part2
その後も、俺とムサシはマロンの予想通り直ぐに良くなって寝たきりになって二日後にはしぶしぶと拘束具を取り除くマロンの姿が俺に映った。残念そうにしているのが怖いのだが……。
とはいえ、念のためにもう三日安静なのは変わりない。軽い運動が許可されるぐらいだ。と言う訳で俺は柔軟体操をし鈍った体の感覚を少しでも取り戻そうとした。
ムサシも柔軟体操をし、その後にはシェルブレードで素振りしていた。それがすごい気迫で気を抜くと切られそうにも思えた。危ない危ない……。
「もう、動いても大丈夫なのか」
軽い運動中の俺達に話しかけてきたのはジャネールだ。なんだか久しぶり声を聞いた気がする。ジャネールはピンピンとしている俺達を見て笑ってその後に何かを思い出したように口を開けた。
「何か思い出した事でも?」
俺はそのジャネールの様子を見て尋ねる。ジャネールはそれを聞いてさっきのラフな表情とは打って変わって少し真剣な表情になった。
「いや、あのな……あと12日後には俺とクロー、モリは本部に報告しなきゃいけねぇからここでしばらくお別れだ」
「そうなのでござるか?」
ジャネールは少し残念そうに言う。それにムサシは驚いているのか唖然としていた。モリもそっちに行くというのが主に原因なんだろうが。なんでもクローが言うにはもう水晶の主は欠番を覗いて目覚めているらしい。欠番があるというのはどういう事なんだろうか。
「どうしようか……、大分戦力が減っちまうな」
俺が最も心配している事、それは俺達四人での戦力ではどこまで“Samsara”の猛攻をしのげるのだろうか。他には水晶の主がどのような奴なのかそして何処にいるのか。これが分かれば苦労はしないが生憎分からない。クローはどうやら水晶のレーダーを持っているらしいが目覚めてしまった水晶はキャッチしないらしい。つまりクローの持つレーダーはこれで唯のポンコツとなっている。これらの悪条件がこれからの旅に付きまとう。これからこれで……、
「いけるのだろうか?、と思っているだろ?レオ君」
不安を巡らせる俺の心を見透かしているのか心の中で言おうとした事を先取された。毎度思う事だがこいつは悪タイプなんだよな?妙に人の心を見透かしてるし暗い表情を一切と見せはしない。コイツはどれだけ強いんだろうか?俺は戦う姿を見てはいない。時間があれば手合わせしてみようか……。
「それと、助っ人が居るんだよ。“leading”の幹部のリーダーが今こっちに向かってるんだよ。あと12日後には到着するし、心の準備しておいてね」
クローは悩みの一つである戦力の補充という課題をすでに済ませているようだった。しかも、幹部のリーダーだという。なかなか頼もしそうである。何人いる幹部のリーダーかはしらないけど。
ところで、心の準備と言うのはどういう意味なんだ?
「レオ、ムサシ。少し用があるんだが……」
だが考えるのはここまでのようだ。声をかけてきたのはモリだ。その隣にアルビダが立っている。何用だろうか。
「俺についてきてくれ」
★ (???サイド)
レオ達がシチューを食べた日の夜、あるポケモンがクローと話していた。
「クロー、水晶の主はどの位見つかった?」
そのポケモンは自身が持つ透明な水晶から映るクローと話していた。
【どう言うわけか、最後からの三人ですよ。どうやら、奴らに奪われた三番目は一旦機能を停止させていますね。恐らく、残りの三人は目覚めているかと】
クローは自分の上司と思われるポケモンに報告している。普段の彼が放たない種類の言葉があり、それを聞くポケモンはどこか威厳を放ちクローを変えさていた。
(相変わらずこの人と話すと背筋がビシッと伸びるような感覚だよ……)
「お前たちは一旦引き上げて本部に戻れ。そろそろ、上級ポケモンが集まる。リュー司令官がお前たちを立会人にするよう推薦された」
そのポケモンはクローに撤退命令を下す。その内容はクローを仰天とさせた。
【本当にリュー司令官が私達にそんな命令を!?しかし、それではその間の水晶の主の護衛が……】
クローは嬉しいのか夜中なのに飛び上がるが、直ぐに真剣な顔つきでレオ達の護衛の話を持ち掛けた。
