final part
諸悪の根源、ルーツが動かなくなったのを見てレオ以外の水晶の主達は安堵した表情となる。中でも一番喜びを表していたのは彼女であった。
「や、やった!やったよレオ!終わったんだ!」
アルビダがレオが倒したのを見て走ってレオの元に駆け寄る。ボロボロになったレオは立てもせず傷だらけなので乾いた笑いをしながらその様子を見る。
ムサシ、クレメンスは飛び跳ねて喜びハイタッチする。残りのアムネジア達は高揚とした気分でリラックスしていた。
「やったのか、俺……」
「そうだよ!これで奴らの陰謀も終わり!世界は平和なんだよ!」
『そうそう、勝ったんだしもっと喜びなよ』
「そうでござる!もっと笑ったっていいでござろう!」
レオが何となく実感が湧かない感じでいるとその場にいた皆はそれぞれレオに和気藹々と話しかけていた。何とも平和で先程とは大きく違っていた。
しかし、アムネジア達だけはこの光景に違和感を、正確には声に違和感を感じていた。
「なあ、なんか違うよな?」
アムネジアが引き攣った表情をしながらレオの付近を指さす。それを聞いたレオ達は辺りをキョロキョロと見渡す。特におかしな点は見当たらなかった。
マロンとテンコは何なのか気づいたのか、あるところをじっと見つめていた。ムサシが初めにそれに気づき、あるところに目を向けると信じがたい光景を目の当たりにした。
他の皆もムサシに釣られてその先を見ていると今にも消えそうな疑似アルセウス、アユムが立っていた。
『やぁ、ルーツを倒してくれてありがとう』
アユムはニッコリと笑ってお礼を述べる。その身体が今にも崩れそうなのとは明らかに反対のものをレオに見せつける。
7つの水晶にこの姿で封印されていたのでこれがアユムの正しい姿、元は人間でもそれは当の昔にないようなものとなっている。
「アユム、すまない……。俺はお前ごとルーツを消すことになっちまった……」
レオはそんなアユムの姿を見て悔しそうな表情をする。今のレオにとって何だかほっておけなく気が付いたらかけがえのない友達になっていた。
付き合いは短くてもその友達に手をかけることなんてレオは本心ではしたくなかった。しかし、それではルーツに好き放題させるだけであり、それこそアユムが望まない。
「レオ殿……」
「……」
ムサシは辛そうなレオを見てシュンとした表情となる。アムネジアは何か思うところがあるのか何も言わず自分の持つ剣を見ていた。
『いいさ、もう僕はとっくに死ぬはずだったんだ。最後に君たちと会えてよかったよ』
アユムが微笑んでそう言ってると、アユムの身体から何か粉のようなものが飛んでいった。そして目を疑うことにその場所から身体がなくなっていった。文字通り消滅していくさまであった。もう長くはない。
「あなた、もう……」
それを見たマロンはアユムの状態を悟る。もう長くないのは目に見えたのか顔を下に向ける。
それを横で見ていたテンコは何とも言えない複雑な表情をする。最後に来るのは別れなのか、と心の中で呟く。
水晶の主達は皆、過去に大切な者を失っている。その主達が因縁に決着をつけ決戦も勝利した後に待ち構えているのは別れである。
レオ以外はアユムとの付き合いはほぼ無いも同然であってもこの結末はやり切れずにいた。
『皆……顔をあげて』
アユムが気分が沈んでいる水晶を主達に声をかける。その瞳には涙を浮かべており一番悲しんでいるようにも見えた。
『皆、付き合いも短く突拍子もなく戦ってくれた。僕達の間違いを君達に背負わせた。けれどそれでも皆は戦い、勝ったんだ。そして、今は僕のために悲しんでくれている。』
アユムは淡々と語りだす。それと同時に皆の視線がアユムに集まっていく。そしてアユムの言葉はまだまだ続いていった。
『でもね……、それはもういいんだ。もう僕は満たされている、嬉しさで満ちている。だから……、そんな顔で悲しまないで。最後ぐらい笑っていようよ……。僕のどうしようもない我儘だけどさ、最後は笑顔で……』
アユムの瞳には涙を浮かべていた。もうこれ以上なく、誰よりもこの事実に悲しんでいるのはアユムである。
レオはその言葉を聞いてハッとする。レオは流していた涙を拭ってアユムに近寄る。
「そうだな、最後に悲しみだけ垂れ流しても……悲しいよな」
レオはアユムを見ながらそう呟く。レオも涙は止まらない、でも不思議と前より明るいものだった。
無理して笑っているわけでない。アユムの最期をレオは覚悟し、最期まで付き合うつもりでいた。
『ありがとうレオ君、もうこれで……おも……い……は……』
アユムはそんなレオの様子を見て笑みを浮かべて、体の消滅が加速していった。もうあと数瞬でこの世界からアユムは消えるのだ。
「さよなら、アユム」
