part3
「さて、どうしたもんか」
俺は今の状況に悩んでいた。アルビダとここまで来たのはいいもののいざ行動しようとしても今目の前で繰り広げられているのは目で追うのが精一杯の闘いだ。「10万ボルト!」
「見え見えだ。この技を忘れたのか?」
ドゴッ!
だが、その勝負は大きな進展を遂げた。どうやら、イナズマさんの様子見と思われる攻撃は完全にムラサメはよんでいたらしく、"不意打ち"をイナズマさんの脇腹に決める。その威力は凄まじいだろう。現にイナズマさんは吹っ飛ばされた。その時、イナズマさんはこちらに視線を向けた様に感じたが、闘いの最中だ。そんな余裕は無いだろう。
しかし、不味いんじゃないんだろうか、この状況。完全にムラサメが有利だ。
そうであるというのにイナズマさんは何故か笑みを浮かべていた。何か勝算があるんだろうか?
「イナズマ、様子見だけで何とも意味が無い。互いに手の内は分かりきっているだろ」
「万が一があるだろ。それよりも、早く決着をつけよう……」
イナズマさんはそう言って、電気を身体中に纏い始めた。この技は一体……?
「私達ピチュー系統のみが使える技"ボルテッカー"よ」
へぇ〜、そんな技があるんだ。どの位の威力があるんだろうか?早く決着をつけると宣言した位だからとんでもない威力だろう。
「……、いや、止めておこう」
しかし、ムラサメは暫く考えた後にこちらが少しも予想だにしなかった言葉を言い放った。どういうつもり何だろうか。勝負を仕掛けたのは間違いなくムラサメだ。なのに、勝負をお預けにするとは甚だ疑問が残る。
「俺も賛成だ。何せ、そこにいる鼠が邪魔だからな」
何だ、俺達に気づいていたのか。気になって仕方ないんだろう。しかし、鼠って……、俺は鼠じゃ無いはずだが。
「気付いていたのね……、父さん」
アルビダは茂みから出てイナズマさんに近づく。ついさっきまで短い時間だが、激闘が繰り広げられた場に。ムラサメが怖いとは思わなかったんだろうか。
「フッ、お前の娘か……、ずいぶん立派だな。……あと、そこのリオルも出てこい」
ムラサメはアルビダを見るや否や笑みを浮かべる。その後に俺が呼ばれる。『もしかしたら罠かもしれない』、と心の中で思う。だけど、イナズマさんはニコニコしている。さっきの修羅場は何処に行ったんだ。俺は渋々茂みから姿を現しアルビダ達の元へ向かう。そこに行くとムラサメが「名は?」、と聞いてきた。
「俺の名前はレオだ」
俺は淡々とムラサメに自己紹介する。それを聞いてムラサメは何か反応しだした。
「そうか……、お前がシシマイの息子だな。ルワールも酷いもんだ」
どうやら、父さんの知り合いらしい。父さんは本当に何者だ、と疑問が過ぎる。最近になって父さんに関する事が明らかになってきた。どれもサッパリ意味が分からんの一言につきる。
「どうやら、今日は面白いものが見つけられたようだ。」
ムラサメはそう言って、俺達に背を向ける。その背には明らかに誰かにつけられた傷跡があった。
「その傷はどうやら一生残るようだな。クローにやられて、どうだったんだ?」
イナズマさんは背の傷を見て、過去話をする。クローにやられたなんて……、嘗ては大切な同士だった筈なのに。
「あぁ、痛かったさ。…………心がな……。
イナズマ、次こそは貴様を殺す気で行く」
ムラサメはその一言を残して走っていった。その背は何か強い決意が感じられた。同時に嫌な予感もしたけれど、止める気にはなれなかった。
「さ〜て、二人とも!お前達の目的地は水晶遺跡だろ?今から行くか!!」
ムラサメが去って行った後に、さっきの雰囲気を全く感じさせないイナズマさんが気楽に話を持ち掛けてきた。
アルビダは嬉しそうにうんと頷いてイナズマさんに駆け寄る。俺も一緒に行こうと思った。でも、ムサシ達は今頃は俺達を探している筈だ。先に行ってしまって大丈夫だろうか。
「レオ君!早くコッチに来なよ」
イナズマさんは笑いながら、ニャースの如く手を招き寄せる。何だか、アルビダにソックリ。アイツも同じ仕草をしている。親子なのは間違いない。うん、100%そうに違いない。
それよりも、ここからあの遺跡の場所が分かるのか……。俺達がここまで来るのにどうやってムサシ達に合流するのか考えてなかったので助かる。向こうが探し続けて遺跡に来なかったら迷惑になってしまうのだが。
「あ!」急にイナズマさんが大きな声をあげる。その様子はまるで、何かを思い出したかのようだった。この時の俺には"嫌な予感"という言葉だけが頭の中に存在していた。アルビダは木の実を得るために変な方向へ向かう。では、そのアルビダの父親は……?
