part14
「貴様らっ!」
ルーツはムサシ達を見て吠えるように言葉を発する。先程から自分は何もレオ達に対して痛手を与えていない。それが苛立ちを生む。
「お主はここで拙者達が倒すでござるよ」
ムサシは自信ありげに虚勢を張る。実際は不可能だが強気に勝負に出られるようになっていた。勝ち目が実際にあるための余裕といったものである。
「油断しないでね」
マロンは大口をたたくムサシを見て釘をさすように言う。ムサシはそれを聞いてギクッとしてマロンから目をそらす。マロンはあきれ果てて"リーフブレード"を形成する。
クレメンスはそんな二人の様子を見ながらクスリと笑い、周りに砂地獄を展開する。ここまで来たら後は時間をたっぷりと稼ぐだけである。
「行こう!レオに思いっきりアイツをぶっ飛ばしてもらうんだからさ!」
アルビダはそれぞれの反応を見せるムサシ達に一言述べる。それは戦いの火蓋を切ろうと落とされたものだった。ルーツとムサシ達が一斉に戦いに集中し始める。
アルビダは電気袋から電撃を出して威嚇するようにバチバチと鳴らす。威勢よく電撃の準備をしながら虎視眈々と機を伺う。
「1匹ずつ確実に仕留めてやろう……」
ルーツはそう言って頭の上に高密度のエネルギーを圧縮させる。言葉通りに一匹に絞ろうとしているのかアルビダを狙っていた。先程威勢よく戦いの姿勢を見せたアルビダを念のために葬り去る算段であった。
視線が自分に向いていると気づいたアルビダは頬の電撃を出すのをやめて、足に力を込める。真正面からぶつかる必要はないのだから。
そしてアルビダが先に高速移動を使ったのと同時にルーツは裁きの礫を放出する。遺跡の壁を吹き飛ばすほどの威力を軽く引き出すこの攻撃は当たったら死に直結しかねない。だが、当たらなければどうということはないのだ。
ムサシたちも流れ弾を避けていきながら、接近していく。クレメンスとアルビダ以外は近接戦が主なので近づくしかない。近くから絶え間なく攻撃を続けて注意をできるだけ自分たちに引き寄せなくてはいけない。
「はぁあ!」
ムサシはホタチに水のエネルギーを灯して刃の形を形成させる。何度も使い今やなじみ深いこの技、シェルブレードはムサシの最大の武器となっている。精一杯振るい出来るだけ多くのダメージを与えようと攻撃する。
ルーツはそれに気づいて技を放出しながらもステップしながら避けていく。礫はまだ降りやまず、遺跡をボロボロにしていきながら二匹の攻防が繰り広げられていく。動くたびに遺跡の原型が保てなくなっていった。
「何やってるのよ……」
マロンは呆れた顔をしてから降り注ぐ礫を潜り抜けていきながらルーツの懐まで潜り込む。流石に技を放ちながら移動している今は神速を使えないのかルーツはたいしてそれを気にも留めなかった。
緑色に光る尻尾はついにレンジまで達しムサシの攻撃のサポートに回る。サポートといってもムサシが撃ち込んだ後に割り込み、ラグの隙間を埋めるように攻撃していた。これにより反撃の隙を一切与えずにいた。
だが、二人で攻め続けても必ずムラが生じていき、わずかな空白が出来上がる。二人とも先の戦いの疲れがまだ取れていなかった。疲労が段々と重なって攻撃のスピードが落ちているのである。
ルーツはそれを見逃さずに今度は大地に大きく足踏みする。ドンッと音を立てた直後にムサシたちの足元から高エネルギーの塊が噴出する。大地の力、強力な地面技の一つであった。
「きゃっ!ムサシ!マロンさん!」
アルビダは衝撃こそ食らったものの直撃は運よく避ける。そのあとにムサシとマロンの心配をする。
噴出したエネルギーでボロボロになった遺跡の破片が散らばり煙が待っていた。これでは二人の安否は確認できなかった。
「僕には通じませんよ!」
不意に上空から声が聞こえてきた。その声主はクレメンスであり、その付近にはクレメンスにつかまるマロンの姿があった。
アルビダはマロンの無事を確認してホッとするがそれもつかの間、ムサシはどこに行ったのかいまだに不明だった。あらぬ予感がアルビダの脳裏をよぎる。
「これでどうだ!"竜巻砂漠"」
クレメンスは水晶の主の中で最高火力の竜の力がこもった砂地獄を放つ。ルーツはその巨体のためか竜巻の風に飲み込まれる。
竜巻の中では奇奇怪怪な色をしたエネルギーがルーツめがけて飛んでくる。それをうっとうしく感じたのかルーツはまたエネルギーを圧縮させる。
「消え去れぇ!」
ルーツがそう言って咆哮する。それと同時にまた裁きの礫が放たれる。軽々と竜巻砂漠は消されて再び礫が降り注ぐこととなる。
しかし、それでもアルビダ達は押されずに攻め入る。アルビダは放電で弱まった礫を一つ一つ相殺していく。マロンはグラスミキサーをルーツの視界を塞ぐように放つ。
「くだらん、そんな攻撃ではダメージにはなら……ぬっ!?」
