part3
イース村から出る日の朝、すっかり完治した俺とムサシは旅に出れる事にワクワクしていた。マロンさん、アルビダは欠伸をしてなんとも眠たそうだが……。
今日はクローが言っていた"leading"の幹部のリーダーと合流し旅に出る予定だ。待ち合わせの場所はこの先にある巨大な川である。クローが心の準備をするようにと言っていたがあれはどういう意味なんだろうか。今から会うのはとんでもなくヤバいポケモンらしい。どういう意味かによってはまだ助かる。だが、クローはどういう意味かを一切教えてくれなかった。「直ぐに分かるよ」と言いジャネール達とともに行ってしまった。
「意外に面倒だな、この地図通りに行くのは」
俺は地図と方位磁針を見て呟く。イース村の村長がその川までの地図をわざわざ書いてくれた。おまけにその川の写真ももらえた。地図は綺麗に描かれており迷う事がなかった。だが、その途中に俺はもちろん奴に苦しめられていた。
「レオ!綺麗なお花畑だよ〜!」
俺は呑気そうな声を聞いてハァと溜め息をつく。これで何回目だろうか。前はスピアーに追われるという最悪の展開付きなのでまだマシなのだが……、コイツは目的を覚えているのか。クローの言う覚悟が要るというのはきっと厳しいからだろう。あまり待たせるのは良くない。なのにコイツは今お花畑で駆け回っていた。
「綺麗ね、この花は確か……、駄目ね思い出せないわ」
マロンさんはそんなマイペースなアルビダと一緒にお花畑に入って行った。ムサシも「まぁ、いいではないでござるか」と言ってアルビダ達を追う。俺は渋々とアルビダ達の向かった花畑に向かう。
「この花は確か……"グラデシアの花"だったかな?特定の地域にしか咲かない花だね。シェイミと言うポケモンがこの花が咲く地域に存在するらしいのよ」
アルビダはそう言って自信満々に俺たちに説明をした。因みにこいつは花が好きで家には母との共有で花畑がある。一度見た事があるが綺麗だった。様々な花が咲いているし、なにより丁寧な手入れが施されていた。なぜ、こんなに栽培できたのかは分からないが。
「しかし、レオ殿。見て欲しいものがあるのでござるが……」
ムサシは俺に何か言いたげな表情で近寄ってきた。見せたいものがあるとはどういう事か。ムサシが見て欲しいものがある場所へ向かうと俺もそれについてムサシが向かう方向へ足を運んだ。ムサシはゆっくりと花に影響が出ないように歩き、俺もそれをまねるように足を踏み入れる。そして、花畑を出た途端にムサシは走り出す。それも何やら急いでいる様子だった。
「何を急いでるんだ?」
俺はムサシに急ぐ理由を聞く。ムサシは一生懸命なのかその声に気づいていない。その様子からして随分と荒い急用が出来たみたいである。しかし、いつ見たんだ?
