part6
俺達は今"Samsara"と思われる集団と戦闘している。とにかく遺跡に被害が出ないように注意しないと……。
「我ら"Samsara"の力を見せつけるぞ―!!」
『おぉー!!!!』
いや、確定した。下っ端達が言ってくれたし、もう戸惑う必要は無い。全力で倒していくだけだ。数対質……、まさにそんなところだろうか。
「アルビダさん、"放電"は厳しそうです。あのボルトとかいうエレキブルは特性電気エンジンでしょう。下手に打ち込むとボルトを早くしてあのビブラーバを追いこむだけです」
シェイドはアルビダに忠告する。それを聞いて俺はあっ、と言ってしまった。あまりにも派手な大群の前に冷静な判断が出来ていなかった。大群の中にサイドンが居た為に先にそいつを倒してアルビダにぶっ放すつもりが……、危険を生むところだった。
「シェイド、コツコツと倒すしかないのか?」
俺はシェイドに尋ねる。さっきの言い分からして他に方法は無い。もう、これしか方法は浮かばないし……、でももしかしたらあるかもしれない為に尋ねてみた。しかし、案の定ないと返ってきた。これは骨が折れそうだ。
「熱湯!」
「10万ボルト!」
「火炎放射!」
俺が悩む間にこの遺跡の主達は行動に移していた。それぞれが放つ技の威力はどれも高く、一撃で二、三人倒していった。これから見て俺の心配は杞憂だったみたいだ。これならイナズマさんの言うとおり質でも十分押しぬける。因みに倒れた中にサイドンが居た為避雷針の心配はもう無い。
「さて、我らも負けてられないな」
イナズマさんは三犬の猛攻を見て闘志に火がついたのか、ほっぺから電撃をバチバチとさせていた。俺も負けじと波動弾を作り準備を整える。アルビダもイナズマさんと同じくほっぺを電撃でバチバチとさせていた。シェイドは構えをとり戦闘態勢をとる。
「波動弾!」
「「10万ボルト!!」」
「大文字!」
俺達もそれぞれ遠距離攻撃で大軍を迎え撃つ。俺達は三犬の様に二,三人倒すとはいかず、一人ずつだが倒していった。これで既に十人以上は倒したが、まだ290近くまで残っている。面倒である事に変わりは無い。
「ぐぁ!」
しかし、急に大群の中の一人が謎の木枯らしによって倒された。この技は確か……、グラスミキサー。まさか……、思ったより早いみたいだ。
「助太刀でござる!!」 不意に大声で聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は間違いなく、俺達の仲間で最も強いアイツだ。
「お前達!あとでお仕置きザマス!!」
次に聞こえてきたのは内容的に頼りになるのかどうか分からない。場を見て言葉を選んでほしいものだ。
この発言にアルビダとイナズマさんは苦笑いしている。無理もないけど……、何気に親子そっくりだ。
「今はこの状況を打破するのが先よ」
冷静に状況を分析し、先の二人に呼び掛ける。やっぱりいざという時は頼りになる存在だ。恐怖を植え付けられたが……。
「ムサシさん!ムードさん!マロンさん!」
アルビダは良いタイミングで来た助太刀に喜びの声をあげる。今ほど仲間が欲しい場面はそうそうないものだろう。俺だってうれしい。
あれ?バーンさんは?ファルコンさんが居ないなら分かるけど……、呼びに行ったのだろうか。それなら残念だ、一番来て欲しかったのに……。
「さて、行きましょう。まずはこの下衆を全滅させますよ!!!」
『おぉーー!!!』 俺達はスイクンの掛け声とともに一気に突撃していった。
それよりも………、見た目に似合わない言葉を使うなぁ……。
★ (クレメンスサイド)
「おやおや、五月蠅い叫びをあげますねぇ。さっさとその水晶を回収しちゃいましょう」
ボルトは薄気味悪い笑みを浮かべながら僕を睨む。拳が冷気に満ちていて、早いところ僕を倒してしまいたいらしい。冷凍パンチを打つ気満々だ。どう使うかは予測できないから恐ろしい。
「そう簡単にできるかな!」
僕はボルトに先制攻撃を仕掛ける為に接近する。
「まさか本気で"Samsara"の六皇である俺を倒すつもりか?笑わせてくれるねぇ!」
ボルトはまだ僕が攻撃していない内にそんな事を言った。舐めやがって、と怒り出しそうになったが我慢だ。冷静にいかなくては。
ボルトは案の定と言うべきか冷凍パンチを僕に放ってきた。当たれば勝負では大惨事に至るがそんな単調な攻撃など僕には辺りはしない。
僕は冷気のこもった拳を避けて反撃の準備に出る。砂地獄を当てたいところだが警戒されているだろう。この技で仕掛けに行こう。
「うりゃあ!」
僕は勢い良くボルトに突進して行った。技の突進ではない。それをボルトは難なくかわした。僕の狙いはここからだ。ただのタックルなどコイツに通用しないことなど分かり切っている。
「ふん、威勢はよし。だが攻撃自体が他愛もな…………ぐっ!貴様、どこから」
ボルトは余裕の一言を言おうとするも、僕の騙し討ちをくらっていた。僕だって強くはなっているさ。
不意打ちのためかボルトは少し痛そうにしていた。結構本気でやった為もう少しダメージを受けてくれればよかったのだが……、まだレベル差が大きいのか?
