part15
レオは今までとは違う力を手にし、ルーツの前に立つ。その力は軽々しくルーツを怯ませるほどだった。
そんな力を目の当たりにしてルーツは歯ぎしりする。認められなかった、まさか今の自分を凌ぐ力を持つものがアルセウス以外にいたなんて。
「ならば倒してみろ」
ルーツはそう言って自身の身体を修復していく。今度は自己再生で体力の回復を図ったのだ。完了すればルーツにとって有利に事が運ぶのは間違いなかった。
「させるかよ」
レオはそんなことを許すわけにはいかず、ダッシュする。それはもう恐ろしい速さでルーツと距離をすぐに詰められた。
手には既に波動の塊がチャージされており、技をいつでも放てるようになっていた。そのままお得意の技で攻撃する。
「"空波動"」
掌から衝撃波のように噴き出す波動は今までとは違い速度威力ともに桁違いだった。ルーツはすぐに身体を動かしかすりながらも直撃を避けて、長い足で蹴って反撃する。
レオは蹴りをガードするが体重差から吹き飛ばされる。吹き飛ばされてもなお空中で宙返りし、きれいに着地してダメージを軽減する。
しかし、レオがそうしている間に徐々にルーツは身体を再生させていった。ルーツはしてやったといった顔をして今度は神速を使う。
先制技よりも更にもう一段階繰り出せるこの技はルーツの素早さも合わさって文字通り神速となる。レオは目を見据えて手をゆっくりと出す。
「なっ!?受け止めたっ!?」
しかしルーツは驚愕しており、徐々に表情が青ざめていった。
何故ならばレオは両手でルーツの神速を受け止めて尚且つその場から殆ど後ろに下がっていなかった。力負けはしていないのである。
「ここまでやるのね……」
「僕にはもう見えません」
マロンとクレメンスが息を飲む。今目の前にある光景は自分たちとは次元が違うものである。
「……」
ムサシは何も言えずその場で倒れながらレオの活躍を見ていた。自分たちの加勢はいらなさそうだと悟りゆっくりと邪魔になるまいとその場から離れる。しかし、ズキッと傷が痛み上手く動けなかった。
ポテッ。
「これは……オボンの実?」
ムサシは頭に何か硬いものが当たったのでそれを拾うと、珍しい木の実であるオボンの実が転がっていた。誰かに投げられたのはわかったので投げられた方向を見る。
「ほらよ、それ食え」
「あなたは同じ"東国"の仲間よ」
その目線の先には傷だらけになりながらもまだ動いていられるアムネジアとテンコがいた。彼らはその手にたくさんの木の実を持っていた。
「あんた、傷だらけになったムサシ達を見て必死になって探してたわね……。久々に見たかも」
「そ、そそそそそれを言うな!ちっ、俺は先に行くぞ!」
テンコはくすくすと笑いながら事の経緯を説明する。それを言われて恥ずかしくなったのかアムネジアは顔を赤くして声を荒げる。そのまま拗ねて他の者に木の実を私に行った。
ムサシはその光景をほほえましく見てからオボンの実をかじる。そしたらみるみると体力が回復していった。
「かたじけないでござる」
ムサシはそう言ってその場から離れていった。
「くそぉ!何故私の攻撃を抑えられる!」
「今のお前のための力だからな、そうじゃないと意味がない」
ルーツとレオは、攻防を繰り返しながら口論する。不毛で無駄な論争に付き合わされるレオは今度は"空波動"の上位互換の"烈波"で攻撃する。
先程までとは比べ物にならない衝撃波はルーツのバランスを崩しその場から吹き飛ぶ。自分より圧倒的に体重の低いリオルの力に自分は負けていたのだ。
レオは上がった脚力を活かしてジャンプする。右手には大きな波動弾が形成されており、ルーツを睨み付けていた。
ルーツはそれを見てエネルギーを圧縮し、"裁きの礫"で反撃を試みる。勝って自分の理想の世界を創る為に負けられなかった。
フリーズやルワールと言う同士の願いを達成させるためにルーツは裁きの礫を放つ。
「"流星波動"」
レオは大きな波動弾を投げる。その波動弾は分裂していき、流星のように降り注ぐ。レオの技の中で最大の技であった。