「レオ殿、これでござる。この景色は……写真と酷似してないでござるか」
ムサシは到着するや否やどういう事かを説明した。俺は言われたことを確認するためにウィリアムさんからもらった写真を見てみる。何度も見比べてみると確かにこの場所は写真と同じだ。そこで地図を見てみるとこの花畑はどうやら目的の川に沿っているらしい。偶然にも予定より早く目的の場所にたどり着けたのである。
「あいつの珍道中がまさか役に立つとはな……」
俺はこの意外な事にすこぶる驚く。それにムサシも「同感でござる」と呟く。とりあえず俺はこの川に目的のポケモンが来ているか確認する。種族はリザードンである。だが、通常のリザードンとは違う点を持っていた。
「黒色でござるな、色違いみたいでござるな」
色違い―、今から会う予定のポケモンは通常とは体の色が異なるというリザードンである。クローの説明ではなかなかきついらしい。強さはあのモリさんを圧倒するほどらしい。味方にこれほど強い人がつくのはありがたい。それも幹部最強とは申し分ない。どんな人なのかな……一度手合わせしてみた……、
「レ〜オ!!ごはん食べない?」
不意にアルビダが俺達に声をかける。俺達はそれを聞くとまた後でいいかと、その場から離れてアルビダ達の元に向かう。料理はもうアルビダが作り終えているようだった。いつの間に作ったのかは定かではないがいいにおいが俺の鼻を透き通る。いいにおいだ……。料理を作って食器に料理を盛るアルビダ、料理が盛られた食器をいつの間にか建てられたテーブルに運ぶマロン、そしてテーブルに座って料理を待つ黒いリザードン。
「「ん!?」」
ちょっと待て、最後がおかしいぞ。なんで黒いリザードンがここにいる?待ち合わせはあの川のはずだ。目的のポケモンと別なのかなと思うが、しっかりと色違いだ。俺は目にゴミが入ったかなと思い手を使って掃除した。だが、俺の眼は相変わらず黒いリザードンを映している。どういう……事だ…!?ムサシも少し混乱したのかキョトンとしている。とりあえず確認のために俺達はそこへ向かう。
俺達が向かうのに気付き俺達を見る。たどり着いた俺達に「なんだ?」と尋ねる。
「貴方は、バーンさんですか?」
俺は立て続けに全力で走り少しは疲れたのかぜぇぜぇと息を吐いていた。俺はバーンさんと思われるリザードンに尋ねてみる。
「あぁ、そうだ。お前らが水晶の主達だろう?」
バーンさんは俺の質問に答えて今度は逆に質問してきた。それに俺達は「はい」と答える。それを聞いてバーンさんは笑顔になって俺達に手を差し伸べた。
「もう分かっているけど、俺はバーン。宜しくな」
その声はクローの説明とは違いやさしい声だった。俺は不思議に思いながらも差し伸べられた手を握る。握手だ。俺はその握手後にも不思議に思いながらもテーブルに座る。結局なにを覚悟しなければいけないのか分からない。
★ (ムサシサイド)
どういう事でござろうか。
今目の前にいるバーン殿は何だか聞いていたイメージとは全く違いすぎでござる。バーン殿は大食いなのかアルビダ殿の料理をもうすでに五回おかわりするという物凄い胃袋でござる。何というか…分からない所。
「お前たち、"Samsara"の六皇とは戦えそうか?」
拙者が何となく考えていたらバーン殿は拙者達の実力について尋ねてきた。その質問の答えは勿論「無理」の一言でござる。とてもそう答えざるを得ない事が歯がゆくて嫌でござる。
「そうか、ならば今から訓練が要るな」
バーン殿はそう言って少しニヤリと笑う。その笑みはとても不気味で嫌な予感がするものでござった。もしや、この嫌な予感はクロー殿の言う気をつける事なのでござろうか。しかし、特訓とは如何なるものでござろうか。
「簡単に言うとお前ら四匹いっぺんに俺にかかってこい」
今なんと仰ったのでござろうか?本気で言っているのでござるか?いくら何でも相性がいい二人がいても相性が悪い拙者とアルビダ殿がいる。しかも、4対1なんて多勢に無勢なのではないでござろうか?しかし、バーン殿は余裕綽々としており準備運動を始めた。まだ、拙者達はやるとは言っていないのでござるのに……。レオ殿はどう思うでござるか?
「よし、やろう!アルビダ、マロンさん、ムサシ行くぞ!!」
レオ殿に聞くのはいけなかったのかもしれないでござるな。マロン、アルビダ殿は……。
「良いわね、バーンさんの実力も把握しなきゃね」
「私も頑張らないと」
「そうでごさるな!」
うむ、見事に流れにのってしまったでござる。マロン、アルビダ殿は何だか珍しく真面目に見えるが勝負とはそういうもので無くてはいけないでござるな。
そんな拙者達の様子を見てバーン殿は笑みをこぼし、そして何かを思い出したかの様に口を開く。
「勝負は一時間後に約束していた川に来い。お前達は準備運動でもしてろ。あと、必ず……
本気で来い」
バーン殿はそう言って川の方に飛んでいった。最後の言葉は師匠と同じ種類の威圧感を拙者達に放っていた。
「負けられねぇな」
レオ殿は熱い闘志を放っていた。拙者はそれを見て自分を奮い立たせる。そうだ、勝つんだ。
拙者もレオ殿に釣られて胸に闘志を宿す。
★ (レオサイド)
さて、あと10分後にはあの川に行かないと…。久し振りの実戦だ。気を引き締めて行かないと数では有利でも負けるかもしれない。
「レオ殿、準備運動は終わったでござるか?」
ムサシは俺に準備の調子を尋ねてくる。俺は「バッチリだ」とだけ伝え周りを見渡す。見るとアルビダがいない。いつの間にかいなくなっていた。戦う前だというのにどこに行ったというのだろうか?
