part4
まさか、こんなにあっさりと負けるとは……。バーンが先にマロンさんを治療し、ある程度動ける様にし二人で手分けして治療に当たっている。
「痛いでござる。」
「あんたは我慢しなさい。私と違って東国の侍の子供でしょう。」
マロンさんはムサシの治療に当たっていた。何だかマロンさんがサラッと不思議な発言をしていたが。因みに俺とアルビダは今、バーンに看て貰っている。実際今看て貰っているのはアルビダだ。火炎放射による火傷を治療している。どうやらマロンさんはアルビダが盾になって幸い火傷が無かったようだ。アルビダの火傷も加減されている。
「まだ、ヒリヒリするよぉ〜。」
「フッ、ドンマイ。」
アルビダが引いてきた火傷の痛みをまだ感じているのを俺は笑いながらなだめる。アルビダは「馬鹿にしてんの。」と尋ねる。おぉ、コワイコワイ。
「次はお前だ。」
バーンはそう言って治療の準備を始める。言葉だけ聞くと戦いの最中みたいだ。バーンはそんな俺の心など知る由もなく黙々と治療を始める。慣れた手つきで治療を進め、エアスラッシュで傷ついた身体は段々活力を取り戻し始める。これならすぐ動けると俺は思った。だが、バーンがそれを許さなかった。
「少し、お前の波動が乱れている。精神を安定させろ。」
バーンは俺に安静を命じた。最近安静が多い。理由は言うまでもないが、今回は理由が違った。
「波動を安定させろ……って、波動が判るですか?」
俺は安静についてより、バーンが波動が判るのに驚いた。バーンは俺の種族みたいに波動を判別する力が元々使えるのでは無く、種族は元から使えないリザードンだ。波動を判別する力を身に付けるには最低3年かかる。改めてバーンの凄さが判る。しかし、本題の波動が乱れているのはよく分からない。精神を安定させろと言うのはどういう事だろうか。
「とにかくだ、自分を理解しろ。」
バーンの言う言葉の意味が分からなかった。自分を理解しろなんてそんな大ざっぱな言葉で済ませるって……。俺は一体どうしたんだろう?
−知りたいか?
俺が考え始めると同時に久し振りに水晶が話しかけてきた。俺が追い詰められたら現れる。妙な奴だ。しかも、現れる度に大抵は俺に問い詰めてくる。今回もだ。
−君はどうして、こんなにも心が汚染されてるんだい。
しかし、今回は口調を変えて別の質問を投げつける。先に聞いてきたのはそっちなのに。他の水晶の主達もコイツのような奴が現れるのか?
−残念ながら僕はこの水晶にしか現れないよ。
コイツは何がしたいんだろうか?返ってきた返事は少しガッカリする内容だ。
−君の波動が乱れている最大の理由は君自身が一番分かってる筈だ。
−そんな事言われてもなぁ、じらすなよ。余計分からなくなるよ……。
−仕方ない………、じゃあ分からせてあげる。君のお父さんはどうなった?
−それは……、言うまでもないだろ。父さんは俺が無力だから居なくなった。だから、俺は憎かった。アイツが、ルワールが憎い。
−それだよ、君の波動が乱れる原因は。憎むあまりに君は心を徐々に歪ませている。
−アッ、コイツ!はめやがったな!俺にあんな事を思い出させて何がしたい!?
−僕はあの事をまだ受け入れていない君に早く大人になれって言いたいのさ。あの事が君の闇にならないようにきをつけるんだよ。
−おい、待て。話は分かったが、聞きたい事がある。
お前は一体何者だ?