裁きの礫と大量の波動弾はぶつかり合い爆発を起こす。ほぼ相殺されており、二人の技の威力は拮抗していた。ぶつかるたびに起こる爆発で互いの視界は潰されていった。
「そこだっ!」
レオは手早く波動で探知をし、"波動弾"を打つ。その手際の良さはルーツにとって完全に不意打ちとなったのか顔に直撃する。
その衝撃で頭が一瞬くらくらしだす。そこに"流星波動"の流れ弾が来てまたもや直撃する。
「ぐっ、あああぁぁぁっ!……ハァハァ」
ルーツは苦しみ、叫ぶ。そうした中でもちゃっかりと再生を行うあたり流石であった。叫びを終えると息を荒くしながらレオを見つめる。
レオも手に波動をためて次の攻撃を繰り出そうとする。相手のデカさを考えるとレオは早めに決着をつけたかった。
ルーツは足をコツンとつついてまた大地の力を繰り出す。それを見たアルビダ達は巻き込まれないように素早く撤収する。
レオは波動で何となく察していたので、地面からあふれ出るエネルギーをヒラリヒラリと避けていく。
「こんなの続けても意味なんてないぜ」
「果たしてそうかな?」
レオはその行動を無駄と言ってもルーツは冷徹な表情で返す。ルーツも先程の焦りを振り払い冷静に対処をし始める。
レオはその様子を見て気を引き締める。何を仕掛けてきてもいいように自分の構えを崩さずに波動の感知をフルに起動させる。
「甘いな」
突然、背後から声が聞こえてきてタックルを食らう。それは紛れもないルーツの神速であった。先程のようにレオはとらえきれず一方的に食らう。
「これでどうかな?」
ルーツは吹き飛ぶレオを見てそうつぶやく。果たして何の意味があるのか、レオはそう考えていると既に自分が罠にハマっていることに気づく。
「地面から……!」
レオはルーツが今発動中の大地の力に合わせて攻撃する算段であることに気づく。ルーツはニヤリと笑い、レオはようやく焦りだす。
油断してしまった、レオはそう思いながら空波動で軌道をずらそうとする。それと同時にレオの真下でエネルギーが噴き出した。どちらが早いかでこの勝負の優劣は決定づけられる瞬間であった。
「レオっ!」
アルビダはその様子を不安になりながら見つめる。自分たちの最後の希望、何より幼馴染のレオに負けて欲しくはない。
しかし、今はどうしようもなくただレオの無事を祈るしかなかった。どうか無事でいてくれと願うしかなかった。
その後に地面が噴き出してレオが見えなくなる。叫び声は聞こえない。叫ぶ暇はなかったのかそれとも避けきれたか、アルビダ達にとっては言うまでもなく後者であってほしかった。
「まだか……」
ルーツはそう言って左側を見る。そこにはレオがルーツに接近していた。完全にかわし切れていない為かボロボロではあるがまだ無事であった。
レオは空波動でルーツより上に向かう。衝撃波を使って先程よりも高く飛び上がっていた。
「ルーツ!お前の野望は終わりにさせてもらうぞ」
「なんだと……?」
レオは高らかに宣言した。この戦いを終わらせると、この永い間行われてきた無意味な争いに終止符を打つと言ったのである。
ルーツはそのレオの大層な発言を聞いて面食らう。先程危ない目にあったのにも関わらず終わらせると言い切った。いくら圧倒的にパワーアップしたところでいきなりルーツを倒せるなんてハッタリにしか聞こえなかった。
「この力は神殺し、つまりお前を倒すための力だ。その力をフルに使えばお前を消滅させられる。」
レオは今からやることについて説明していく。そういった後にレオの両手に次々と波動が宿っていく。そして大きな波動弾を形成させていった。透明に透き通って周りには虹色のオーラと今のレオと同じものだった。
ルーツはそれを見て強ちそれがハッタリではないと勘付く。これだけは食らってはいけない。それを理解するのは容易かった。
「いいのか!そんなことすればアユムだってただでは済まさ」
『僕がなんだって?』
ルーツは打たせまいとアユムの事を盾にして躊躇わせようとするが、ルーツには聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
