part5
俺とアルビダは迫ってきた大岩を壊し一仕事した気分に何故かなった。まだ、目的を達成してはいないけどな。水晶の主が此処に居るかもしれないのだ。
「アルビダ、レオ君!取り敢えずこっちに戻って来い!近道を案内するから!!」 いつの間にか有頂天じゃなくなったイナズマさんは若干怒声混じりに俺達を呼ぶ。当然のことだ、アルビダの勝手な行動によってこうなったのだ。
「お父さん、そう言えばさっきから気になったんだけど……。前に此処に来たことがあるんだよね?言い分からして間違い無く」
さっきの騒動の原因、アルビダは何事も無くイナズマさんに問い掛けた。その内容は珍しくまともな気がする。マロンさんと同じ位。
「そりゃ〜、此処の主−、三犬とは古くからの友でな。偶に遊びに来るんだ。ハハハハハッ!!」
イナズマさんはそう言って豪快に笑う。遊びに来られる位なら帰ってきてやれよ、と思ったのそのすぐ後のことだ。アルビダも絶対同じ事を思ってるに違いない。
「さて、早く行きませんか?近道があるなら尚更」
俺はイナズマさんに早く行く様に急かす。理由は簡単、水晶の主が此処に居るかもしれない。奥地に居るかもしれないし、居ないなら待っていればいい。
「待て待て、そう急かすな。目的地まであっという間に着くからな」
イナズマさんは急かす俺に背中を向け、何かを探し出した。秘密の入り口があるんだろう、と言うかそれぐらいしか近道が思いつかなかった。
直ぐにイナズマさんは何か窪みらしき所をを見つけられたようで、顔は笑っていた。見つけた後は何か窪みを押し出した。見破られ易くは無いだろうか?この仕組み……。
ピンポーン!
壁から何か遺跡に似合わない音がした。まぁ、近道への道がこれで開けるということだろう。音はおかしいけど。
そして今度は壁が扉の様に開き始めた。その先には白いポケモンが一人、種族はアブソルだった筈だ。この遺跡の主だろうか。
「お待ちしておりました、イナズマさん。三犬様達がお待ちです。後……、そちらの方々は……どなたですか?」
出て来たアブソルは低い声で丁寧な出迎えをする。俺とアルビダの事を訪ねる。俺はカバンから"蒼の水晶"を取り出す。
「俺はレオ、"蒼の水晶"の主だ」
「私はイナズマの娘のアルビダです」
俺は取り出した"蒼の水晶"をかざしながら自己紹介をする。アルビダはイナズマさんの娘である事を踏まえて自己紹介する。
目の前のアブソルは俺達の自己紹介を聞いて心底驚いたらしく、キョトンとしていた。特にアルビダの自己紹介は驚いた筈だ。
「これはこれは、水晶の主様とイナズマさんの娘さんとは……、お見逸れ致しました。
自己紹介がまだでしたね。私の名はシェイドと申します。では、案内しましょう」
シェイドと名乗るアブソルはそう言って、近道へ向かう。それに続いてイナズマさんは歩き出した。俺とアルビダもそれに続いた。
勿論、近道とは言っても何分かは時間がかかる。暫くは暇になりそうだ。
★ (クレメンスサイド)
「お主は水晶に導かれてきたのだろう?だからこそここに居る……、違うか?」
エンティは奥地へとたどり着いた僕に自己紹介が終わってすぐ後に尋ねてきた。僕はこれまでを思い返すと意外とそうでもない気がするが取り敢えず「はい、その通りです」と返す。
「では、お前は水晶伝説をどこまで知ってる?」
今度はライコウは僕に水晶に関する事を質問する。足りない部分があれば補足してくれるだろう、正直に話してみよう。
「確か〜、人間を別世界に閉じ込めた辺りまで……」
僕は思いだせる限り絞った。あまり情報が少ないが伝説でも重要な部分だ、分かってくれるだろう。この知識はお父さんが教えてくれたものだ。曰く、一般には知られていないらしい。そもそも一般的にこの伝説の存在自体が怪しいというのが現状だからあまり問題ではない。
「どうやら、話は分かってるようですね。助かります。では、今回なのですが……、貴方はギラティナというポケモンをご存知ですか?」
「ギラティナですか?……いえ、知りません」
スイクンは僕がある程度走っている事にホッとしながら次の話題を持ちかける。ギラティナ?どんなポケモンだろう?取り敢えず知らないという事だけスイクン達に告げた。
「そうですか……、ではお教え致しましょう。まずは、反転世界をご存知ですか?」
「反転世界ですか?確か……、この世界をバランスよく支えるために存在する世界、いわゆる裏世界だから反転世界というんでしたっけ?噂では反転世界を守るポケモンがいると聞きますが……」
僕はまたも持つ限りの知識を引っ張り出してスイクン達に答える。藩士の流れからして反転世界を守るポケモンはギラティナだろう。でも、それが今回の水晶を巡る争いにどう関係が……?
「すげぇ知識じゃねぇか!そこまで知ってるなら話はすぐに終わるな。長話は嫌いでな!助かるぜ!!」
僕が反転世界についての知識を答えた後にライコウは何故だかテンションを高くして僕を褒め……ているのか?内容は本音丸出しだし……、大丈夫なのか?
