part6
俺は今、気がついたら大変な状況にいる。
他の皆は楽しんでいる。
当然だろう、しかし俺だけは……。
どうしてだ……!
「なぁ、バーン。」
俺はバーンに尋ねる。それに対してバーンは「どうした、レオ?」と返す。この会話は何の変哲もないだろう。だが、状況は少しおかしい。
「どうしたらさぁ、起きてみると拘束具をつけられたままで知らねぇ奴の背中に乗ってるんだよ!!」
俺はそう言って叫ぶ。あまりに大声なので迷惑がかかるのだがそれは普段の話。俺は気がついたら空にいた。いや、言った言葉からして飛んでいる奴の背中に拘束されているといった方が正しいか。
「貴方が起きないのが悪いのよ。」
マロンさんはそう言って若干狂気じみた眼つきをこちらに向ける。それを見ると俺はゾッとする。前回こいつにやられたからだ。何故こんな悪趣味なものを冒険に持ち込んでくるのか分かりやしない。拘束具は俺を乗せているポケモンごと締めつけている。それでいいのか?
「あ!レオ、おはよ!」
アルビダは呑気にバーンの背中の上から話しかけた。その隣ではさっきと変わらず睨み続けるマロンさんが居る。ムサシはもう一人の鳥ポケモンの上にいる。その種族はエアームド。確か防御が高いが特防は低めの種族だ。その能力に合った戦法が得意と言う事が有名で俺のような格闘タイプでの太刀打ちは難しいとか……。
対する俺を乗せている鳥ポケモンはムクホークと言う種族だ。エアームドと比べて防御面の能力は低いが素早さと攻撃力が高い。極めて攻めに向いているポケモンだ。因みにこいつの性格は……。
「今すぐぶっ飛ばすぜ!ヒャッハァッ――――!」
そう言ってムクホークは急に宙返りをする。急な事に俺は気持ち悪くなってしまい、吐き気を催してしまった。
どうしてだろうか……、すごく怖い。言葉とかではなくコイツの行動。何をしだすか分かりやしない。幸いにも拘束具をムクホークごと巻きつける事によって振り落とされることはない。しかし、それによってブンブン振られるのはあまりよろしくない。乗り物酔いがひどいのである。だがこれでは、飲む暇もないし吐くことすらできない。
「ファルコン、あまりはしゃいじゃ駄目ザマス。」
だが、俺に救いの手が(手はないから羽だろうか……)差し伸べられた。語尾のザマスは少し気になったけど。それより、コイツの名前はファルコンなのか。
「え〜!ムードぉ、それじゃつまんないだろ?はしゃごうぜ!」
ファルコンはどうやら好きに飛び回りたいらしい。一人なら勝手にやればいいのだが、今は俺が乗っている。何故、迷惑になるという事を考えない。
「レオ君が乗ってるザマス!今にも吐きだしそうな顔しているし……、吐いたら見るも無惨ザマスよ?」
ムードはそう言ってファルコンを睨む。それを見てと言うより、「吐く」という言葉を聞いてファルコンは「わかった。」とうなずく。
「おい!急ぐぞ!全速力で突っ切るぞ!」
だが、バーンのこの言葉を聞いた時、ファルコンは急に活気が満ち溢れ出してきた。もう、嫌な予感しかない……。
「俺の最高に高めた速さでぶっちぎってやるぜ!」
少しおかしい言葉遣いになって、俺の事などお構いなし。ただただ、全速力で突っ切って行った。
どうして、最近はこんな事が多いんだろうか?
★ (アルビダサイド)
私達はたった今、ハーバータウンに着いた。私とマロンさんはありがとう、と一言バーンさんに伝える。それに対してバーンさんは大したことは無いよ、と言う。ムサシさんはムードさんに一礼をして、かたじけないと言う。レオは……、一応ありがとうとは言ったが、顔が青ざめている。
「オエェ〜!」
何だか見てはいけなかったかな。コッチまで気持ち悪くなりそう。ビタビタという音が更に私の気分を悪くさせる。でも、乗ってる間は絶えたみたいだから降りると急に吐きたくなったのだろう。ならば、好きなだけ吐かせてやる、見たくはないけど。
「オイ!大丈夫か!?」
ファルコンさんは凄く心配そうにレオを見ていた。原因はお前だ、とは言わない。
「まぁ、いつもよく、もらいゲロしないザマスね。」
確かに……。ん…?いつも……?もしかして彼に乗った人はいつもそうなのだろうか?
