part13
遺跡はルーツの一撃で壊れ始め瓦礫が降ってくるようになった。それだけならまだ良かった。問題は別にあった。
「くそぉ!まさかこんな風に邪魔されるなんてな」
レオはそう言って力の集約を中断して避けることに専念する。他の主達もどこか安全な場所は無いかと探しながら避けまわる。
降ってくる瓦礫で切り札を使いずらくさせられた。今は力を集める為どうしても隙が出来やすい。その為にアムネジアとテンコが足止め役を買って出たのだが、こうなると全員に被害が及ぶようになっていた。
「貴方達!奴が壊したところへ逃げなさい!」
テンコは急いで指示を出す。中で邪魔されるなら外でやるしかない。テンコはルーツに牽制の"火炎放射"を放つ。アムネジアもそれに続いてルーツに肉薄する。
状況が状況でも二人のやることは時間を稼ぎ、あの四人と交代することに変わりはない。ルーツは瓦礫なんかものともせず再び"大地の力"を使う。地面からあふれるエネルギーは瓦礫と相まって避けづらくなっていた。二人はなんとか避けてルーツに対して自分の距離を保つ。
「"ブレイククロー"!」
アムネジアは自身の爪にエネルギーを纏わせ引っ掻く。強力な一撃だがルーツはものともせずに受け切る。圧倒的に差がある、それが物語られている証拠だった。
アムネジアは再び剣を握る。こちらの方がダメージを与えられそうだと判断したのである。今度は剣にエネルギーを纏わせて再び"ブレイククロー"を使う。
「鬱陶しい」
ルーツはそう言って"神速"でタックルをかます。体重的にかなりの威力でアムネジアにクリーンヒットする。アムネジアは吐血し吹き飛ばされる。勢いよく吹き飛ばされ遺跡の壁に轟音を立てて衝突する。ダメージは相当なものであった。
「よくも……!"大文字"!」
テンコはそれを見て大の字の巨大な炎を放つ。炎タイプトップクラスの大技はルーツに当たり、大ダメージを負うと思われた。
しかし、相手は神。今度は白と青色に変わる。見た目からして水タイプであろう。それはつまり"大文字"はあっけなく受け切られダメージは少なくなったのである。
テンコは悔しそうな表情をしてアムネジアの方に走る。心配であるために安否を確認しに行ったのである。テンコが向かった先を見てみるといつの間にかアムネジアが消えていた。
辺りは血だらけでそれがアムネジアの今の状態を知らせていた。今動くと死にかねない、テンコは急いでアムネジアを探す。ギラティナの姿のルーツとの戦いでもアムネジアはダメージを負っていた。今は動けるのも奇跡である位の重症になったはずなのである。
「うおぉぉぉぉっ!」
テンコが探す吠えるアムネジアの声が聞こえてきた。その手には先程抜いた刀を下に向けて落ちてきていた。彼は今空中にいたのである。
直前までルーツは気づかずに刀の一突きを背中で喰らう。刀がルーツの背中に刺さり今までの攻撃の中で最も大きなダメージを与える。
ルーツは擬似とはいえアルセウスであり、四足体系のポケモンであるため背中に刺さった刀は取りずらくなっていた。ルーツにとって幸いなのは刀が深く刺さっていないことである。動く遠心力で取れる者であった。
「そいつはどうかな?」
アムネジアはルーツの思考を呼んでか刺さった刀の近くに立って両手をハンマーの様に振り下ろす。その行為で刀は深く刺さる。痛みは激しくルーツは一瞬動きを止める。アムネジアは離れテンコに目くばせをする。
「"大文字"!」
今のルーツはタイプ的にダメージは少ないがまともに防御は出来ないのでそれなりにダメージに期待が出来そうである。事実ルーツは少し苦しそうにしていた。
「……ちっ!まさか"サイコキネシス"が使えないとは……」
ルーツは刺さった刀を抜こうとするが抜けないと認識する。再生は少し時間がかかるので、今はこのまま水晶の主を倒すことに専念する。どうせ自らの手でこの世界は……。