レオがそう言ったのと同時にアユムが完全に散っていく。あまりにも唐突に来た別れの悲しさはレオの背中が語っていた。
「レオ……」
アルビダがレオの方に手を置いて悲しむレオを慰めようとする。
しかし、急に近くの水源からバシャっと音がする。それによってレオ達が一斉にその方向に目をやる。何が起こったのか不安げになっていた。
「よくぞ、やってくれたな」
そして、現れたのはアルセウス。今となって封印から逃れレオ達の元へやってくる。言った言葉は称賛、創造神からのこの言葉は重みが深い。
しかし、アルセウスは同時に申し訳なさそうにレオ達を見ていた。それが何なのかレオ達には見当がついていた。
「今回は私が撒いた種だ。ルーツのような奴が生まれることなど考えるのは容易いはずなのに……、申し訳ない。不甲斐ない私の責任だ」
アルセウスは悔しそうにし、頭を下げる。水晶の主達に対して頭を下げた。
「な、そんなの……」
「畏れ多いでござる」
マロンとムサシはアルセウスの謝罪に戸惑いを隠せない。まさか神話に生きるアルセウスが自分たちに頭を下げるなんて思いもしなかったのである。
「あなたが悔いることはありません、もう終わりました。今はさっき逝ったアイツのために祝いましょう」
アムネジアは珍しく丁寧な口調でアルセウスに意見を言う。それはアムネジアの気持ちなのかレオの近くに立ち寄って頭を撫でていた。
テンコはその行動に目を見張り、固まる。マロンはそれを見てクスリと笑い救急箱を取り出してレオの元へ走っていった。
クレメンスはそんな各々の反応を見て楽しそうに見ていた。アユムが消えたことによる暗いムードは徐々に消えていき皆が立ち上がろうとしていた。
アルセウスはその光景を見ながら自分はこの場から離れようと考えてある場所へと向かう。その先には今にも命尽きそうなポケモンがいた。
「ギラティナ、お前は後で治療しよう。キュレムと一緒にな」
アルセウスはそう言ってギラティナを抱えて空間に穴を開けてその中に入っていく。もう水晶の主達と自分は関わることはない、彼らが自分たちの手でこれからを選択すると確信したのである。
アルセウスは水晶の主達を見て一言、ありがとうと述べて空間に消えていく。それはアムネジアのみが気づいて会釈する。
「あれ?アルセウスは……」
レオは波動を探知してアルセウスが消えた事に気づく。その言葉で他の皆もキョロキョロと見渡す。
アムネジアだけはどこかに消えていくのを見たのでフッと笑って他の皆に声をかける。
「よし、帰るか」
アムネジアはそう一言言い放ってテンコの元に向かう。テンコはハッとしたのかレオ達を見て微笑む。
また、他の皆もそれを聞いてハッとする。もう終わりを迎えた自分たちに残されたのはまたもや別れである。
「俺たちは先におさらばさせてもらう。またいずれ集まろう」
「それまで元気にしててね。あ、私たちの住所はこれね」
アムネジアはサラリとおさらばと言って背を向ける。テンコはそのアムネジアの言葉に続けて自分達の住所が書かれた紙を手渡す。
「僕は南国出身だしここに残るよ。僕は探検隊になりたいし」
クレメンスはアムネジア達に続いてどうするのかを述べる。自分の目標があって行動する意思を見せる。他の皆にはない点である。
「拙者達はレオ達と一緒に帰るでござる」
「デルト村とイース村って近いしいつでも会えそうね」
ムサシとマロンはレオとアルビダに途中まで付いていくと言ってレオに肩を貸す。レオは嬉しそうに笑って一緒に立ち上がる。
アルビダも笑顔でそれを見ながらずっと言いたいことをレオに言った。
「レオ!私たちも帰ろう!」
「ああ!」
そして、それからムサシ達と一緒に西国に帰りデルト村の前にレオ達は立っていた。
「で、帰ってきたわけだ」
「そうね、なんか懐かしいわね」
レオが包帯で痛々しい姿をしながらも村の前で呑気に帰省の気分を味わう。見た目ほどきつくはないのである。
マロンも感慨深く村の前で佇み、村長に旅に行かされた時の事を思い出す。それを懐かしみながらドッと肩の荷が重くなるのを感じた。
「なぁ、今回もせーので行かないか?」
レオは不意に前回と同じようにせーのの掛け声で行くのを提案する。前この村から出るときもせーので行ってきますと言ったので今回は逆にただいま、と言わないかということである。
アルビダはそれを聞いてうんうんと頷く。乗り気なようでうきうきとしだした。レオはそれを見てよし、と心の中でガッツポーズする。
「じゃあ、いくぜ」
「せーの」
掛け声を早速初めてレオとアルビダは揃って走り出した。もう目の前にこの旅のゴールが見えているのである。
二人が村に入ったのと同時に口が開く。そして大きな声を張り上げる。それは二人の旅の終わりを世界に響かせる。
「「ただいま!」」