「なぜ、そんな心配が居る?何の問題もないだろう」
それに対してそのポケモンは険しい目つきをクローに向ける。その視線の鋭さは画面の向こう側のジャネールを起こしかけた。
「えっ、それは一体どういう事で……」
"しょうか"と口にしようとした途端にクローはそのポケモンの言う言葉の理解した。しかし、それはクローに冷や汗をかかせる事になった。
(大丈夫かなぁ、レオ君達がリーダーについて行けるか心配だよ)
クローは心の中でそのポケモンのとると思われる行動でどうなるか考えを巡らせる。しかし、まだそのポケモンはクローの思っている行動するとは限らない。自分の杞憂かもしれないのだ。
「言うまでも無く俺がそいつらの所に行く。これで問題無い」
どうやらクローの思っていた心配事は杞憂では無かったようだ。それを聞いたクローはため息が出るのをこらえ、「分かりました」と言う。
(いい人なんだけど……、多少難があるな)
クローはそのポケモンの言葉をどうにか撤回させたいとは思えなかった。実際彼一人に任せても問題はない。
「バーンさん、くれぐれも暴れないで下さいよ」
クローはそのポケモンもといバーンに勇気を出してくぎを差す。しかし、あまり意味が無かったのか……、
「心配する事はない。
敵は全て燃やしてやる」
とバーンは言って険しい表情が血がたぎったようなものに変わっていた。これじゃ会話のキャッチボールが成り立ってない。
それを聞いてクローは諦める事にした。レオ達なら上手くやってくれるだろうと思って現実から背くことにした。
「久々に敵を燃やせるのか……、楽しみだ。完璧に感覚を取り戻すためにも12日後位になる」
この言葉を聞いてクローは頼もしいのか恐ろしいのか分からなくなった。そして、バーンは水晶の回線を切る。
「さて、今から特訓だな」
バーンはそう言って目の前の壁に軽めの火炎放射を放つ。火炎放射が当たった壁はすぐに溶けていた。
★ (マロンサイド)
私は今イース村で最も豪華な家の中にいる。亭主はこの村の村長さんだ。種族はドダイトス。私は村長さんに聞きたい事があるため此処に来た。そんな私を村長さんは「どうぞ」の一言で部屋に入れてくれた。
「村長さん、"7つの水晶"をご存知でしょうか?」
私は部屋に入るや否や唐突に村長さんに"7つの水晶"について尋ねる。それを聞いて村長さんは唖然とした表情をしていた。無理もない。いきなり来たと思えば訳の分からない質問だ。だが、村で一番この手の話について物知りであると私は知っている。
「そんな、おとぎ話を聞いてどうするんだい?」
村長さんは表情を曇らせて私を見つめる。どうやら、私の睨んだ通りみたいだ。しかし、何だか話したく無いと言いたげな様子だ。
「そのおとぎ話を聞きに参りました」
だが、私はそんな村長さんの事など気にせず平然と"尋ねる振りをした"。村長さんはそれを見てハァと溜め息をつく。完全に何か知っている。私にはそんな気がしてならない。
「よかろう、話してやるが……さっきから外で盗み聞きをしているのは誰じゃ」
村長さんは話す決心がついたのか雲やかな表情が徐々に明るくなっていた。そこで、私が気付けなかった外の誰かの存在に気づいていた。私は恐る恐る窓から覗いてみるが、そこで見えたのはレオ君、ムサシ、アルビダちゃん、モリさんだった。どうして気付いたのだろうか?考えてみればモリさんに気づかれたのであろう。ムサシ達は連れてきただけだ。
「イース村の村長さん、その話を彼等にも聞かせてあげてくれ」
モリは窓越し村長さんに話しかける。しかし、自分はいいのだろうか。ムサシ達はわかるが自分だって深く関わっていることだ。知る必要があるはずなのに。
「お主は知っているようじゃな、……ならば何故そなたが話さない」
村長さんはそう言って一息置いた後にモリさんを睨みつける。確かにモリさんは知っている様だ。なぜ話さないのかは分からないのだが。
「今日話そうと思っていたさ。だが、この様子じゃその必要もないな。それに……、あの遺跡を知っているんじゃないのか?探検家ウィリアムさん」