「終わらせる!」
ルーツはギロリと睨んで再びアムネジアたちに迫る。一人でも殺してしまえばルーツの勝ちは確定する。それならば今最も殺しやすいものを殺せばいい。その標的になるのは―――。
「行かせるかっ!」
アムネジアはルーツの狙いを自分とテンコ以外の水晶の主達を狙っていると思い、先回りを狙う。今のレオたちは完全な無防備、攻撃なんてされたらエネルギー溜なんてする場合ではない。
「貴様一人ぐらい簡単に吹き飛ばせるわ!」
ルーツはアムネジアの遮りをいともたやすく振り切らんばかりに"大地の力"を使う。地面からあふれるエネルギーはアムネジアの動きを逆に遮り、ルーツへの妨害を行いにくくなっていた。
ルーツは"神速"を使ってレオ達の目の前へ立つ。その瞬間アムネジアは走る。間に合わせなくてはいけない。仲間を死なせぬために走った。
しかし、レオは焦らずにまるで想定内と言わんばかりに高くジャンプする。
「吹き飛ぶのはてめぇだ!」
レオはそう言って手を勢いよくふるう。その後、ルーツは衝撃によって一瞬動きを止める。今の技はレオのオリジナル技"空波動"である。
「なにぃ!?」
ルーツはそれに驚きを隠せなかった。ある程度レオ達は調べていたためレオのオリジナル技は把握していた。しかし、今の"空波動"は知っていたのとは威力が段違いだった。
何が起こっている、ルーツはそう思い先程レオがいた場所を見るとレオがいない。既に移動していた。
「グアアアアッ!」
今度はレオが蹴りをかます。ダメージがでかかったのかルーツはもだえ苦しんでおり、対するレオは精々とした顔つきをしていた。
その隙にレオはアムネジア達の元へ移動し、ムサシたちがルーツを囲うように陣形をとる。邪魔をさせぬように、全力で死守する覚悟だった。
「今度は拙者達が戦う番でござる!」
「貴方をぎゃふんと言わせてやるわ」
「僕達がここから押し通していく!」
「レオには……指一本触れさせない」
それぞれが決意を述べて戦闘準備を瞬時に終わらせる。ムサシはホタチを抜き鋭利に光らせ、マロンは尻尾に緑色の光を宿らせ研ぎ澄ましていた。クレメンスは周りにわずかに砂地獄を発生させていつでも放てるようにしていた。アルビダは頬から電気を出している。
「貴様ら……、とことん私を邪魔してくれるな!」
ルーツには最初に見た様な冷静さはもう無く、ただ怒りを募らせていた。これこそムサシ達の思惑通りとわかっていながらも、焦られずにはいられなかった。
「あいつらに任せてアムネジア達もやってくれ。さっきは何とか出来たが長くは続かない。アムネジア達の分もなきゃ時間切れで負けてしまう。」
レオはアムネジア達と共にルーツから離れて、エネルギーを集めるのを促した。アムネジア、テンコ共に反論はなく黙ってレオに手を当てた。
次の瞬間、水晶にあるエネルギーはレオに集まっていった。これは主達本人のエネルギーを集約させるのではなく水晶に眠る力を集める者だとアムネジアは気づく。
「しかし、大丈夫だろうか……」
「そうね、心配になるわね……」
アムネジア、テンコは共に心配する。ムサシ達の水晶のエネルギーを集め終わったという事は、ムサシ達は今から水晶の力を使えない。"覚醒"は使えないのである。先程までの自分たちも使ってなかったが運よく助かったようなもの。相手が相手なだけに今度も簡単にいくとは思えなかった。
「大丈夫ですよ」
レオはそんな二人の不安を拭い去るかのように話す。それをアムネジア達は不思議そうに思った。同じ水晶の主とはいえそんなに長い付き合いではないからこそだった。
「俺はあいつらならいけると思います。なんせ……、俺達の仲間ですからね」
レオはそう言って笑い、アムネジアはそれがおかしくて笑う。テンコもフフッと嬉しそうに笑っていた。そして、アムネジアは微笑んでこう言った。
「確かにな……」