「アルビダちゃんなら先に川に向かいましたわ」
マロンさんは俺がアルビダを捜しているのに気が付いたのかアルビダの行方を俺に伝える。何だそういうわけか、と俺は納得する。そうならば早速行こう。バーンが待つところへ。
俺は目的の場所に向かって走り出す。それに続いてマロンさん、ムサシが走り出す。しかし、何故いきなり勝負を仕掛けてきたんだろうか?実力試しなら敵が現れた時で十分なのでは無いだろうか……。クローが言う気をつける事はこの事だろうか?しかし、いくら思案したところで意味はない。ならば、戦って分かればいい。俺はそう思って走る速度を上げる。
気が付いたら、もうすでに目的の場所に着いていた。そして、アルビダとバーンさんがどこに要るのか捜してみた。そして、二人を捜すのは容易だった。尻尾に炎を灯しているのてでバーンは分かり易い。極め付きには色違いであることが最大の決め手だった。その近くにはアルビダが立っており、何か焦っているようだった。どうやらバーンと話しているようだ。だが、都合が悪く強風が吹き荒れており、聞き取りづらい。
「南国に…がいるかもしれないって本当ですか!?」
「まだ、確証は無いがな」
くそ、一番大事な所が聞き取れなかった!一体何を話していたんだろうか?聞き取れた言葉から判断してアルビダにとって大事な事なのは間違いない。でも、何があったけ?
「まさか……」
俺はある可能性があることに気づく。アルビダはその為に旅に出たんだ。大事な事はきっとそれだ。でも、何故バーンが知ってるんだ?
「おい、そこに居るんだろう。さっさと始めるぞ」
バーンは既に気づいていたのか、俺達を呼ぶ。そうだ、俺達は修行の為に此処に来たんだ。
「いくぜ!」
俺はそれを合図にバーンに飛びつく。マロンさん、ムサシもそれに続く。バーンはそれを見てフッと笑みをこぼす。
「甘い攻撃じゃ俺は倒せんぞ!」
バーンはそう言ってエアスラッシュを放つ。放たれた空気の刃は俺達に急速で接近しているのだが俺達に当たる心配はない。
「アルビダ!」
俺はアルビダに呼び掛ける。アルビダはもう分かっているのか俺の希望通りの行動をしていてくれた。アルビダが放ったのは10万ボルト。この技であのエアスラッシュを打ち破るのである。俺の目論見通り10万ボルトはエアスラッシュと相殺される。力をうまくコントロールされていて電撃が全然こっちに及ばない。今回の作戦はメインアタッカーはムサシで、アルビダ、マロンさんが後方支援に回り、俺がムサシを護衛だ。至極単純だがなかなか悪くない作戦のはずだ、……多分。
「行ってきなさい、ムサシ」
マロンさんはそう言って地面に着地する。草タイプである彼女はバーンに接近してはいけない。炎・飛行タイプのリザードンはタイプの両方が草タイプの天敵でしかない。おまけにまともな有効打がない。だから今回はアルビダと同じ後方支援に回らせた。
「いくでござるよ、レオ殿」
「あぁ、分かっている」
俺とムサシは互いに呼び掛け駆け出す。俺が前に立ちムサシが俺の後ろに回った。こうして俺が盾になってムサシの攻撃を邪魔させないようにする。俺は二連波動弾、ムサシはシェルブレードを作っていた。俺は二連波動弾の一発をバーンに放つ。バーンは避けるまでもないと判断したのか体で受け切った。よし、想定通りだ!俺は予測通りである事に感謝しつつもう一発放つ。先程の波動弾を食らってさすがに喰らい過ぎたらヤバいと思ったのかバーンは避ける。さすがにこれは予想外だが計画には何ら支障は無い。
「なるほど……、いいアイディアだ」