「あぁ、すまん!忘れてしもうたっ!!!」あぁ、やっぱりね……。どうせそうだろうと思ったよ。いくらなんでもひどすぎるだろ、この遺伝。アルビダは目的地までは着くのだが(見つけるが正しいか?)、父親は道を忘れるようである。起こす事は似てはいないのだが、迷惑掛ける事は一緒だ。親子揃って俺に迷惑をかけたいみたいだな。俺も何も考えずにここに来たのだから人の事はいえないのかもしれない……のか?
「もう、お父さんたらっ……モグ……しょうがない……モグ……わね」
取り敢えずお前は口にものを入れたまま喋るな。
★ (バーンサイド)
「取り敢えず、レオ達を探すぞ」
俺は皆にそう呼び掛ける。こうなる様であったならちゃんとちゃんと言えばよかった。アルビダちゃんにイナズマさんの事を話したあの時……。
〜〜回想〜〜
『お前はイナズマさんの娘だな?』
『そうですけど……どうして知っているんですか?』
『いやな……、ちょっとした知り合いでな。後イナズマさんは南国にいるんだが……』
『南国に父さんが居るって本当ですか!』
(おいおい、待て。まだ、話終わって無いんだが……。……ま、いっか)
『まだ、確証は無いけどな』
(どうせ、ファルコンの目撃情報だし……こんな表現でいいか)
〜〜回想〜〜
おかげで、レオ君に変な勘違いをされたかもしれないし。とにかく、面倒な事になっては大変だ。
「キィー!!あのガキ共は必ず捕まえるザマス!!!」
それよりも先にコッチが面倒くさい事になっている。ほっといて良いけど。しかし、そのおかげでムサシ達が戸惑っている。当たり前だな、いきなりの不意打ちが立て続けに起こって少しは戸惑うだろう。シシマイさんの息子だからあんなとんでもない事が出来るのか。"空波動"で俺達の不意をついてからの逃走は彼もよくやっていた。
「ムサシ、マロン。ムードを追うんだ。アイツは一直線にレオ君達の所に飛んだ筈だ。アイツがキレると面倒だ……、止めといてくれ。俺はファルコンを呼んでくる」
もう、こうなったらこうするしか手はない。俺の部下には迷惑かける奴が沢山いるもんだ……。おっと、行かなくちゃな。
俺は羽を広げてファルコンのいる基地へと飛ぶ準備を始めた。ムサシ達は俺の指示通りムードが向かった方向に行った。まぁ、すぐに追いつくだろう。アイツは飛ぶスピード遅いし。こっちがファルコンを連れて来ているころには少なくともムサシ達はムードと一緒だろう。
面倒なことだが、飛んで呼んでくるか。アイツの事だから基地でくつろいでいるに違いない。外に出たりはしていないだろう。もし、変な事をしてたら焼いてやる。
「さて、行くか」
俺は翼を広げて飛びたつ。
ところで、レオ達は今何をしているんだ?
