part4
「神前バトル大会?」
俺はマロンに疑問符をぶつける。
"神前"という事は神の前で行う試合なのか?
「はい、貴方の全力を見てみたいですし。エントリーは私が済ませておきますね」
マロンは笑顔でそう答える。
どうやら、俺の意見は無視のようである。
でも、面白そうだから出てみるか……。
「じゃあ、よろしく頼むぜ。マロン」
俺はマロンに頼んでおく事にした。
「レオ君、少し話があるんだが……」
タイミングを見計らってたのか、クローが話しかけてきた。
「何ですか?」
俺はクローに問い掛ける。
「レーダーは彼女、つまりマロンちゃんが水晶の主の可能性を示している」
クローはとんでもない可能性を示唆した。この発言で俺は動揺した。マロンが水晶のあるだという言葉は俺をざわつかせる。可能性の段階とはいえ驚くべき情報だ。
「クローさん、もしかしてレオがマロンさんを水晶の主に目覚めさせろと言うのですか?」
え……!?
俺とマロンが戦う?
「まぁ、頑張れ」
ジャネールは不意に会話に入ってきて素っ気ない言葉を俺にかける。
ていうか、クロー達は出ないの?
「僕とジャネールは高みの見物でもさせてもらうよ」
貴様等ー!!
★
「では、神前バトル大会の一回戦を始めるぞー!!」
五月蝿い実況と共にバトル大会は始まりを告げた。種族はぺラップの様で種族に似合った声量をマイクなしで放つ。それでも、充分にこの村全体に届いていそうだ。
「何で私まで……」
そう呟いて不貞腐れているのはアルビダでなんとも不服そうである。
「皆で出る方が楽しいじゃないですか」
マロンは微笑みながらそう言った。マロンは俺の参加のついでに勝手にアルビダまで参加させたらしい。そのためかアルビダはマロンを冷ややかな目で睨みつける。
アルビダの参加はマロンによって勝手に決まった。
「さて、対戦相手は誰だ?」
俺は二人のやり取りを無視していつの間にか設置されたトーナメント表を見る。
「あ、私とレオ君が戦うのは決勝戦じゃないと無理みたいですね」
「マロンちゃんと私が戦うとしたら準決勝だね」
二人は一回戦についてはノーコメントである。
「お前ら、余裕だな……」
俺はそんな二人に少し呆れながら苦笑いしていた。そんな2匹からすぐに俺は目を離しトーナメント表に目を向ける。参加人数は64匹みたいでズラ―ッと並ぶ対戦表を見て自分の名前がどこにあるか確認しようと俺は必死に探していた。
「エントリーナンバー55番レオ選手。5番リングで試合があるため準備してください」
不意にアナウンスが鳴り響き俺はドキツとする。どうやら俺は第一試合のようである。俺は渋々とその場で軽い準備運動を始める。しかし、5が続くな……。今日はどうでもいい事と重要なことが多い日だ。
俺は準備運動が終わり、5番リングに向けて走り出す。そのリングの横にはなにやら古いがディスプレイがついていた。5番リングを見ると観客がとんでもない数である。他のリングとは比べ物にならない。俺は絶句し緊張が高まるが、すぐに気を取り直しリングに用意されていた木製の梯子を上る。リングは建てが高くできており横の幅もそれに負けず劣らずの広さである。
「お主がレオ殿でござるか?」
不意に聞こえた聞きなれない口調に俺は反応しその声がした方へ向く。そのポケモンは全体的に水色を基調とした体で足は青くその両股には貝殻があった。種族は見たところフタチマル。あまり見かけない種族で当たっている自信はない。
「あぁ、すまぬ。自己紹介が先でござるな。拙者はフタチマルのムサシと申す。お手合わせ願おう」
俺の予想通り種族はフタチマルのムサシと名乗るポケモンはなんとも変わった口調で話す。こいつが何故こんなに観客を集める理由は不明だが強いんだろう。気を引き締めないと負けるかもしれない。
「こんにちは、俺はリオルのレオ。ムサシさんは強そうで初戦から面白そうだ……」
俺は軽く自己紹介をし最後にムサシについてコメントする。そうはいっても俺は負ける気などない。早いうちに勝負をつけよう……。
一方、ムサシは「此方こそ」と返し向こうも負ける気はない。互いに気を集中させて試合の始まりを今か今かと待っていた。
その待つ時間はあまり長くならないうちに実況が来たことでもう少しと言うところに迫った。それと同時に各リングにはとてつもない緊張と闘気が殺到としていた。その殺伐とした空気を実況のぺラップはものともしようとせず大分慣れた感じである。それから1分も経たないうちに実況は大きく口を開いた。
「では、これより第一試合を始めるぞー!この第一試合の注目は何と言っても5番リングだっ!!前回のジュニアの部の優勝者のムサシの試合だぞ!!そして、対する相手は今回が初挑戦のリオルのレオ選手っ!!何処まで食らいつけるのか見ものです」
実況はそう言って深呼吸をする。実況が言うにはどうやら俺は明らかに格下に見られているらしい。その様なら俺がムサシを倒しダークホースになってやれば面白そうだ。ていうか、部門なんてあるの?