モリはそう言って村長さんいやウィリアムさんを見つめる。何故モリは村長さんの名前を知っているのだろうか。しかも探検家って……、一体どうなってるの!?村長さんいやこの流れだとやはりウィリアムさんが良いのだろうか。ウィリアムさんは若干冷や汗をかいており、重大な過去を示しているらしい。やがて、落ち着いてきたのか今度こそ話す気になったようである。
「"7つの水晶"は昔、ある遺跡に保管されていた元は一つの宝物だった。その頃はまだこの世界に人間が存在していた。ある日、その人間とポケモンは……」
「少し待ってほしいでござる。人間とはいかなる生物なのでござるか?」
ウィリアムさんが水晶の伝説を話そうとするがムサシが横槍を入れる。私は話が途中で切れたことにいらだちを感じる。つい、「あんたは黙りなさい」と言ってしまう。
「そうじゃ、忘れていたわい。人間と言う生物は2足歩行でとても賢い生物でのう。私達を初めてポケモンと呼んだのは人間での。人間は私達ポケモンのように技を解くには持っておらずひ弱な生物じゃった。じゃが、賢い故に摩訶不思議な道具を作りだしてポケモンと完全に渡り合える力を持っていた。と、大まかな説明はこんなものかのう……」
ウィリアムさんは非常に大まかな説明で私達に人間について説明する。こんな生物がかつて居たとは……。
「では、話を続けようか。ある日一部の人間はとうとう禁断の秘術を身に付けてしまったのじゃ。その秘術によって私達ポケモン達の怒りを買い戦争に至った。その秘術は想像するだけでも恐ろしいものじゃ、
―何故なら私達ポケモンの体を乗っ取る事が出来るのじゃから」
「何故、人間はそんな能力を身につけられたのですか?」
ウィリアムさんがある程度話し終えたところでまた質問が入る。今度はレオ君だ。確かに彼の言うとおり何故人間はそんな能力を手に入れられたのか分かってはいない。
「それは確か……、最初はただの人間の興味本位だったそうじゃ。だが、あまりにも残酷な方法をとる為に善なる人間達もこの能力を封印しようとしたが、善の人間もいれば悪の人間もいる。悪い奴がその能力を悪用して神に反乱を起こした。手始めに神のポケモンの一角のパルキアの肉体を乗っ取ったのじゃ。その力で空間に穴をあけ神すなわちアルセウスのいる空間へ入り込み今度は別の人間を使ってアルセウスを乗っ取ろうとしたのじゃ」
ウィリアムさんはそこまで話し一旦息を吸う。この様子だとまだまだありそうだ。レオとムサシは眠そうにしながらも頑張って聞いていた。私とアルビダはイラッときて2人を叩く。2人は嫌でも目が覚め話を聞く体制に戻る。
「もちろん、失敗に終わり人間はアルセウスから肉片を奪って逃げて行った。その時はまだ恐怖の序の口だったのじゃ」ウィリアムはそう言って一旦話を切る。恐怖の序の口と言うのはどういうことだろうか。まだ、人間達は何かを仕出かしたのだろうか。
「アルセウスから奪った肉片で命が灯ってないアルセウスのコピーを作った。しかし、所詮は劣化しているのだが…神は神じゃし何よりコピーもポケモンじゃ。さて、ここまでくれば分かるじゃろう」
ウィリアムはそう言って下をうつむく。ここまでの話が衝撃的で"7つの水晶"の事は私達の頭になかった。まだ冒頭しか出ていない。
「アルセウスのコピーをある人間の少年に無理やり取り込ませ少年を唯一無二である筈の創造神へと仕立て上げた。唯一無二である筈の創造神が二人いる事はあってはならない。古の創造神となったアルセウスの世界は崩壊し始めた」
ここで私達に動揺が走る。これが事実なら"7つの水晶"が何故奴らが狙うのか分かったような気がしてしまった。
「完全に崩壊するのを防ぐ為に己のエネルギーを使い元は一つであった宝物に少年を封印し、7つに分解した。それが、"7つの水晶"。憎しみが強い者が持つ理由は封印された少年の怨みがその者を引き寄せるからじゃ。因みに、アルセウスはその後一億年眠ってしまったようじゃ。その後にアルセウスの部下が人間と私達を別々の世界へと引き離した」
ここでウィリアムの話は終わった。余りにも衝撃的で呆然としていた。
その日の夜私達はこの話を一切話そうとはしなかった。
そして、そのまま何事も無くこの村を去る日となった。