「いや、流石に慣れたぞ。」
どうやら、本当に何回もあったらしい。私じゃなくて良かった。
しかし、レオはいつの間にか吐き終えていたが……、表情は大分げんなりしている。元々乗り物(?)酔いが酷い為、船に乗るのが心配だったが、乗る前に酔ってしまった。
「バーンさん、次に行く南国の何処でしょうか?あと、どんな所ですの?」
マロンさんはバーンさんに次に行く場所について質問していた。そう言えば、私達はまだ目的地の具体的な詳細を聞いて居なかったはずだ。勿論、水晶について分かることがあると思うけど……。
「水晶に関する遺跡に行って目撃証言が本当か確かめることだよ。」
あぁ!思い出した!水晶の主と思われるポケモンがその遺跡に向かっているという情報を確かめる事だ。本当なら仲間にする。大雑把な気がするが本当にそれだけだ。
「どんなところと言えば……、水晶の伝説が記されているところかなぁ。
モリがよく知ってるのになぁ……。」
バーンはどんなところかの説明には少し捻ったようで自信がなさ気だ。その後に何か小声で呟いたみたいだけど。ていうか、水晶の伝説が記されている遺跡?そう言えば前に……聞いたことがある。確か……。
『今日話そうと思っていたさ。だが、この様子じゃその必要もないな。それに……、あの遺跡を知っているんじゃないのか?探検家ウィリアムさん』
そうだ、前にモリさんが言っていた遺跡の事じゃないだろうか。
南国にはどうやら是が非でも行かなくてはいけないようだ。私にはもう一つ目的がある。絶対に連れ帰ってみせるよ。
「父さん…。」★ (マロンサイド) 〜アルビダサイドから20分後の事〜
私は今、ムサシと二人きりでハーバータウンを回っている。なぜそうなっているのかと言うと……。
私の質問にバーンさんが答えた後―、
「船が出るまであと3時間ある。あと2時間半後にここに集合だ。レオの看病は俺が済ませておく。」
と言う訳で私達は自由時間が出来た。私はどうしようか悩んでいるときにムサシが、「一緒に回ってみないでござるか?」と誘ってきた。私はそれを聞いて一瞬戸惑ったがすぐに平静を装いえぇ、と答えた。
「いやぁ、良い港町でござるな。」
ムサシは笑顔でそう言う。何も変哲もないのだが、2人きりだと話は別だ……。
「え……あぁ、そうね。」
私は戸惑いながらも何とか返事する。私が戸惑ったのをムサシは気にしはしない。
言うべきか?
私はムサシと歩きながらそう考えた。皆と居るとあまり意識することは無いのだが、2人きりだと……ね。ドキドキする、いつからそう思っているのか分からない。唯はっきりしているのは私はムサシの事を……。
「……好きでござる。」
ん?今なんて言った?私の聞き間違いじゃなければ……、えええええええええええええええっ!
「ど、如何したでござるか!?急に顔を赤くして……、聞いているでござるか。」
ムサシは急な事で驚いた私に尋ねてくる。どうやら、話している内容からして私の勘違いなのだろうか?そうならば良かったのか悪かったのか……。取り敢えず、落ち着かなくては。まだ時間はある。
しかし、ムサシは何が好きだと言ったんだろうか。探るべく私は辺りを見わたしてみると、すぐに何が言いたかったのか分かった。私達の目の前には駄菓子屋があった。
私達は子供のころによく駄菓子屋に通っていた。懐かしい思い出だ。私との父はムサシの父をボディーガードとして雇っていたのだ。私の父はどうやら此処西国出身らしい。その為か、私の名前は東国では名付けられる事が少ない名前である。私の知り合いにはフォックスとかコットンとか明らかに東国風の名前ではないポケモンが居たのだが……。
もう、言っちゃおうか。
なんだか、そんな気分になった。この旅ではどうせいつ言えるか分かりやしないから今の内に……。
「ねぇ、ムサシ。ちょっとこっちに来て。」
私は取り敢えずムサシを人気のない場所に誘う。ポケモンが沢山いるところで言うのはまずいだろうし……。ムサシは何でござるか、と聞いて私についてくる。
私達はゆっくりと歩いて人気のないところを探す。そんなところに森が見えてきた。あそこなら大丈夫かな?
やがて、私達は森に着くと私は心の準備を始める。
ムサシは不思議そうな表情でこちらを見てくる。
「ムサシ……、私…、貴方の事がす……」
私は勇気を振り絞り、気持ちを伝えようと口を動かすがこの時にはとんだ邪魔が入ってくるとは思わなかった。
ドォン!
私が肝心な言葉を言い切ろうとすると、まるで狙ったかのように爆発音が鳴ったのだ。おまけに……。
キャァァァッ!
と、叫ぶ声が聞こえてきたのだ。これでは告白などしようもない。それにこの状況になるとムサシは黙ってはいない。
「マロン!ちょっとそこで待ってるでござる。今から様子を見てくるでござる。」
ムサシはそう言って爆発音がした方へ走り去って行った。私はそれに黙ってうなずいた。
なんだ、結局出来ずじまいか……。
私は心の中でガッカリし、ハァと溜め息をつく。まだまだ、告白は先になりそうだ。その時はこんな事が無いように気をつけないと……。
それから、1時間後にはムサシが爆破犯を捕らえ賞金を担いで来ていた。その金額は2000ポケと高め。
無職のくせに大きく稼いでくる男だ。