part1
今、俺達は船乗り場に居る。
それぞれが2週間の間修行をおこなっていた。俺は皆が何処まで強くなったのか知らない。反対に皆も俺が何処まで強くなったか知ってるか分からない。その実力は東国についたら確かめることだ。
「そろそろ出発ですかね?」
クレメンスが船乗り場から次に来る東国行きの船が来ているか海の上を見ながら言う。その結果は残念ながらまだ来ていないという事でもう少し待ちそうだ。
ここで僕は今回の情報について整理することにした。確か、俺達が修行中に東国に二人水晶の主が居るという情報が手に入った、という訳で東国に行く事になった。そう言えば東国はムサシとマロンさんの母国らしい。訳ありで逃げてきたそうだ。
俺は気になって二人の方を見ると案の定何か思いにふけっていた。マロンはいつものようなきつい雰囲気は出さず心配そうに海の向こうを見つめていた。ムサシに限ってはこれでもかと言わんばかりに殺気が溢れ出ていた。
「何か……二人とも怖いよね、雰囲気が」 アルビダはそんな二人の様子を見て小声で呟く。言うとおりだが少し場所を考えないのだろうか。聞こえていたら傷つくかもしれないのに……。
「聞こえているでござるよ」
「ハッキリとね」
やはり聞こえていたのか、ムサシとマロンはアルビダに注意する。それを聞いてアルビダは今更「しまった」と呟いた。しまったで済むかなぁ。
「マロン、良い機会でござる。
拙者達の過去を話しても……」
ムサシは意を決した表情になってマロンさんに自分達の過去を話してみてはどうか、と尋ねようとする。
だが、マロンさんは海を見つめたまま黙っていた。
そして、やっと何か言う気になったのか口を開く。
「……………そんなこと、勝手にムサシが話してて」
マロンさんは何かを思いながら冷たく言い放った。ムサシはそれを聞くと続きは船に乗った後でござる、といって黙りこくってしまった。
気まずい――、そんな言葉が俺達の頭の中を巡る。どうしたらいいのか分からない。取り敢えずは船の上でムサシの話を聞いてみようか……。
「船がついたぞ」
バーンはそんな俺達を見てか素っ気なく船の到着を告げた。その言葉を聞いてマロンさんは真っ先に船に乗り込んだ。船に乗る間はマロンさんと話は出来なさそうだ。
俺達もそれに続いて船の上に乗る。船に全員が乗ったところで俺達はムサシの周りに集まった。
「俺は席を外させてもらう。
―――いいんだな?ムサシ」
バーンはムサシに睨みながら尋ねる。ムサシは臆せずに構わないでござる、と言った。それを聞いてバーンは自分の部屋へ行くと言い残してドアを開けた。
それを見届けると何やら誰かが居るように見えた。恐らくマロンだろう。勝手に話しといて、と言ってはいたがどうやら自分が聞く気の様である。
ムサシもそれに気づいたのか少し申し訳なさそうな表情になる。いつもは明るいムサシらしからぬ表情だった。
「では、聞いてほしいでござる。
―――――拙者とマロンの悲劇を」
☆
拙者とマロンは昔、東国に住んでいたでござる。互いの父親は主従関係で結ばれていた。マロンの父親が拙者の父上を雇っていたのでござる。
「ハルノブよ、いつも助かる。
護衛させてもらっている事で私も安心して仕事が出来る」
当時、マロンの父親は拙者の父上を護衛のために雇っていたでござる。拙者とマロンは当時はよく遊んでいて、その時が一番楽しかったでござる。
「いえ、此方こそ雇っていただき助かっております」
父上は雇い主であるマロンの父親とは固い絆があったでござる。親同士が仲が良い為に拙者達も気兼ねなくいられたでござる。
ケンカしていた時もあったけどそれを拙者達が見つけると二人ともケンカを止めて何事が無かったかのようにふるまいそのままケンカが終わっていた事もあったでござる。
だが、ある日にそれは突然の崩壊を遂げた―――。