「ハァ……、ライコウ。お主は言葉を気をつけたらどうだ?まぁ、話が早く終わって楽だというのは分かるが……」
エンティはライコウの本音を見て呆れながらも自分も少し本音を漏らす。まぁ、誰だってそうだね。大丈夫か、と疑った僕がいけなかったんだきっと。
「……、御気になさらずに。本題ですが……ギラティナ様は反転世界を守るポケモンですが……、急に行方不明なったのです」
スイクンは二人の様子を見て呆れながら僕に話を続ける。どうやら、一番まともなのはスイクンみたいだ。エンティも充分まともだけど……。
それよりも、行方不明って……。反転世界は現実世界を支える役目があるのだ。その世界を守るポケモンが居なくなっては世界は大変な事になるはずだ。だけど、今ところそれらしきことを聞いた事はない。まだ、大惨事になっていないという事か?
「ギラティナ様はあくまで反転世界を"守る"為に居ます。居なくても反転世界は機能します。しかしながら、居ないという事はおかしい。そこで、私達はある可能性に辿り着いたのです」
スイクンは淡々と説明を進めながら最後には何か気になる事を口にした。ある可能性とは……?
「ギラティナ様は人間によって乗っ取られたのです」
「何だって!?」
スイクンが突然告げた内容に僕は驚きを隠せなかった。人間は人間はこの世界とも反転世界とも違う世界―、第3の世界に閉じ込められた筈だ。どうやってこの世界に干渉できると言うんだ。
「そこから先は私が話そう」
いつの間にかエンティが割り込んできていた。ライコウはダルそうにしている。
「反転世界は人間世界だって支えている。つまり、間接的にもこの世界に繋がってるんだ。人間達は反転世界に入り、ギラティナ様の体を乗っ取り行方を晦ました。ギラティナ様は反転世界から人間世界にもこの世界にも入れる。逆も然りだ。奴らはこれを利用して沢山のポケモンを乗っ取ってこの世界を征服する気だ」
エンティから告げられた内容はスイクンのそれを軽く越していた。でも、まだ人間がこの世界を征服するなんて決まった訳ではないのでは無いだろうか?
「わざわざ、ご説明するなんて暇なもんだねぇ。我々をつぶせばいいものを……」
不意に後ろから声がした。僕は振り返ってみると、よく見覚えのある奴がその場に立っていた。そのポケモンは黄色い毛に黒い模様背中にはコードのようなものが生えていた―、種族はエレキブル。その後ろには大量の部下達が居る。
「まさか、あんたが直々に俺のところに来るなんてね。ボルト!!」
僕はスノウに対して戦闘態勢をとる。しかし、無謀に程がある。スノウの後ろには300もの部下達が居る。物量的差で僕達に勝ち目があるか微妙だ。こっちは僕、エンティ、ライコウ、スイクン、シック……、あれシックルは?
「あぁ、そうそう。ここに来る途中にこのアブソルが襲ってきてな。軽く懲らしめてやった」
ボルトは何かを思い出したように僕達に言った。その内容的にはシックルはどうやらやられたらしい。その証拠にボルトはいきなりシックルを投げてきた。それをエンティを背中で受け止める。
「なかなか出来る奴だが……、残念だな。フッ……」
ボルトはシックルを僕達に向かって投げた後にそう言って嘲笑う。こいつ、僕の父さんを殺したときとなんら変わっていない。ただの凶器の塊だ。
「俺達の部下をこんなにしてただで済むと思うなよ」
ライコウはそう言って自分の周りに電撃を纏わせた。シックルがやられて怒っているらしい。その姿は先程のだらけた情けない感じのライコウではなかった。あ……、口に出しちゃだめだ。
「出来ますかねぇ……、こちらには兵力の差がありますよ」
ボルトはそう言った後に後ろを見て部下達に準備が出来ているか確認した。部下達はどうやら出来ているようで戦闘態勢に入っていた。
それを見たボルトは勝ち誇った表情になる。まだ、勝負が始まる前からそんな様子だと罰が当たると言いたくなった。
「数で負けるって?だったら質で押してやればいいだろう」
だけど、僕達の危機的な状況に唯一の光明がさした。僕は声がした方を振り向くとそこにはリオルとピカチュウとライチュウに、シックルと同じアブソルが居た。
「イナズマ!良いタイミングだ!!速くこいつ等を蹴散らすぞ!」
エンティはさっきの言葉を言ったポケモンとは面識があるようだ。その口ぶりからして大分強いようだ。この状況を打破できるというのか?
「お父さん、これって不味くない?レオはどうする気?」
「大丈夫だ、アルビダは一斉攻撃できる技あるだろ?俺はその邪魔になる奴をつぶすから」
「レオさん、私もその手伝いをさせていただきます」
残りの三人はなかなか個性的らしく一発で見分けがつきそうだ。この状況でもこんな様子であることからして、こいつ等も強いんだろう。そうだと、なかなか頼もしく見える。
「さて、行くぞ!まずは雑魚掃除だ!」
イナズマというポケモンは勢いよくそう言った後走り出す。それに続いて残りの三人も走り出した。
「それじゃぁ……、僕はボルト、お前を倒す!!」
僕はそう言ってボルトに飛びつく。さぁ、戦闘開始だ!