part7
「なんだあれ!?」
「水晶が黒く輝いている……」
俺達は衝撃的な光景を目の当たりしていた。水晶の黒い光にあのビブラーバがのまれてしまった。
それからは禍々しい波動を感じていた。嫌な予感がする、としか言いようがなかった。
「まさか……」
その光景が何なのか心当たりがスイクンにはあるらしい。考え込んでいた。
だが、その背後には"Samsara"の下っ端達がスイクンを狙って攻撃しようとしていた。
「あ、危ない!スイクン様!」
シェイドはスイクンが狙われているのに気付いたのか声をあげる。それによってスイクンは攻撃に気づいたが、避けるのは難しい。思わずスイクンの口からしまったという言葉が出た。
迫っているのは葉っぱカッターという技だ。この攻撃だけでスイクンがやられるとは到底思えないが、もしも隙が出来た時は集中攻撃でも喰らいかねない。
ボォッ!
だが、そんな心配をよそに大の字に広がる炎がスイクンに迫る葉っぱカッターを焼き払った。
バーンかエンティだろうか、と俺は思ったがそれは無いと踏んだ。威力が弱い。ただそれだけで。
「ハァ…ハァ…、だい…じょう……ぶ…ですか?スイクン様」
大文字を放ったのは戦う前に見た大分傷ついていたアブソルだ。
見るからにボロボロでよく大文字なんて撃てたものだ。心配すべきは自分の身でなくてはいけないのに……。
「シックル!無茶をしないでくれ!……俺に心配をかけないでくれよ……」
シェイドはシックルに対して心配の意思を示す。この二人は深い関係なのだろうか、若干顔が赤い。
「今度はお前たちが隙だらけだぜ!」
大軍の中のウツボットが葉っぱカッターをシェイド達に放とうとする。
「させるか」
俺は電光石火でウツボットの腹と思われる部分を攻撃する。
この攻撃で大分隙が生まれる。戦いの基本とも言える基点作り。勿論そのまま大技を叩き込むつもりだ。
「"螺旋波動"!」
俺の技でNo.2位の威力を誇る螺旋波動。効果は今一つでも、関係ない。
「ぐうああぁぁぁ!」
突然、叫び声に近い声が聞こえた。最初はウツボットの声だと思ったが、違った。
声の正体はあのビブラーバだった。身体は黒いオーラに包まれている。
あのビブラーバから、ドス黒い波動を感じた。それと同時に不安定な波動を感知した。
「こりゃあ、恐ろしいな。食らう攻撃によっちゃあ……、死ぬな」
「"竜巻砂漠"!」
ボルトの台詞通りになるのか、ビブラーバは砂地獄らしき技を作った。
その技は普通よりも大きく風のスピードが速くなった。ビブラーバで作れる技の域を遥かに超えているのは明らかだった。
「なんだこりゃ、まるで小さな砂嵐じゃないか」
オマケにエネルギーの大きさは半端じゃない。これが当たれば死にかねない。
「シネ」
ビブラーバは言葉が上手く言えないのかカタコトになっていた。もしかしたら上手く喋れた方かもしれない。
ボルトは危機を察知してすぐに距離をとった。見るからに地面タイプの技、ボルトにとってくらっていけないのは当たり前だ。
逃がすまいと思ったのか、まだまだ大きくなる小さな砂嵐がボルトに放たれた。
距離をとったお陰でボルトは難なくかわした。ただ、避けられたことによって此方に砂嵐が来ることになった。
「マズい、速く離れるぞ!あれは水晶の力で破格な力を得て次元を越えている!」
ライコウはあの技が来るのに気がついて避けるために走り出した。まぁ、見るからに電気タイプだから当たり前だな。
『逃げろ!』
勿論、俺達も意見がピッタリと一致している。幸い距離がボルト以上にあるから逃げ切れる。
俺達は何とかあの技に当たらずに済んだ。そのまま、雑魚共に当たる。何かうまく利用出来たし結果オーライか。
俺はそんな風に思いながら振り向いて見ると、そこには地獄が広がっていた。
「助けてくれー!」
「止めてくれ!」
「こ…、殺され……ぐうああぁぁぁ」
「こ、コッチに来るな!バケモノがあぁぁ!」
聞こえてきたのは30以上のポケモンの悲鳴。
更に、この技の恐ろしさを示すかの様に大量の血が飛んでくる。
あくまでも砂地獄なので、竜巻の表面は砂で覆われている。だんだん、表面の砂は赤い砂になっていった。
「な、なによ……、これ。水晶はあんなに恐ろしいっていうの!?」
アルビダは目の前の光景にただ恐怖を感じた。
そう感じているのは他の皆も例外なくだった。
憎しみによるものなのだろうか、アルセウスが言うには水晶には憎しみが詰まっているというからこの理由と考えてよさそうだ。
そうならば、あの黒いオーラ、邪悪な波動も憎しみから生まれていると考えられる。
暫くすると竜巻が収まり、30以上のポケモンが地面に落ちる。その殆どが、血まみれになっている。何が起こっているのか疑問が浮かんだ。
その答えはすぐに分かった。竜巻が完全に消えると同時に黒い竜が現れた。
その竜の口は赤い。噛みついたり或いは食べていたのだろうか。ここで俺はさっき聞こえた悲鳴にバケモノと言う単語があったことを思い出した。
「成る程、第二の創造神の七分の一程の力はある。すべて集まれば我らの理想郷が出来る」
ボルトはこの光景を見てなにやら呟いていた。言っている事は奴らの計画なんだろう。これで、7分の一という事は第二の創造神の力はどれだけすごいかよく分かる。
「こりゃ、ますますお前らに水晶を渡す訳にはいかないことになったな!」
俺はそう言って、ボルトとビブラーバの居る方向へ走っていった。あのどす黒いオーラを纏ったからには取り除かなくてはいけない、本能がそう語っていた。
―突然で悪いけど、彼を救う方法はあるよ。紫の水晶の主が居ないと駄目だけど……
不意にアユムが俺に話しかけてきた。その内容は間接的にマロンがいないと駄目と言っている。水晶ごとに何か違いがあるのか?
