part5
僕の名前はクレメンス。種族はビブラ―バだ。親の形見である緑色の水晶が僕をある場所の道を示してくれた。この水晶は僕が手にしたときに何故か地図のようなものを表示しだした。その地図には緑色の点である場所を示していた。その場所は昔僕の父さんが趣味での探検によってこの水晶を見つけたという遺跡だ。何故か僕はその事にすぐに気付く事が出来た。どうして気がつけたのか分からなかった。この水晶が僕を導いている様にも思えて、どうしても旅立ちたい気分になった。この不思議な感覚を明らかにするためにも。
グゥ〜!
でも、今はそれは後回しにしなきゃいけないみたいだ。まだ、食料は残っている。餓死の心配は無いのだが、少し問題があった。
「おなか空いたなぁ……。」
僕はそう言ってポーチから取り出したのは林檎だ。美味しいのだがいつも林檎だと流石に飽きる。オマケに腐らない様に保存する必要がある。しかし、食べられるだけマシなので贅沢出来ない。僕はこの見慣れすぎた赤い果実をいつもと変わらない調子で食べる。偶にはオレンの実やカゴの実等も食べるのだがやはりサイズが小さい。というわけで結局林檎に落ちつく。
「しかし、伝説は本当なのかな」
僕は林檎をあっという間に食べ終えてボソッと呟く。僕が呟いた伝説と言うのは父さんから聞いた話だ。何でも、昔存在した"ニンゲン"という種族がこの世界の神であるアルセウスの力を欲してアルセウスを襲ったそうだ。しかも、アルセウスの力を得るために僕達ポケモンの身体を乗っ取る能力を開発したとか。とても、信じられない話だが、もし本当ならばアルセウスは"ニンゲン"に裁きを下したのだろう。どんな事をしたのかは分からないけど、それによって"ニンゲン"はこの世界から絶滅した筈だ。存在が本当ならばそうに違いない。今現在、"ニンゲン"なんて種族は見つかっていやしない。
「さて、遺跡までもう少しだ。」
僕はそう言って直ぐに出発の準備を始める。さっきみたいに奴らが襲ってくるのは出来るだけ避けたい。あんまり襲われる事は無いのだが奴らは確実に僕の持つ緑色の水晶を狙っている。しかも、追ってくるのは父さんを殺した奴の部下のようだ。奴らの組織はつい最近知ったことだが"Samsara"とか言う名前らしい。何故この水晶を狙っているのか皆目検討がつかない。理由らしきものを考えると、この水晶はもしかしてあの伝説に関わっているのだろうか?仮にそうだとすると奴らは僕よりその伝説に詳しいのだろう。ならば、詳しいヒントがあると思われる遺跡に尚更行かなくてはいけない。そこに父さんと母さんが殺された理由も隠されている筈なのだから……。
★ (レオサイド)
俺達は傷もバーンの手加減のおかげで軽く済み、大分動けるようになった。傷薬があればとんでもなく染みて痛いが治るのはあっという間だ。あれだけ、あっという間に俺達を片づけながらも、手加減もできるとは明らかにレベル差がはっきりとしているのは言うまでもない。そんなバーンはいつの間にか散歩から帰ってくる。俺達が元気にしている様子を見て何かを決心したような目つきをしていた。何か話でもあるのだろうか?
「明日には、この大陸を出る。」
どうやら、これ以上西国にいてもしょうがないと判断したのか俺達にそう告げた。選択肢は東国、北国、南国のどれかだ。実際は地域の区別なので国と言うより大陸の方が分かりやすいかもしれない。この西国は4国の中でも一番小さい大陸だそうだ。しかし、まだ西国は全部歩き切った訳ではないのになぜだろう?
