part4
「レオ殿!アルビダ殿!どこにいるでござるか」
「全く……、迷惑かけるわね」
「ムキーッ!あのガキ共め!見つけたら毒々の刑ザマス!ザマスーッ!」
私達はバーンさんの指示通りにムードさんを追いかける。ムードさんを捕まえた後に一緒に探すということで今までに至るのだが……、バーンさんが大変なのがよくわかる。ていうか、"毒々の刑"とは……、なかなか私と話が合いそうね。今度一緒にレオとムサシで遊んでみましょうか……って、そんな下らない事は後に考えないと。
「マロン、今絶対まずい事を考えてたでござるな」
ギクッ!
長年私と一緒にいるだけあって考えることはある程度分かっているようね。まぁ、あれだけやっていれば分かるのはある意味当然かしら。
「そうザマス!遺跡ザマス!遺跡に行くザマス!ムキャ――!!」
突然ムードさんはあの語尾を連発しながら叫ぶ。もう発狂しているというのが見れば分かる程だ。もしかして、また追いかけないといけないのかしら……?
「マロン!またムード殿が何処かに行くでござる!」
やっぱりね……。バーンさんはよくこんな部下をクビにしようとは思わないわいわね。私ならまだファルコンさんの方がいい。いや、両方要らない。
しかし、ムードさんは先程の我を見失った行動に多少は反省していたようで直ぐに飛び立とうとはしなかった。今にも飛び立って"毒々の刑"にしたいのか少しイライラしている。
「ええい!まどろっこしいザマスッ!まとめて連れて行くザマス!」
ムードさんはイライラが溜まっていたのかそれを放出するように大声をあげた。
しかし、言った言葉はどういう意味で?なんか、嫌な予感しかしないわ。
勿論、私が不安に思っていたのは現実となった。
ガシッ!
私達はムードさんの足に掴まれたのだ。エアームドにはこんな力は無いので正確には、いつの間にか私のバックから奪っていた拘束具を私達にかけて持ち手のところをくちばしでくわえると言う方法だ。
まさか、自分の道具で絞められるとは……。誰かにやるのはいいけど、やられるのはいい気分とはいえない。なんだか、レオ君達の気持ちが分かってしまったみたいだ。
「水晶遺跡にこれで行けるでござるな」
ムサシは呑気そうに言う。その姿は説得力が無いようにも見える。何故なら、私が前にムサシを縛った道具をつけられて蛹みたいになっているのだ。かっこ悪いことこの上ない。私もそうなっているから口には出さないけどね。
それよりも……。
「拘束具を持ち歩くなんてやっぱり物騒ね……」
何だか今更呟いてしまった。
★ (レオサイド)
「ここが……」
「水晶遺跡ね」
「その通りだ」
今俺達は本来の目的の場所である水晶遺跡の前に来ている。上から順に俺、アルビダ、イナズマさんが喋る。
水晶遺跡は俺が思っているより、小さかった。神殿があって入口も大きくて、外には水晶がちらほらと見かけられる。その散らばっている水晶がいかにもここが水晶遺跡だと言わんばかりにあった。
俺達が遺跡に入ると衝撃の光景が目の前に広がっていた。
ポケモンの骸骨が大量に敷き詰められていたのだ。それがこの遺跡を突破するのがどれだけ困難かを表しているのか、それともただの脅しなのかは分からないがここで少しでもゾッとさせられるのはよほどの訓練が要る。
幸いなのは扉が閉められないことだ。最も有名で恐怖を駆り立てるこの仕掛けはこの遺跡には無い。という事は、とりたてこの遺跡の仕掛けで殺す気はないのかもしれない。
「あぁ、この遺跡の裏ルートを俺が知ってるから罠の心配はいらんぞ」
「それは早く言ってくれよ」
なんだ、と俺は思った。
取り敢えずこれで、何なく進めることは把握した……、いや…まだだ。これは絶対イナズマさんがまた忘れるなんて言うフラグに違いない。
「な〜に!今回は忘れておらんから心配はいらん」
この言葉を聞いた時取り敢えずホッとした。さすがに連発はしないようだ。うん、フラグだと思ってた自分が悪い気がする。
「お父さん!これ何かな?」
不意にアルビダからの声が聞こえてきた。なんだろう、何か見つけたのかな?まぁ、イナズマさんに案内してもらいながら説明を聞いたりするのは悪くないしアルビダのいる方へ行ってみよう。
「何だ?……………ん?それは確か……」
イナズマさんはアルビダの見つけた物を見て考えだした。因みにアルビダが見つけたのは不自然に壁が出っ張っているところだ。あまりにも不自然で気になったのだろう。
暫くすると、イナズマさんが青ざめた表情になっていた。何か不味いものだろうか……、待てよ?古代の遺跡に大抵あるあれを見ていないじゃないか。という事はつまり……、
「「罠だ!」」
俺とイナズマさんは同時にアルビダに警告した。それを聞いてアルビダは「ふぇ?」ととぼけた声を出していた。これじゃぁ、避けられそうにない。
ガラガラ!
