part8
紫色の光がクレメンスを包み、憎しみから解放されて目覚めると、望んでいた醜い現実だった。
「嫌な現実だ、もう暴走なんて御免だね」
僕はそう言ってボルトの方へ向く。復讐は自分の力で成し遂げると決めた。
★ (レオサイド)
「紫色の光が……」
「あのビブラーバのところから離れていく?」
上から順にアルビダ、俺が今起こっている現象に唖然としている。この行為はあまりよろしくないのは当然で背後から敵が迫っていた。
まぁ、気づいてるんだけど。
俺は気迫を集中させて、背中から空波動を放つ。この技は体のどの部分からでも出せる。突然、空圧が襲ったので襲ってきたポケモンはガァと声をあげながら飛ばされる。
手が一番やりやすいだけで、難しいが体全体からでも出せる。威力はあまりにも分散するから無い。威力として考えていいものか、と疑うほど。
「さて、誰が来たんだ?………、種族は"レパルダス"か……」
俺は取り敢えず後ろに振り向き、襲ってきたのはレパルダスと判断する。理由は見事にも無様な飛びっぷりだから。
「波動弾!」
俺は飛んでいるレパルダスに容赦なく蒼い弾丸を放つ。レパルダスは悪タイプだから格闘タイプの波動弾であっという間に倒せる。ただ、ここで残念なことに気づく。
「隙を見せたな!"蒼の水晶"は貰った!!!」
何というミスだ、と思いながら自分を責める。あのレパルダスは囮だったのだ。一気に何十と倒しても、まだ百以上の戦力がいるのだ。
因みに迫っているのは"ヨルノズク"という種族だ。大した攻撃能力は無いが使ってくる技はトリッキーだ。催眠術なんてもっての外だ。
「レオ君!君はじっとしてなさい!!」
突然、罵声なのか助けなのか分からない台詞が聞こえてきたが気にしない事にしなくては……。どうやらマロンさんが助けてくれるようだ。
何をするのか気になって、マロンさんを見てみると背筋が凍る気分に襲われた。マロンが持っているのは異様に長く細い鞭だ。ツルの鞭ではなく本物で叩くらしい。よく見ると先っちょだけ丸くなっていた。
「はぁ!」
マロンさんは勢いよく鞭を振りヨルノズクに攻撃する。この攻撃は技ではないのでタイプなど関係無く強打を打ちつけられそうだ。しかし、モリの様に剣とかで無く鞭とは……、さすがに拷問に磨きがかかり過ぎだ。
ヒュンッ!!
鞭は大きくを音を立ててヨルノズクを襲う。鞭に気づいたヨルノズクは少し青ざめた表情をする。
バシーンッ!!!
時すでに遅し、ヨルノズクは腹に鞭の先が当たっていた。ご愁傷様と何故か言いたくなった。ヨルノズクは勢いよく地面に落下し倒れる。
「あら、もう倒れちゃったわね。もう少しやりたかったのに」
「マ、マロンさん。それじゃ悪魔……」
マロンさんは倒れるヨルノズクを見て残念がりながら鞭をしまう。それに対しアルビダは呆れ、恐怖していた。
「あ、そうだ!ここからならあのエレキブルから離れているから、もうやっちゃおうか」
アルビダはそう言ってほっぺから電気をバチバチとさせる。放電で一気に片付けるつもりだろう。
「放電!」
アルビダとは容赦なく広範囲に電気を放つ。避雷針は片づけた。ボルトとかいうエレキブルも遠くに居る。これでいい流れに持っていける。
『シビビビビレレレレレレ』
この攻撃に下っ端の約八割はアルビダの放電をくらって苦しんでいた。その光景は俺のトラウマだ。あいつを怒らせたばかりに……、今日は俺のトラウマが多数登場するな。
「さて、一気に片付けるぞ!」
イナズマさんはその台詞を言い終えてから、体中から電気を放出した。
「"エレキバースト"!」
技名を叫んだ後にもの凄い電撃が下っ端達を襲う。この電撃にさっきは逃げ切った2割も電撃の餌食になる。さっきから何もしないと思ったらこの為のエネルギーを溜めてたのだろう。
これによって、下っ端は全滅した。しかも、綺麗にボルトには当たっていない。これでいける!
★ (クレメンスサイド)
「さて、残りはお前だけだね」
僕はそう言って、ボルトを睨み付ける。ボルトはそれを聞いて苦虫を噛み潰した気分だろう。まさかこんなに簡単に不利になるなんて初めから思っていない。
「チッ!戦って勝てる集団じゃねえな。
じゃあ、戦略的撤退としますか」
ボルトは状況を見て勝てないと悟り撤退の意思を述べる。カッコ良く言ってるけど要は逃げるだけである。
しかし、この状況から逃げ切ることすら難しい筈だ。11対1なんて囲まれたら終わり、エレキブルには飛び抜けた素早さはない。
ただのハッタリか、それとも本当にその手段が残されているのどちらか。どっちだろうと囲んで更に重圧をかけるのみ。
「さて、お前には"Samsara"の情報を吐いて貰わないとな」
リオルの子は冷静にボルトを睨み付けながら、手を蒼く光らせていた。その行動は"抵抗するなら攻撃する"というものに違いない。普通のリオルより波動を扱うのが上手いのだろうか。
だがボルトは余裕そうに佇んでいた。
「フフフッ、アッハハハハーー!