「そうか……、貴様の父親も同じ技を使ったな。もしや、俺に無惨に殺された父親の戦術で俺を倒そうとでも?フッハハハ」
ボルトは僕の行動に気づき、それを嘲笑う。その姿はいつ見ても怒りを募らせるばかりだ。今思えば父さんと母さんを殺した時もそうだ。
「いい加減にしろよ。僕の父さんを馬鹿にするな。あと、お前は母さんまで殺したんだ。忘れたというのか!?」
僕はさっきから母さんの事にまるで触れず少しイラッと来ていた。
ボルトはそれを聞いて少し考えだした。ちょっとした後に何か思い出したような表情をする。
「あぁ、いたな。そんな奴、悪い悪い忘れてたわ!思い出した、思い出した。
呆気無く死んでいったあの雌のフライゴンか」
僕の質問に対し、ボルトはワザとらしく答える。なんて奴だ……。小声で言った言葉も聞こえてきた。
こんな外道、今すぐ倒してやりたい。絶対に倒したい。
「そうかい、だったらここで!お前に復讐するだけだ!!」
カッ!
僕の怒声と同時に水晶は輝きだした。オマケに黒いオーラが出て来た。
しかも、力が湧いてくる。
これなら!いくらでも……アイツに………
『フクシュウデキル』
僕は同時に水晶から出て来る黒いオーラに包まれた。
別段、怖くは無かった。
何故だろうか?
もしかしたら、恐ろしい事の始まりなのかもしれないのに……、
あぁそうか。僕は分かってるんだ。
『フクシュウデキルコトガ』
分かった途端、僕の目の前は真っ暗になっていた。
そこは寒くて、孤独で何にもなかった。
此処はいったい……。
ブルブル!
『コワイノカ?』
僕の体は震えていた。本能で此処が恐ろしいと分かったのか?
その時から、僕はさっきまで復讐しか考えてなかったのに、此処が途端に怖くなった。
嫌だ、こんな場所。
誰か……、助けて……。
★ (バーンサイド)
俺は今南国の小基地に居る。アイツに水晶遺跡に行く様に呼びかけるためだ。
「ファァ……、バーンさん、何故今から水晶遺跡に?」
眠そうにしているのはムクホークのファルコン。俺に呼ばれたと知ると、飛んでコッチに来た。
「今な、……レオ達が(以下略)」
俺はファルコンにどういう状況か説明した。それを聞いたファルコンは素っ頓狂な表情をして驚いた。
「い、今すぐ……、い、行かねえと!」
ファルコンはふるえ声で慌てだした。無理も無い。今は一時的に辞めているが、現在の幹部を含む"導きの六柱"の一人だ。その副リーダーだったイナズマさんが此処に来ているのだ。
「さぁ、速く行くぞ!」
「言われなくても分かってます!」
俺が呼び掛けると、ファルコンはさっきの眠気を感じさせない威勢の良さを発揮した。珍しく口調が丁寧なのは気のせいだ。
早く行ってレオ達を叱ってやらないと……、そんな気持ちが俺の中にあった。
この時までは。次に起こることで完全に消え去った。
フォン!
「この波動!まさか……」
俺は途端に嫌な予感がしたのだ。理由は言うまでもない。ついさっき感じた邪悪な……いや、憎しみを感じたからだ。これは昔アルセウス様から聞いたアレに違いない。急がないと……。叱るどころじゃない、緊急事態だ。
「ちょっ、バーンさん!!どうしたんだ!?急に慌てだしてよぉ!!」
ファルコンは俺が慌てているのを見ると何なら心配そうにこっちを見ていた。まだコイツはあの水晶の恐ろしさを知らない。知るにはいい機会ともいえるが実際に起こる事はそんな悠長に言えない。
「ファルコン、急ぐぞ!このままだと死者が沢山出る!!」
「なっ!?それはいったいどういう事………」
ファルコンの今の表情は驚きという一言がお似合いだ。無理もない、いきなりそんな事を言われたのだから。
俺は見るのは初めてだから……少し恐怖を感じる。恐らく、知らない奴は間違いなく恐怖に包まれる。特に水晶の主は……。
俺とファルコンは急いで羽ばたいた。目指す場所は言うまで無く水晶遺跡。出来るだけ早く……、いや何が何でも早く行かなくてはいけない。
「それよりも、一体何が起こったと言うんですか?」
ファルコンは俺と一緒に飛んでいる最中に何が起こっているのかと尋ねる。ファルコンにとっていきなり突きつけられたともいえるのでちゃんと説明しなくてはいけない。
「今起こってるのはなぁ……、
水晶が……、暴走したんだよ!」