「では行くぞ第一試合、始めっ!!」
そんな、俺を実況つゆとも知らずに実況の大声とともにカンッと金属を鳴らす音が鳴り響く。それと同時に俺は電光石火でムサシに接近する。
ムサシは腿から貝殻を取り出し気を集中させる。貝殻からは水色のエネルギーが刃の形になって現れた。この技は“シェルブレード”。
「ふんっ!!」
ムサシは掛け声と共に力よく貝殻を振り落とした。俺はそれをバックステップで避ける。だが俺にもう片方のエネルギーが当たる。かなり計算された攻撃である。避けた方のエネルギーはそのままリングの床にぶつかった。リングの床はエネルギーに切られ綺麗な切り口ができていた。見るからに威力は高い。
だが、俺も負けておらずバックステップと同時に右の掌に波動を集める。ムサシは追撃と言わんばかりに突っ込んでくる。それを見て俺は右の掌を近づいてくるムサシに向けた。
「“空波動”ッ!!」
俺は掌から見えない波動を放出しムサシを吹き飛ばした。その攻撃でムサシは辛そうな表情をする。効いているみたいだ。
「なんと、レオ選手!!見たことのない技でムサシ選手に強烈な一撃をヒットさせたぞー!!」
実況はたいそう驚いたようで声のトーンが興奮していた。しかし、見たことのない技“空波動”はあくまで波動弾の派生だけどな。
俺はムサシに一発喰らわせたところで再び電光石火で接近した。ムサシは既に攻撃の態勢に入っていた。
次の瞬間ムサシは体中に水を纏い高速で俺に突っ込んできた。“アクアジェット”だ。その速さは俺より速く威力も違った。だが、俺は先制技で仕掛けに行くわけではない。走りながらも片手に波動弾を用意する。
そして、俺がムサシとぶつかり、用意していたそれは投げるのではなくムサシも接近しながら用意していたシェルブレードと相打ちさせるために使用した。さすがにムサシも1個しかエネルギーは作れないだろうと予測での行動は見事に当たっていた。
ムサシは驚いたような表情で片手で防御の用意をするが技なしでの接近戦では当然格闘タイプである俺の方に軍配が上がった。読みあいに勝った俺はムサシに殴りかかる。その拳は微弱ながらも電撃を帯びていた。チャージがあんまり出来なかったがムサシを圧倒するには十分である。
「ぐぅ、なかなか出来るで御座るな。レオ殿」
ムサシは厳しい表情で俺をほめる。だが、すぐに普段の表情に戻る。やはり、未進化と一段進化のポケモンでは基礎能力の差が大きい。戦う度に俺は速くルカリオに進化したいと切に願うようになっていた。だが、今は真剣勝負の途中である。余計な思考は断ち切ろう。
俺とムサシは同時に駆け出し両手に俺は“二連波動弾”をムサシは“シェルブレード”を形成する。それと同時にリング周りの観客席に緊張感が走る。俺とムサシはそんな様子を全く知らずにただ試合、いや闘いに集中していた。
俺は片方を思い切り投げつける。ムサシは片方の“シェルブレード”で相殺を図ったのか片手を波動弾に向けるが、それはムサシの“シェルブレード”ではなくリングの床にぶつかった。ぶつかった波動弾は爆発し爆煙を漂わせる。
今の内に……!!