それで俺を捕まえた気かね?……ならば見せてやろう奥の手を!」
ボルトはそう叫ぶと同時に青色の球を取り出し、下に投げつけた。その球体は地面に叩きつけられると簡単に割れて眩すぎる光を放つ。これは探検家が使う"光の玉"だ。効果はその名の通り、光を発する道具だ。
「何てベタな奥の手だ。
でも……、僕には通用しないよ!」
僕は何をするかはあの青色の球を持っていた時点で分かったため目を閉じていた。それでも、厳しいけど直接くらうよりは断然良い。
「逃がすか!……ってあれ?いない!?」
僕は逃がすまいと砂地獄を放つ準備をしていたのだが、もうすでにボルトは逃げ出していた。いくら何でも速過ぎる。
「何て事だ、あいつ瞬間移動でも出来るのか!
波動でも捉えきれないなんて……」
リオルの子は悔しそうに呟いていた。その口振りからして何が起こっているのか分かっているみたいだ。
暫くして他の皆も目を開けた。してやられたのだ、皆が皆悔しそうにしていた。
「キィー!悔しいザマス!」
一匹だけ声に出して悔しがっているが、僕は正直五月蝿いと思った。
そんな雰囲気である僕達に思いがけない事が起こった。
「大分、遅かったみたいだな」
「そうみたいだな、チッ!」
聞いたことない声が聞こえてきたのだ。僕がその方向を見ると飛行タイプのポケモンが二人いた。種族はリザードンとムクホークだ。
「とは言え、無事水晶の主を見つけられた。
まずは及第点だな」
そう言ったのはリザードンだ。声は最初の方と同じだった。ということは、後者の声はムクホークだということだ。
「バーン!ファルコン!今頃来たのか!久しぶりだからって……迷惑をかけ……」
「迷惑をかけているのは貴方です、イナズマさん」
イナズマと呼ばれたライチュウは怒鳴りつけようとしたが、リザードンに逆に叱られた。
見たところ、イナズマというライチュウは一応あのリザードンより身分は上だが、少し残念らしい。
「小基地で合流する予定だった筈なのに、すっぽかした挙げ句レオ君と御自身の娘さんを水晶遺跡に連れ出して此方を戸惑わせた。
そんな事ばかりだから、副司令に嫌われるんですよ……ハァ…」
長々とリザードンはイナズマに叱りつける。言い終えた後には溜め息をついていた。
「グッ!……す、すまないバーン」
図星だったらしく焦っていた。しっかりしない上司を持つと部下にはストレスが溜まる。さっきの溜め息は正にそれの現れだ。
僕も気をつけよう。
「まぁ、あんな二人は気にすんな。
簡潔に問うけど、水晶伝説は知っているか?」
僕がそんな光景に呆れているところに、ムクホーク−消去法でファルコンさんは僕に水晶伝説を知っているか、と尋ねてきた。
「えぇ、簡単に言うと空間の神のパルキアを人間が乗っ取ってアルセウスに勝負を挑み、負けたが今度はアルセウスの力を手に入れてこの世界を創り替えようとしたんですよね?最終的にはその力を"7の水晶"に封印したんだったかな?」
僕はうろ覚えな記憶から精一杯に情報を引き出し答える。あまり一般には広まっていないので、実際これが本当か分からない。
「大体合ってる、なら話は早い
彼処にいるレオ君達と旅に出ないか?」
ファルコンさんは突発的に僕を旅に誘う。この言葉を聞いて僕は驚いた。
「お主が水晶の主でござるか?」
突然の誘いを受けている僕に追い討ちをかけるが如くにフタチマルが問い掛けてくる。ちょっと待って欲しいものだ。
「スイマセン、この馬鹿はいつもこんな感じなもんで……、私はマロンといいます」
戸惑う僕を見て何とかはぐらかそうとしたのか、ツタージャのマロンはフタチマルを馬鹿と罵りながら自己紹介をした。
「すまないでござる。拙者はムサシと申す」
ムサシと名乗るフタチマルは先程の事に謝りながら、自己紹介していた。
マロンにムサシか、覚えておかなくちゃ。もう決めたしね。
「えぇーと、俺も自己紹介しなきゃな。
俺はリオルのレオだ、宜しくな」
「私はピカチュウのアルビダです、宜しくお願いします」
マロンとムサシが自己紹介したのに続き、リオルのレオとピカチュウのアルビダが名乗った。口振りからして、僕はもうすでに旅に同行する前提みたいだ。
まぁ、同行するつもりだけど。あと、皆が名乗り上げたんだから僕も名乗らないと……。
「僕の名前はクレメンス。
此方こそ宜しく!」
こうして、僕には思いがけない形で仲間が出来た。
「よーし!今日は休むとして、明日から二週間特訓して貰うぞ」
バーンさんのこの言葉を聞いて4人はぐっと疲れたような感じになっていた。
僕はそれを見て苦笑いする。これからは楽しそうだ。