★ (クレメンスサイド)
「よし!傷も癒えたし、奥に行くか」
僕はさっきまでボロボロだった体の傷が癒えたのがわかりそう決めた。シックルが奥に来いとか言っていたが見せたいものでもあるんだろうか。この遺跡ならではの綺麗な光景だったりするのかなぁ。
僕はそんな期待を寄せるけれども、実際は違うのかもしれない。水晶の主だと分かった僕は今から向かう場所は間違いなくそれに関係している、と直感がした。おかしいかな……、いくらなんでも考え過ぎかもなぁ。
「遅いぞ」
でも、そんな風に考えるのは不意に聞こえてきた声―――シックルの声によって止めさせられた。シックルを見ると、僕と同じくさっきの傷がまるで存在しなかったのように消えていた。
「ここから先には、この遺跡の主達がいる。くれぐれも粗相の内容にな」
シックルは現れるや否や、いきなり『粗相のないようにな』って……もう少し話をしても良いんじゃないかな?しかし、その言い分ではこの遺跡の主ってもの凄く気難しいのだろうか。嘘とは思えない気もするし、一応気をつけよう。しかし、『達』って言う事は二人以上いるんだね。
「何をしている、俺が案内するから連いてこい。
……チッ、これだから男は……」
「案内してくれるんだね?助かるよ」
僕は案内してくれる事に感謝を述べる。小声は聞こえなかった振りをするとしよう。うん、この事言ったら殺される。知らない振りが最善策だ。
ポチッ!
しかし、いきなりこの遺跡から出るとは思えない音が聞こえた。どうやら、シックルがボタンを押したようだ。意外とすぐだね……。
ゴゴゴゴゴゴッ!!!
押して、そのすぐ後にとてつもない轟音を立てて遺跡のの壁が上に登っていく。シャッターなんだ、これ。そう言えば、さっきもこの仕組みを見たな。ボタンを押すところは見てはいないけど。
完全に開き切ったところで、僕とシックルは同時にその部屋へと入る。その部屋には3人のポケモンが居た。一人は体は青色を基調としており、紫色の綺麗な毛並みがあって、体に2本の白い帯みたいなものをついており極めつけに頭には蒼いクリスタルがあった。二人目は全体は茶色っぽい色を基調とし、背中には雲みたいにふわふわとした毛を持ち、頭には王冠のように立派なものがある。3人目はこれまた紫色でふわふわとした雲みたいな毛を背中に持ち、体の色の基調は黄色、尻尾は水色で雷をイメージしたような形をしていて、髭も水色だった。
「お主が"緑の水晶"の主か?」
「はい」
青色を基調としたポケモンは僕に早速といった感じに質問してきた。僕は内心緊張していたが表に出すまいと必死に答えた。
「そんなに、緊張しなくてもよい。よくここまで頑張ったな」
「あ……、ありがとうございます!」
茶色っぽい色を基調としたポケモンは気楽そうに僕に話しかけてきた。言葉と雰囲気は完全に優しく、僕はほっとした。
「ほう、どのくらいの実力だろうな」
黄色を基調としたポケモンはそう言って僕を睨みつける。ついさっき、ホッとしたばかりの僕にはこれによって、また緊張感が生まれてしまった。怖い……。
「ライコウ、貴方はそうやって威嚇する癖を止めなさい。少なくとも、彼は味方ですよ」
水色を基調としたポケモンはそう言ってライコウといったポケモンに注意する。その表情は少し怖い、さっき程ではないけど。
「さて、そろそろ私達が自己紹介しなくてはな。私の名前はエンテイ」
茶色いポケモン―――エンテイは紳士的な口調で自己紹介をする。その姿は優しくとても勇ましい。
「申し遅れました、私の名前はスイクンです」
青色のポケモン―――スイクンはどこか清々しい雰囲気を放って自己紹介をする。その姿はとても、穏やかだ。
「さっきは悪かったな。俺の名前はライコウだ」
黄色のポケモン―――ライコウは荒々しい雰囲気を放ちながら自己紹介をする。その姿はとても恐ろしく見える。
「では、僕の番ですね。僕の名前はクレメンスです」
僕も続いて自己紹介をする。
「「「!!!」」」
しかし、僕の名前を聞いてスイクン達は驚いた表情をしていた。
「どうか……しましたか?」
僕はその様子を見て恐る恐る聞いてみた。だけど、スイクン達は揃って「何でもない」と口にする。
それが嘘だなと分かるのは当然だった。