブラックボックスが私的には気になる。
ところで……、追うの?」
アムネジアがムサシの才能を認めているのに対し、テンコと呼ばれたロコンは呆れながらも追うかどうかを尋ねる。
アムネジアは少し考えて答えを探し始めた。それを見たテンコは怒りが滲み上がる。
「まぁ、お手並み拝見と行こうじゃないか。強いんだろう?
バーンさん、貴方のお墨付きがついてるくらい」
アムネジアはテンコの怒りを余所に呑気に高みの見物を決め込んだ。それと同時にバーンが自分達に近づいている事に気づく。
「あぁ、あいつらなら大分成長した。まだ伸び切ってはいないがな」
バーンは二人の後ろに立ち、レオ達の現状を告げる。最後には少し残念そうだった。
「少し期間が短かったかもな、でも奴らを倒す希望はあるな。
俺とテンコは水晶の主なんだから仲良くしないとな」
アムネジアはそう言って笑った。