何かが崩れるような音がしたと同時に俺とアルビダの頭上には大量のがれきが降ってきていた。これはヤバい、俺はただそれだけを思って本能的に掌に波動を集中させる。本当に便利な技だ、父さんに感謝だ。
「空波動!!」
俺は掌に集めた波動を見えない波動にして放出する。ただ、チャージする時間が短すぎて粉々に出来る瓦礫はせいぜい最初の八分の一といったところだろう。これだけで俺達を守るのは絶対に不可能。つまり、イナズマさんが頼りだ。
「10万ボルト!!」
イナズマさんは俺の期待にちゃんと応えてくれていた。高圧電流を素早く瓦礫に放つ。次々と瓦礫は粉々にされて一瞬で俺達の頭上には瓦礫が無くなった。俺達に砂が落ちてくる。
俺達はその光景を釈然として見ていた。さすが、という一言がアルビダの口から出てくる。それを聞いてイナズマさんは若干有頂天になっていた。自分の娘にそんな事を言われてしまうと調子に乗るタイプなんだろう。親バカだ、羨ましい。
―いやぁ、危なかったね。見てるこっちも冷や冷やしたよ。
急にアユムが俺に話しかけてきた。コイツは呑気そうに喋ってる。冷や冷やしたなんて言ってるが、少しは笑っているに違いない。
―お前、引っ込んでるんじゃなかったのかよ。しかし、この話し方って変わってるよなぁ……。
―面白いからつい、ね。あと、この方法は君のように波動のスペシャリストじゃないと聞きとることすらできないよ。
俺はいつも通りアイツに話しかける。どうやらこの方法は波動をうまく操ってやらないと出来ないし、聞きとる事も出来ないらしい。よく無意識に出来たものだ……。声を出して離さない分痛い奴に見られる事は無いのだから安心して話せるという利点もあるかもな。テレパシーと似ている、もしかしたらこれがテレパシーかもしれないのだが……。
―レオ君、この遺跡の罠なんだけどね……。実は今もう一つが作動しているんだよ。
―へ?それってつまり……。
ゴロゴロ!
アイツが言った事に俺が反応したと同時に凄まじい音が聞こえてきた。その正体は転がってくる巨大な岩だ。
「「ギャアアァァァァ!」」
俺とアルビダはその光景を見て断末魔の如く叫び、走りだした。この大きさは電気じゃ壊せない。つまり、イナズマさんに頼れない。壊すとしたら俺が一番だが流星波動以外で一番威力が高い螺旋波動という技がある。しかし、それは貫通するだけだし、あれを使うと少しの間インターバルがある。壊しきれなかったらペッシャンコ確定。
ならば、今は逃げるしかない。そんな考えが俺の中で出た。無論アルビダは俺より早く逃げ出している。いつの間にか結構距離をとっている。
ん?距離をとる……………、そうだ!距離をとってからこの岩を壊すとしよう。
「アルビダ、ちょっとしたら俺があれを放つ。お前の電撃で強化、頼むぜ」
「え?………ちょっ……ちょっと!?」
俺は驚くアルビダを無視して岩から距離をとる。電光石火を使って距離をとる。ある程度距離をとると俺は集中して右手に波動を集める。そのまま俺は波動弾を作る、だがこの技はここからが違う。
俺はもう少し意識を集中して掌の上にある波動弾を回転させた。この技は波動弾を回転させて投げる、単純だが扱いは難しい。こうなると旨く狙った方向に飛ばないし溜めるのに時間がかかる。押さえればコントロールは出来るがそうなるとスバメの涙程度の威力だ。今回は狭い通路に転がる大岩を狙うのでやりやすい為本気だ。思わぬ事故が起こらなければいいけど。
「"螺旋波動"!」
「これでいいのかな?10万ボルト!!」
俺とアルビダは同時に技を放つ。螺旋波動はアルビダの電撃を回転で自分に巻き込み岩に向かっていった。そのまま岩に直撃していき当たったところから岩の中央は抉られていた。
これにより岩は中央がなくなり上と下だけが残る。勿論これで転がれない。取り敢えずは助かったのだ。俺は少し体がきついのだが。
「たっ……助かった〜!」
「あ、あぶね〜!ペッシャンコにされるかと思ったぞ」
俺とアルビダは岩が壊れたのを見て安堵の一言を漏らす。心臓はいまだにバクバクとしていて怖い。
そして、そんな時にイナズマは如何していたかというと……。
「やっぱり凄まじい影響力だな。レオ君はアイツと同じ技を使うし、未だにアイツはこの世に残ってるんだな。息子が自分の考えた技を使われたり、俺達の心の中に残っているし……。
しぶといなぁ…………、シシマイ」
俺は笑みを浮かべる。同時に悲しくもなる。改めて友がいない事を実感する自分が居る。
だけどどんどん、アイツに似ていくレオ君を見て嬉しくもなる自分が居る。正反対な気持ちを抱く俺はおかしいのだろうか………?
いや、おかしい筈は無い。感情がある生き物がそんな事になっておかしいと言うなんて、それこそおかしい。
おっと、こんな難しい事考えるのは生に合わん。今はただ……、
「お父さん!近道ってどこなの?」
一児の父親である喜びを噛みしめていたい。