俺は水晶に尋ねる。正体は何なのか、どうして、この水晶だけなのか。色々と聞きたいことが山ほどあっての質問だ。
しかし、ここから先は何にも聞こえなかった。
★ (バーンサイド)
「少し、散歩してくる。」
俺はカバンを抱えて、レオ達にそう言って羽を広げる。それを聞いていたムサシが「分かったでござる。」と答える。実際はあまり目立たないところで、アルセウス様に報告するつもりなのだがな。とりあえず、目立たないところを探さなくては……、と俺は困り果てていたのだがすぐにいい場所が思い浮かんだ。レオ達と今日戦ったあの川はあまりポケモンが居ない。報告するにはそこが丁度良いだろう。俺は行く場所を決めたら羽をはばたかせ空に向かって飛んで行った。やはり、こうやって飛ぶのはなんだか気持ち良い。小さい頃はまだヒトカゲで「いつか立派なリザードンになって大空にはばたいてやる!」と言って早く進化したいがために必死に自分を鍛えていた。あまりに必死過ぎたためか友達が少なくなってしまったのは今でも残念に思う。でも、過去は過去であり、あまり悔んでいたらキリがない。
しかし、水晶の主達は違う。あの水晶は伝説では別名"呪いの水晶"と呼ばれている。その名前がついた理由は恐らく、あまりにも憎しみが強く、穏やかな水晶の主でさえも憎い相手を殺そうとする殺意―、"心の闇"が深く関わっている。憎しみが強い主が憎い相手を呪い殺すという意味もあるかもしれない。あの水晶には憎しみを制御する力があるとアルセウス様から教えて貰ったのだが、それにも限界はあるとも教えられた。あまりに強過ぎると水晶が覚醒し封印されている"第二の創造神"が復活してしまうそうだ。そして復活したその時、世界は血の空に包まれ、古の世界は一度滅びて再生する……と非常に恐ろしい話だ。もちろんそうなったらこの世界の全ポケモンどころか、人間界と呼ぶべきところにいる人間も片っ端から滅ぼされてしまい、古の生命体として新たな創造神の礎となる。
レオの波動を見てみると、そんな事になる可能性をレオが秘めていることが分かった。彼がトリガーになって第二の創造神の復活があり得る。今俺にはそんな不安がよぎっていた。この事をアルセウス様に報告すべきか迷ったが俺は覚悟した。奴らはもしかしたらこれを狙っているかもしれない。そんな事は絶対になってはならない。
そして、気がついたら目的の川にたどり着いていた。それを確認できた俺はゆっくりと川の近くに降りる。とりあえず、報告できる場所を探さなくてはいけない。もし、報告が"Samsara"の奴らに聞かれると大変だ。
「よし、ここで良いかな。」
俺は適切な場所を見つけられた。周りには誰か要るようには感じられない。これなら何の躊躇もなく報告ができそうだ。俺は早速持ってきていたカバンから透明な水晶を取り出す。俺がアルセウス様と連絡が取れる唯一の手段だ。今の状況をとりあえずアルセウス様に伝えなくては……。
ヴゥン!
取り出して間もなく、不意に水晶の映像がつながった。あまりに不意だったため思わず「うぉ!?」と叫んでしまった。イカンイカン、取り乱してはだめだ。ちゃんと報告せねば……。
「バーン、少し話がある。」
そんな俺の落ち着こうとする行動は不意に聞こえてきた声に遮断される。声主はアルセウス様だった。こんな不意に回線を開いて来て何事もなく話しかけてくるというのは相手にし辛い気がする。しかし、俺に話とは一体何なのだろうか……。
「"第5の水晶"の主だが……、お前は不安か?」
なるほど、もう分かっているようだ。わざわざ話す必要もない。取り敢えず「はい。」と言った。世界の命運が書かているのだ、怖くないわけがない。その返事を見てアルセウス様は「そうか……。」と呟く。
「奴は危険だが、もしかしたら"第二の創造神"を抑える器としての可能性を秘めている。」
アルセウス様が次に放ったこの一言は俺を驚愕とさせた。何故そんな事が分かるのだろうか。全知全能の神とはやはり全てをお見通しなのだろうか?