いつものように父上は護衛として屋敷中に目を配っていた。他にも護衛はいるが父上がその護衛の中で一番だったでござる。
ちょうどその頃、拙者は訓練を積んでいたでござる。ただ、父上を超えたいとひたすら願ってまだシェルブレードが出来ない未熟なミジュマルであったでござる。必死にホタチで素振りをしていたでござる。
そして、悲劇は始まったのでござる。
「うわぁぁぁ!」
突如として聞こえる悲鳴。何事かと思って少し声が聞こえた方を振り向いたのでござる。その方向にはあるポケモンが立っていたでござる。
それが、今は"Samsara"の"六皇"の一人であるウィルを始めてみたときでござる。
何が起こったのか、一瞬分からなかったでござる。拙者は武士としての訓練を積んでいた為に死を理解していたので、悲鳴を出したポケモンは殺された事がすぐに分かったでござる。
拙者はただ怖くて逃げたいという本能に襲われた。
「……そこに誰かいる、な」
ウィルはすぐに拙者に気づいて近づいてきた。もうその時は恐怖という感情が拙者を襲っていた。
恐くて恐くて、どうしようもなく動けなかった。死を覚悟していた。だけど死にたくなかった。
「あぁ、いるさ。
拙者がな、お主の相手をしよう」
だが、拙者の父上は良いタイミングで助けに来てくれた。それを見て助かったと安堵して拙者は必死に逃げ出していた。
それが、拙者が見た最後の姿でござる。
暫く逃げているとマロンの父親が拙者とマロンを逃がそうとしていたでござる。
「さぁ、ムサシ君、マロン。この畳の下に通じる隠し部屋に逃げるんだ。
ムサシ君、マロンを頼むよ」
マロンの父親は自らの身を捨てて拙者とマロンを守ろうとしたのでござる。最後に言った言葉の意味はすぐに分かった。
拙者は頷いて畳の下へ通じる隠し部屋へ入ろうとしたでござる。
「があぁぁぁ!」
ここで、不意に野太い叫び声が聞こえた。この声は間違いなく父上の声だった。
でも、ここで止まったらマロンまで死んでしまう。その時はマロンを守るために隠し部屋へ逃げ込んだでござる。
マロンは最後まで嫌がっていた。自分の父親が何をする気か分かっていたのだ。
抵抗するマロンを無理やり隠し部屋に押し込み拙者も隠れた。
隠し部屋の中で拙者とマロンは息を潜めていた。拙者もマロンもただ怯えていた。
「ウグッ!があぁぁぁ!」
それから聞こえてきたのはマロンが最も聞きたくないものだったでござる。
それ以来拙者とマロンは強くウィルを恨んだでござる。
☆
「…………というわけでござる」
ムサシは長々と自分達の過去を語ってくれた。その時はすでに暗い雰囲気になっていた。
「そう、だったのか……」
俺はただしょんぼりとしていた。アルビダもクレメンスも。
「こんな事を聞かせてすまないでござる。
マロンは今になってもそれがトラウマとなっているでござる。拙者はマロンがあんな事になってはいけないから守ってやるんだ、とあの日に誓ったでござる」
ムサシは話を聞かせてもらっていたのにすまない、と謝り自分の決意を述べていた。
「いいえ、こちらこそごめんなさい。
私があんな事言ったばかりにこんな事を言うなんて……」
アルビダは話を聞いて深く後悔していた。
「そうなんだね、僕と同じだ。
幸せは突然崩れ去ったんだ……」
クレメンスも覚えがあるのか自分の事を少し話しそうになったが、悲しそうにしていた。
そう、水晶の主はこのような過去を持つ者がなるんだ。それは消えない限り水晶の主達を縛る強力な鎖となる。
―――正に今の俺達なのだ。
これから会いに行く水晶の主もそんな過去を持っている。何でこうなるんだろう。
これが運命だと言うならば俺はお前を少し許せない。
ただ、悲しかった。
一方、マロンは―――、
『拙者はマロンがあんな事になってはいけないから守ってやるんだ、とあの日に誓ったでござる』
ムサシが言ったあの言葉―――、
「バカ…………」