「行く先は"南国"だ。俺の部下がそこにある"水晶遺跡"に向かっているポケモンを確認したそうだ。勿論、水晶を持ってな。」
成程、目撃証言か……。確かに漠然と歩いていても見つかりやしない。ならば、違う可能性があっても大陸を越えるべきだ。もしかして、さっきの散歩と言うのはこの事を聞いていたのだろうか?だが、そんな事を気にするより、明日の出発のためにも準備しなくてはいけない。
「残る水晶の主は四人、早く揃わなくてはいけないでござるな。」
「でも、一人分欠番があるんでしたよね?どうすればいいかしら……」
「マロンさん、難しく考えても仕方ないですよ。今は一人でも多く仲間にしないと」
上から順にムサシ、マロン、アルビダが呟く。ムサシは普通に冷静で、マロンさんは少し心配そうにしている。それに対して、アルビダはポジティブ。こんな光景がこれからも続く事になる。いや、これから仲間が増えるんだ。さらに賑やかになるだろう。なんだか、気が滅入る気がしてきた……。
「取り敢えず、今日は準備をして明日は港町"ハーバータウン"に行く。既に部下に予約を取る手筈をとらせている。」
バーンは俺達にそう告げると会った時の柔和な表情に戻った。しかし、ジャネールにバーンは色違いだ。何故、"leading"の幹部は色違いが多いんだろう。秘密組織には色違いが集まるのだろうか?そう言えば、"leading"のリーダーって誰だろうか?アルセウスなんだろうか?水晶の主を導くためだというが今のところ完全に目的を果たしたところを見ていない。最早ボディガードに近いんじゃないだろうか。それよりも……。
グゥ〜。
「腹減った〜。」
俺はお腹を鳴らして空腹を皆に知らせる。それにつられてかムサシもお腹が鳴り、「働かざる者食うべからず。」と言って空腹をアピールする。それを聞いてマロンさんは呆れた顔をして「無職のくせに。」と言った。それを聞いた俺とアルビダが爆笑する。ムサシは顔を赤くして「職は探してたでござるよ!」と言って焦る。それじゃ結局は無職じゃん。就職活動とは怖いものだなぁ、と俺は思う。俺は将来、何をしてるんだろうか。
「さぁ、夕食の準備をしてくれ。」
バーンはそう言っていつの間にか建てられているイスに座っていた。テーブルもついでと言わんばかりに立っている。それを見て俺達は心底呆れてしまった。バーンはまじめな時以外は呑気な人みたいである。少しムサシに似ている。
「バーンさん、軽く火をおこしてくれませんか?」
マロンさんはそんなバーンの様子を見て頼み込む。明らかに暇そうだから仕方ない。それを聞いてバーンは「いいよ。」と言ってイスから立ち上がる。どうしたら、こんなにギャップがある人になれるだろうか分かんない。
「今日は……、何にしようかな♪」
アルビダはノリノリな気分だろうか、少し周りを見ていないようだ。しばらく考えた後に何かひらめいたのか急に走り出した。木の実がある所を見つけたのかな?俺はその様子を見てよくあそこまで速く走れるなぁと感心していた。
「あ!」
俺はここである事に気がついた。その様子を見てバーンとムサシはどうしたといわんばかりの表情をした。前にアルビダはクローと一緒に森の中でスピアーの大群に追われたのだ。欲望に負けて沢山木の実を採っていた罰が当たったのかアクシデントでスピアーを怒らせた。今回もそんな事にならなければいいのだが……。取り敢えず、マロン達にも一言言って出ないと……って、マロンが居ない!?