ルーツの支配が弱まっている証なのかアユムの意思がルーツには聞こえてきた。先程までは気にもならなかったのにだ。
レオも少し残念そうな顔をするが、やめようとはしなかった。
「アユムが教えてくれたんだ。俺はこの手段を使いたくなかった。でも、俺たちの力が足りず使わざるを得ない。……許してくれアユム」
レオはそう言ってアユムに謝罪する。もうそれからは一切止まる気配を見せなどしなかった。
アルビダはその光景を見て見とれる。大きな波動弾はこの遺跡を覆うほどで力が強いだけでなく神秘的であった。
7つの水晶の力を集約させればこんなに強い力を得られるなんて初めて手にしたときは思いもしなかった。
それを見た村長が旅に出るように伝えたのも今ならアルビダには理解できた。このためにあるのだと、それを村長は知っていたのだと気づく。
実際に村長のリューは"leading"の副指令、アルビダ達が知ることはなかったが初めから期待を寄せていた。知らぬうちにレオ達は桁違いな領域に踏み入ったのである。
「今度は……」
「小さくなったでござるな」
そして、レオの特大波動弾は今度は逆に圧縮されていく。どんどん小さくなっていき、その度にレオのいる空間がねじれていた。
それをマロンとムサシは見守っていた。彼らもまたレオの勝利を疑わずに信じていた。
「ここまでいくのか……」
「これは相当被害出るわね」
「僕たちは避難しましょうか」
アムネジアはレオの圧縮されていく波動弾を見て後ろに下がっていく。テンコも同じく規模のデカさを理解し、クレメンスも同意見であった。
そして、レオの波動弾は顔より少し大きいぐらいのサイズに収まる。虹の輝きを発して神々しく、最後の一撃に相応しかった。
水晶の主たちが避難していく中、アルビダだけは最後まで残っていた。レオを見ていたのだ。
「レオ!そんな奴ぶっ飛ばしちゃいなさい!私はここから離れておくから!」
アルビダは大きな声を張り上げてレオに声援を送る。そういった後はダッシュでその場から離れていった。
「打たせるかぁぁぁ!」
ルーツはもう限界だったのか裁きの礫を発射しようとする。これで仕留めないととうとう自分の敗北である。
ルーツがエネルギーをチャージしている途中で身体が硬直する感じがした。何か技を食らったのではなく内部から動きを止められたのだ。それによってエネルギーのチャージも雲散して無駄に終わる。
『もう、これ以上君の好き勝手にはさせない』
「貴様!貴様はそっちの味方をするのか!」
止めたのは先程意識を取り戻したアユムであった。中から第二の創造神の身体を封じたのである。
「貴様はこの身体になって、絶望したはずだ!人間とアルセウスに失望したはずだ!」
『確かにね……。でも、今の生命を無にするなんて君のエゴだよ』
ルーツは怒り狂いながらアユムに怒号する。それをアユムはものともせずにエゴなんだと一蹴する。
『君はもう終わりだ、僕と道連れになってもらおう』
アユムがそう言った後、レオは技を放つ準備を完了させていた。それと同時にこの戦いに終止符を打たれることが確定した運命となる。
「最後の波動弾だ、行くぞ」
レオは虹色の波動弾を放つ。勢いよく投げられてそれはルーツに高速で迫っていく。もうルーツは避けることなどアユムの妨害によって不可能になっていた。
ルーツはその現実を認めきれずにいたのか口だけはよく動き叫び続ける。
「ふざけるな!私は世界を創る者だ!こんな世界ではそれこそアルセウスや人間のエゴで無関係な命が振り回される!すべての上に立つ神とは!そんな命を生み出さないことだ!わたしは、わたしはああああああ!」
『……お疲れさま』
刹那---、波動弾がルーツに直撃して遺跡のその部屋の全土を吹き飛ばす大きな爆発が起こる。
巨大な爆発が起こり、モクモクと煙が立ち上る。その煙がやがて晴れていき、見えたものはもう動けず今にも果てそうな悲しき姿が横たわっていた---。