ルーツは木枯らしを食らいながらもピンピンとしており、怒号をかまそうとする。しかし、それは突如来た痛みで中断させられる。
不完全でも創造神に近づいた自分にはっきりとした痛みを与える存在に疑問を抱く。痛みのもとは足、何かに斬られたかのような感覚だった。
「"水流---双閃"」
技の名前を言い、ルーツの足元にムサシが見える。先程の攻撃をやり過ごし、一撃をかませたのである。
既にムサシの息は肩でするほどであり、疲れが如実に現れる。度重なる攻撃を直撃は何とか避けても衝撃だけでも半端なものではなかったのである。膝をついて今にも倒れそうだった。
「無念……!」
「……ッ!いけない!」
マロンはムサシの限界にいち早く気づいて、自分の身体に鞭を打ち、全力疾走する。早いうちに回収しなければ殺されてしまう。
そんな光景をマロンは起こさせまいと奮闘する。身体が悲鳴を上げようとも構いなどしなかった。
他の二人も同じようにムサシ救出のために動く。アルビダはまだ余力があるため高速移動でマロンよりも早く動いていた。クレメンスはムサシに攻撃をさせまいと、ムサシが切った足に向けて誘導弾を放つ。
「失せろ」
ルーツはそう言って足踏みをする。またもや大地の力で攻撃するつもりであった。いよいよムサシを早く救出しなくてはならなくなる。
「まずは一人……」
そういった瞬間ムサシのいる床からエネルギーが噴き出す。勢いよく噴き出されたそれはアルビダ達を絶望させるのには十分だった。
それをマロンが見て絶望しきった表情をする。先程まで身体に鞭を打ってまで動いていたのに急に止まってしまう。
「いやあああああぁぁぁっ!」
マロンは悲痛な叫び、それは部屋中に響く。ムサシが今目の前でやられた、それを確信してしまいマロンは絶望していた。
アルビダはその様子を見て辛そうにうつむく。そして怒りを募らせていきながらほお袋に再び電気が流れる。
「く、くそぉっ!化け物がぁ……」
クレメンスは悔しそうに呟く。そう言った後、クレメンスはふらふらとしだして地面に落下する。ここにきて限界が来たのである。
いや、すでに皆が限界をとっくに超えていた。反撃する気力がもうほとんど残されていなかった。"Samsara"の"六皇"との戦いで既に消耗は必至だった。それに続いて傷ついてはいたがギラティナの身体を奪ったルーツとも戦っていた。もうスタミナが残されてなどいなかった。
これでもアムネジアとテンコは時間を稼ぎ切ったのだ。そのように上手くはいかなかった、誰もがそう思い始める。
「戦意喪失か、ならばこれで消し去ってやろう」
ルーツは一気に崩れたアルビダ達を見てとどめを刺そうとエネルギーを圧縮し再び裁きの礫を放とうとする。今度こそ仕留められると確信したルーツは内心ホッとしていた。
アルビダはまだ戦意を揺らがせておらず、電気を出そうとする。まだ余力のある自分が頑張るしかないのである。
そして、皆に一言物申したくなったのか大きく息を吸う。
「まだよ!このままあきらめたらそれこそムサシに対して失礼だよ!今は生きなきゃ!耐えて時間を稼ぐのよ!」
アルビダは大声で張り上げる。あきらめるな、それがアルビダの言葉だった。今のマロン達は限界に近づき意気消沈していた。酷だけど今は立ち上がらなくてはならないのだ。
それもルーツにはむなしく映るのか憐れんだ目で見つめる。チャージが終わりこのままレオ達ごと殺すつもりで裁きの礫を放つつもりでいた。
刹那、状況は一気に翻すこととなる。
「その通りだ!」
「……!?ぐぅお!」
どこからか待ち望んだ声が返ってきた。その声が聞こえた後はルーツが軽く態勢を崩し、裁きの礫を誰もいない方向に放ってしまい不発となる。
「レオ!」
いきなりの出来事に、アルビダはレオの名を呼ぶ。これはまさしく待ち望んでいたものだった。
そして、近くにはきっちりとムサシが寝転んでおり無事だった。マロンはそれを見て一目散にムサシのもとへ駆け寄る。
「ムサシぃ!よがっだぁぁぁぁ!」
「拙者を殺さないでくれ……」
マロンが珍しく取り乱しているのをムサシはボロボロになりながらも軽口で返す。慣れた手つきでマロンを撫でていた。
「貴様……、なんだその力は!?」
ルーツは態勢を立て直した後に疑問を投げかける。思わぬ事態に頭がこんがらがってしまっていた。
「お前を倒しに来たぞ、ルーツ。この力は……」
レオはそう言って拳を前に突き出す。その気迫はリオルのものではなく勇ましきルカリオのように逞しかった。
そして、言葉の続きを言っていった。
「俺の友達から託された力だっ!」
その言葉の後に気迫で軽い風を引き起こす。ルーツ以外はその光景に圧倒されていた。
透明のオーラに端々に虹色の波動がにじみ出ていた。極限までに力が高まり、疑似的な神をも圧倒するものとなっていた。
「これで終わらせるっ!」