俺は心の中でそう思って爆煙に突っ込む。俺は煙の中で波動弾を投げる。これで俺は決まったとたかを括っていた。
だが、そんな俺の一瞬の油断がダメだったのか飛んだ波動弾は不意に放たれた大量のエネルギー体にバラバラに切り裂かれた。その余波は殆ど俺に当たり不意打ちを食らった俺は大ダメージを食らう。それはどうやら水タイプの技の様で俺はずぶ濡れだった。
「どうでござる、拙者の“水流円舞”は」
爆煙がはれると同時に聞こえてきたのは、今放った技の名を言うムサシの姿があった。だが、少し息が切れている。おまけに、平衡感覚を少し失っているように見えふら付いていた。今の技は詳しく見れなかったが相当エネルギーの消費が激しいのだろう。
「出た〜!!“水流円舞”は前回の大会での決勝戦にわが村のアイドルマロン様を沈めた技だぁ〜!!初戦から見られるとは、レオ選手もなかなかです!!ついつい他の試合の実況を忘れてしまう!!こうなったら他のバトルを無視して私はこのバトルの実況に専念するぜ!!」
五月蠅い実況はマイクなしでとうとう口調までの変化を少し遂げ、俺等のバトルの実況をする。ていうか、他のバトルの実況をしないし、さりげなくマロンが村ではアイドル扱いなどといった俺には衝撃的な言葉だ。おい、仕事しろよ。
「こうなったら、一か八か……」
俺はリングのひもの上にジャンプし勢いよく上部に飛んだ。もちろん、両手に波動をためて。俺が今からするのは今日使うだけで倒れてしまった“流星波動”である。俺のこの突然の行動に会場は一気にどよめく。空中にいても“水流円舞”の的にしてくださいと言わんばかりである。俺のたくらみを知らないムサシは“水流円舞”で迎え討とうとしているのか貝殻にエネルギーを溜める。そして、今の流れの内に完全に復活したのかムサシは右足を軸として回転を始めた。みるみる回転が速くなり次第に多くの水色のエネルギーを大量に放つ。恐らく遠心力を利用してスピードを上げエネルギーを放っているのだろう。シンプルだが相当辛い技であろう。まさに切り札だ。
「よし、溜まった!“流星波動”!!」
俺は今の間に大型波動弾を完成させそれを投げつける。巨大な波動弾は分裂していき何百もの波動弾になった。その光景に観客は「何だこれ」「もうジュニアのレベルじゃなぇ!!」などと叫び観客席から離れた。一つ一つの威力は“水流円舞”の方が圧倒的に上、数なら“流星波動”が圧倒的に上。この異常な闘いは速くもクライマックスに突入していた。
「何ということだ!オープンクラスの闘いを超えている!!今私は感動しています、こんな闘いはもう2度と見れない!!」
実況はこんな状況でも逃げようてせず興奮していた。おい、逃げろよ。
そうこうしている内に技はぶつかり合い、巨大な爆発音を立てる。大会の運営グループはもうこの戦いをただ傍観していた。4つのリングの試合は終わっているようだが一向に進んでいない。みんなこっちに集中しきっていた。
その頃、俺は空中から落下し何とか受け身をとったが強い衝撃には変わりなくその場で寝転ぶ。ムサシも酔ってしまい寝転んでいた。互いにエネルギーを消費しすぎてバテバテであった。
一方、技の勝負は引き分けの様で完全にかき消しあっていた。
「レオ殿、動けるで御座るか?拙者は動けないでござる」
「俺もです、この様子じゃもう……」
俺達は互いに動けるかを確認しあい、それを見て互いに勝負の結果を悟った。引き分けということになった。俺達2匹は同時に手を床に叩きつけギブアップと審判に伝えた。
大会の運営委員も相当驚いており注目の試合は両方がギブアップという形で幕を下ろすことになったからだ。
そして、観客はおろか運営委員まで歓声を上げこの勝負の俺達に声援を送った。優勝候補がいきなり初戦でギブアップ、その対戦相手はどこの誰だか知らないリオルでこちらもギブアップと第一試合から波乱である。
すると、何処からともなく実況がリングに飛び降りてきた。実況は寝そべっている俺達を寝ている形で握手をさせ大きく息を吸う。それを見て俺達はものすごく嫌な予感がした。
「おい、待てよ……」
「すこし、離れてくれないのでござるか……」
だが、もう遅かった―――。
「この勝負、両者のギブアップにより引き分け!!!!―」
意外なことに大声が俺達の耳に止めを刺し、耳をふさぐ間も与えられずダウンしたのは言うまでもない。