「今後もちゃんと見張ってくれ」
アルセウス様はそう言って回線を切った。俺は「分かりました。」と独り言をつぶやき、アルセウス様の言った言葉を整理する。もし、その通りならたとえ奴らがどんな事をして世界を零に戻そうとしても希望はある。
「レオ、お前は希望か絶望か……どちらの方舟となるのか。」
俺はもう一度そう独り言を呟くと透明な水晶をしまい、羽を広げてはばたいた。
★ (???サイド)
「ハァハァ…何処まで追いかけて来る気だい。」
南国のとある所で、あるポケモンが逃げている。そのポケモンは大分息を切らしておりまさにピンチだった。どうしよう、と言う言葉で頭の中はいっぱいだ。今ここで、やられるわけにはいかない。奴らの目的が自分の持つアレだともうそのポケモンは気付いている。しかし、もう限界だ。逃げようにも息が切れて走れない。そのポケモンは羽を持っているが生憎飛行タイプほど上手に飛べない。この状況は積んでいるといってもいいくらいだ。そのポケモンはもう無理だと思い諦めの意思を追いかけているポケモンに示す。追いかけてくるポケモンはそれを見て急に早くなりテンションが上がっていた。追いかけてきたポケモンの種族はオコリザル。顔つきは名の通り"怒り"という言葉がふさわしい。
「ぜぇ……、ハァ……、始めから……ぜぇ、そうやって……諦めたらよかったのによぉ。」
だが、オコリザルは急に早く走り過ぎたためなのかものすごく息を切らしていた。そのポケモンはこれを見てチャンスだと思ったのかオコリザルにばれない程度の笑みを浮かべる。コイツさえ何とか足止めする事が出来ると確信した。
「分かりました、これをあげますので命だけはどうか……!」
そのポケモンは持っていたポーチから緑色の水晶を取り出し、オコリザルの差し出す。それを見てオコリザルは満面の笑みを浮かべる。すぐにそのポケモンから水晶を取り上げ本物かどうかを確認し始めた。確認の最中はそのポケモンに興味など始めからいなかったかのようにオコリザルはそのポケモンの存在を忘れていた。勿論、それは大きな隙である。そのポケモンはばれないようにとゆっくりと準備を始める。
「よっしゃ!間違いなく本物だぁ!」
オコリザルは水晶が本物だと分かるともの凄く嬉しそうに飛び上がる。完全にそのポケモンのことなど忘れている。ハッキリ言ってバカとしか言いようがない。完全にオコリザルは危ない状況へと確実に渡って行った。
「"超音波"!」
そのポケモンが放ったのは対象に音を放ちその音を体中に浴びた物を混乱させる技―、超音波を放つ。オコリザルはこの思わぬ反撃に戸惑い避ける事が出来なかった。目の前がうまく見えなくなり感覚が狂いだしたときにそのポケモンは攻撃を始めた。
「"騙し打ち"!」
格闘タイプのオコリザルには効果はいまひとつなのだが目くらましには丁度良い上に、次に放つ技を当てやすくするためにもこの行動は必須である。そのポケモンは周りから砂をかき集めそれを自身の羽で起こした風に乗せオコリザルを一定時間拘束するために技を放った。
「"砂地獄"!!」
放たれた技―、砂地獄はオコリザルをあっという間に包み込みオコリザルの手から緑色の水晶を吹き飛ばす。水晶は綺麗にそのポケモンの元に落ちていき完全にそのポケモンが放った技の3連発による勝利を飾った。オコリザルは「覚えてやがれぇー!」と叫んでいるが気にしてはいけない。奴らに同情などしてはいけないのだとそのポケモンは自分に言い聞かせる。
「僕の大事な家族を奪った罪を忘れてはいけないよ。」
と、呑気に言っているが表情は憎しみというものが大量にあふれ出ていた。それに共鳴しているのか水晶がほんのうっすらと輝く。
このポケモンこそ第4の水晶である"緑の水晶"の主である。