「まさか!」
俺は嫌な予感がしてきた。マロンは恐らくアルビダの後を追ったのだろう。手遅れになる前に早く行かなくては……、こっちまで被害をこうむりかねない。なにもないのなら良いのだが……。
「アルビダちゃん!逃げるわよ!!!」
不意にマロンの声がアルビダの向かった方向から聞こえてきた。どうやら、俺の心配した通りになったらしい。もう勘弁してほしい。今度はどいつを連れてきたんだろう。
「御免なさい!!」
アルビダが全力でこちらにダッシュしてきた。そう言いながらも今回はすぐにあったためか量は少ないが木の実を抱え込んでいる。今回はどんな奴だろうか、出来るだけ戦わずに済ませたい。しばらくした後、マロンさんとアルビダが見えてきた。一体どこまで取りに行ってたのだろう。早すぎる。アルビダ達が出て来て数秒後に追ってきたポケモンが出てきた。その種族は……。
「冗談じゃないよ……」
「ハハハ、凄いでござるな」
「ハハハ、全くだな。」
俺はその光景に呆れていた。ムサシは呑気に笑い、バーンは笑って同感する。そういう場合じゃないだろうに。どうしろと言うんだよこれ。追ってきてんのはバッフロン七匹だ。
俺は手に波動を溜めて溜め息をつく。威嚇だけして追い払うしかない。それでも来たらもう倒すしかないだろう。アルビダには何があってこうなったかは後で聞いて説教する。
「波動弾……」
俺は弱めの威力でバッフロン達の近くの地面に波動弾を放つ。
俺はその後、七つのアフロに囲まれてしまったというのは言うまでもない
★ (クローサイド)
「只今、到着致しました。アルセウス様。」
僕は"leading"の本部に着くや否や上司であるアルセウス様に到着した事を報告する。いつも水晶の映像越しで話す為に生で話すのは緊張する。ジャネールは今にも緊張に押し潰されそうだ。モリは相変わらず冷静だ。しかも、今回は滅多に無い最上級神が集っている。
「此方の準備は出来ている。これから、お前達を私が創った専用の部屋に転送する。」
アルセウス様はそう言って僕達を光で包んだ。それと同時に空間が裂ける。すぐにでも転送する気らしい。光は僕達を包んだまま空間の裂け目に入っていった。僕は衝撃が来るような気がとっさに準備する。しかし、そんな心配は無かった。何事も無く順調に目的の場所、いや空間に辿り着く。その空間に入ると分かっていたが衝撃の光景が広がっていた。
「これは……圧巻させられるな。」
「俺はお前以上に圧巻させられているがな。……ブルブル」
モリは珍しく驚き、ジャネールは震えていた。ジャネールの緊張はともかくモリは思ったよりリアクションが薄い。言葉に出せないとかかもしれないが……。まぁ、そうならない方がおかしいが。最上級神は全員把握している。今回は全員集まっていないらしい。集まっているのはゼクロム、レシラム、パルキア、ディアルガ、グラードン、カイオーガ、ミュウ、ホウオウ、ルギアだ。
「君達が今回の会議の立ち合い者かい?宜しくね」
先ず聞こえてきたのはミュウ様の声だ。なんだか、呑気な方そうだ。隣でジャネールが「クローと似ている」と小声で呟く。
「我々も自己紹介としよう、私はディアルガだ。」
「俺はパルキアだ。」
「僕はカイオーガて言うんだ。宜しくね。」
「俺はグラードンって言うんだ。宜しくな!」
なんか、今見た目に合わない自己紹介したのが居たが、僕は取り敢えず「宜しくお願いします。」と言う。続けて黒のポケモンと白のポケモンが前に出た。
「儂はゼクロムと申す。」
「妾はレシラムだ。」
この二人はちゃんとしていそうだ。睨み付けられると怖いが……。それに続いて何とも神々しい赤き羽根を持つポケモンと白を基調とし先程のポケモンとは対をなす存在と思われるポケモンが前にだる。
「俺っちはホウオウって言うんだ。宜しくな☆」
「チーッス!僕チンはルギアでーす!」
容姿と合わない言葉を使うホウオウ様と明らかに可笑しいルギア様が自己紹介する。神々しいなんて思ってしまった自分が馬鹿に見えるのはなぜだろう。こんな様子で大丈夫か?、と思う俺の心を読んでいたのかアルセウス様は「大丈夫だ、問題無い。」と小声で呟く。
「では、今回の会議の本題を言う。」
そして、アルセウス様が話し始めると最上級神達は黙ってアルセウス様を見つめる。その光景はとても威圧的で近くいたモリでさえ、汗が大量に噴き出ていた。少し焦っているようだ。