バーンは俺達の考えに気づいていたのか楽しそうに笑う。そう、計画とはムサシの放つ技を当てるためだ。ムサシの放った技はシェルブレードを利用した技――、
「"シェルブーメラン"!!」
カッコよく説明したがあくまでシェルブレードをエネルギーを宿したままで投げただけだ。因みにブーメランなのでちゃんと帰ってくる。だが、当たれば帰ってはこない。それを回収するのは俺とマロンさんだ。
「ぐぁぁっ!!」
一方、シェルブーメランは恐ろしい速度でバーンに直撃する。シェルブーメランの水のエネルギーはバーンに良いダメージを与える。これなら……、
「大分有利になる…………、
とでも思ったかっ!!!!」
だが、バーンは違った。シェルブーメランのエネルギーを掴み取っていた。さっきの叫びはただ単に掴んで痛かっただけだろう。だが、これでダメージは最小限に抑えられホタチを1個バーンに奪われてしまった。
「お前らは確かに強い、そこらのポケモンなら瞬殺だろう……。コンビネーションも君で間もないにしても最高、技の威力も申し分ない。だが、しかし!この俺を倒すには程遠いわっ!!!フハハハハハハハ!!」
バーンはなんだか急に性格が変わったのか高笑いと訳のわからない言葉使いで話す。クローの言う気をつけろというのはこれで分かった。間違いなくこの事だ!!バーンは息を吸いエネルギーを溜めて、火炎放射を放つ。その方向はアルビダ達だった。
「まずい!」
俺は今から起こる事は非常にまずい事を悟った。これでは作戦ガタガタになる。俺は波動を溜めながら走る。二人にはこの火炎放射を破る火力は無い。二人を守るためにも火力に自信がある俺が出ないといけない。
俺は、間にあえ!とひたすらに願う。この勝負はあくまで実力試しだがやはり勝ちたい。俺は出来る限りスピードを速くする。よし、間にあう!
俺は、溜めていた波動を出来る限り回転させる。今から放つ技は相殺は出来るが大きな隙ができる。しかし、そうも言ってられない。
「"螺旋波動"!!」
俺は回転させた波動を火炎放射に放つ。放たれた波動弾は回転をしながら火炎放射を貫いていく。終いには火炎放射も螺旋波動も消えていた。
だが、バーンは甘くはなかった。
技の相殺で起きた煙で俺達が見えていない筈のバーンは的確に狙いを定めてエアスラッシュを俺達に放つ。何後も急で俺は足がすくんでしまった。
「なにっ!ぐああぁ!」
急な不意打ちに俺は驚き避けきる事は出来なかった。空気の刃に直撃する。この突然の光景にアルビダは「えっ!?」と驚いていた。だが、それが命取りとなったのかマロンとアルビダの前にバーンが現れる。これにはマロンもすぐに逃げようとするがもう間に合わない。既に火炎放射を至近距離で放たれてしまっている。
「「きゃあぁぁ!」」
火炎放射を食らい悲鳴を二人は上げるが大怪我はしていない。加減されているようだった。俺も手加減されており何とか立てたりは出来そうだ。しかし、戦うのは無理と言わざるを得ない。
「マロン、レオ殿、アルビダ殿!!」
ムサシは戦闘不能となった俺達を心配そうな目で見る。もちろんバーンはそれを見逃さなかった。バーンはすかさず持っているホタチをムサシに投げつける。ムサシは「わっ!」と言いながら何とかキャッチする。キャッチして"水流円舞"を放とうと準備するが時すでに遅し。
「これでは……」
そして、バーンの気合い玉がムサシに直撃する。この一撃でムサシも戦闘不能となる。
「まだまだこれでは勝てんぞ」
バーンはそう言った後に大量の医療道具を取り出し治療を始めた。
そう、俺達は見事に負けてしまったのである。