―彼女はまだ目覚めないのかねぇ……、面倒なのに
アユムは面倒だ、という事で何もしようとはしないらしく声の調子が少しだらけていた。もしかして、コイツにも止める事が出来るんじゃないんだろうかとおもわず思ってしまった。
カァァ!
すると、紫色の輝きが出てきた。何処からというと、マロンの水晶からだ。
「何これ!?」
マロンは当然驚いている。何が起こるのか、そう言いたげな不安そうな表情をしていた。
何が起こったかというと、紫の水晶から紫の球状の光が出てきた。一体あの暴走に何の関係があると言うのか?
そんな事を考える間に紫の光はビブラーバを包み込んでいた。
★ (クレメンスサイド)
僕は気がついたら紫色の空間にいた。
さっきまで僕は暗く怖いところにいたはずだ。オマケに謎の声も聞こえてこない。
「やっと目覚めましたね」
不意に聞こえてきた声はどこか暖かった。優しい声だ。
「どうやら僕を助けてくれるみたいだけど……、姿が見えないなぁ」
僕は声を出したのが誰なのか分からずさっきから周りを見渡しているのだが見つからない。360度内のどこを見ても。
「私には実体はありません」
「なる程、じゃあ名前は?」
「名前はまだない、と言っておきましょう」
僕は少々やりづらいと思った。
"まだない"とは狙っているような表現ではないか、と小声で呟く。
「強いて言うならば、私は"紫の水晶"にのみ宿る見張り役といった者です」
「へぇ〜。見張り役というのは、これが仕事なんだろうけど……なんで、紫にしか宿らないんだい?」
「エネルギーの関係上見張り役は私だけでございます」
「そうなんだ、何となく分かったよ。速く僕を戻してくれないかなあ」
僕は紫の精(名前が無いみたいだからこうよぶことにした)と何となく話す。暇だから、という理由で。
「あなたの水晶は暴走していらしてました。ですので、今は憎しみを抑えています。すぐに終わるとはお思いますが」
「そうか、次に暴走しないように工事までするんだね。抑えるだけじゃないんだ」
僕は紫の精と再び会話を交え、ありがとうと伝える。それに紫の精は「どう致しまして」と答える。気がつけば最初に感じたやりづらさは無くなっていた。
しかし、憎しみを抑えるというのは気になる。"7つの水晶"が憎しみを動力源にして、動いている様な気がした。
「………、終わりました。今すぐにでもあなたをいるべき世界に戻しましょう」
「それは良かった。今すぐ準備してくれ」
僕は紫の精が言った言葉を聞いて取り敢えずといったつもりで返事をする。
「既に準備は整っております。今からでも意識は戻ります」
紫の精がそう言った途端に、この空間の紫が薄くなっていった。本当に準備は整っているみたいだ。
「気がついたらボルトにやられているなんてないよね?」
僕は無性に気になっている事はこれだった。
起きてみたらボコボコにされているなんて最悪でしかない。
「そのような心配はございません。守られていますので」
僕のしていた心配は無いようで、紫の精は率直に返答する。
「あなたは水晶の主です。この水晶を操るために、必要な憎しみを持つあなた達は水晶の憎しみに捕らわれると、ご愁傷様です」
「そう、ですか……。次会うことが無ければいいですね」
次に暴走するような事にはもうなりたくない。
でも、何故こうなったのか全く覚えていない。これでは、またなりかねない。
しかし、今考えても無意味だ。自分ではわからない、ならば誰かに聞くしかない。出来れば今教えてほしいが。
「では、いきます。
くれぐれも、生命が始まりに戻ることの無いように」
紫の精はそう言って完全に消えた。それと同時に僕の意識は現実に戻っていった。
紫の精が最後に言った言葉に疑問を抱きながら。