「今現在、この会議に来ていないギラティナとキュレムの事についてだが……消息が分からなくなっている。」
アルセウス様が言った事は最上級神達にとって衝撃的であるようだった。その為かざわつき始めた。キュレム様とギラティナ様が最上級神の中でもトップクラスに強いと僕は聞いている。そんな二人が行方不明となるとさすがに心配になるようだった。
「私が二人に呼び掛けても反応が無い。この事態は随分と昔にもあった。お前達もはっきりと覚えているはずだ。」
アルセウスはそう言って最上級神達を見つめる。それを聞いてこの場にいる全員の目つきが変わる。僕達はどういうことかは分からないがとんでもなくヤバいのは間違いない。
「ま、まさか!あの者たちが再びこの世界に現れたというのですか!?」
事がどういう事か理解したのかディアルガ様は声を荒げる。再びこの世界に現れた……?僕はその言葉がどうしても引っ掛かる。どうやらその言葉で他の最上神達も気がついたようである。そして、僕はその意味を考え込むと"7つの水晶"が関わっているある存在が僕の頭の中に表れてピンときた。
「みんな分かったようだな。そう、これは随分昔に異世界に閉じ込めたはずの人間のやったことだ。」
僕はアルセウス様の言ったこの言葉が更にこの場をざわつかせる。僕は予想通りの返答であるにも関わらず腰を抜かしてしまった。ジャネールとモリは完全にポカーンとしていた。それもその筈だ、僕だって心の中はポカーンとなっている。しかし、僕達にはここで疑問が生じていた。
「待ってください!異世界に閉じ込めったて……、人間は絶滅したのではないのですか!?」
ジャネールは緊張していた事を忘れざわつく場を質問で静まりかえらせた。ジャネールの質問はもっともだ。僕達は伝説では人間が滅んだという事しか聞いていない、異世界に閉じ込めたなんて聞いていない。
「Oh!それは"7つの水晶"に宿る第二の創造神を巡る争いがこの世界だけで起こっているなら人間を異世界に閉じ込めたことは関係ないし〜、と言う訳で隠したんだYO!」
その質問にルギア様が答える。この雰囲気でその喋り方を通すなんて……、それが素何だろうか?聞いているジャネールも少し呆れていた。
「しかし、今回は人間が関わっているんです。だから、いつもの水晶の奪い合いではないんです。僕は奴らがアルセウス様のコピー体を乗っ取った人間―、即ち第二の創造神を使ってこの世界を再創造する気なんだと思います。」
カイオーガ様は僕達に自分の推測を話す。その話を聞いてこの場にいる皆がカイオーガ様の方へ振り向く。
「随分前に"第八の水晶"が水晶遺跡から盗まれたではありませんか。あれにはもしも奴が目覚めたときに再び封印するためにあります。それを使って人間は逆に自分に第二の創造神を封印し僕達から奪う気なんでしょう。もし、あれで第二の創造神を完全に制御したら奴らの意のままに世界を創り替えられる筈です。」
カイオーガ様の話はぶっ飛び過ぎて僕にはついていけなかった。ようは人間達が自分の思う様に世界を創り替えようとしていると言う事だろう。ていうか、"第八の水晶"なんてあったんだな。それを逆利用されることになるとは……残念なことだ。
「そこでだ、クロー達には奴らのアジトを"leading"の総力を挙げて破壊しろ。総司令官である私からの命令だ。既に副指令にも報告している。まずは準備だ。」
アルセウス様はここでようやく僕達をよんだ理由を話す。どうやら総力戦を挑むらしい。最上級神はどんな事があっても自分の役目を果たさなければいけない。特にディアルガ様とパルキア様はこの世界の根本を支えている為尚更だ。出来る事なら僕達のような普通のポケモンが済ませなくてはいけない。しかし、副司令に知らせられていたのか……。僕らの組織の副指令はアルセウス様が世界を見張る為にそう指令としての時間がないために実質的な総指令となっている。どうやら、本気で"Samsara"を滅ぼす気のようだ。
「よいか!!必ずや奴らの好きにはさせては駄目だ!」
アルセウス様がそう言った途端にその場にいる全員が「分かりました。」と言う。そう、再び人間とポケモンの闘いが火蓋を切って落とされてしまったのである。