part12
「くそぉ!」
レオは拳を地面に叩きつけながら悔しがった。敵に思い通りにされてしまい、アユムの身体は敵に奪われてしまった。紛い物でも創造神なるものを降臨させてしまった、それも恐ろしく邪悪なものだ。
「相手は所詮偽物……、それに俺たちには」
アムネジアはレオにそう言って手を差し出す。彼なりに励ましているつもりだろう、彼とは一緒にいた期間は短いが今はとても頼りに見える。一緒にいるテンコもフッと笑うと口に炎のエネルギーを溜めだした。
「こうなった時の為の最終手段をアユムから教わったはずでござる」
ムサシもレオに対して希望はあると諭す。そう、展開は確かに最悪でも対処法は既に聞いているのだ。アユムは今回の決戦の前に姿を現してこう言ったのだ。
『でも、もし復活しても"7つの水晶"の力を一つに纏めたら神を殺す力が発揮されるよ。一回だけだけどね』
一度きり、それがネックだが強力な力の存在を教えて貰っている。まだ希望はある、しかしそれはある不安を生む。
それはアユムごと消滅させることだ。今はルーツがアユムの身体ごと乗っ取っている。つまりアユムはあの中にいる。それをそんな力で攻撃したらアユムまで殺しかねない。
しかし、もう後戻りはできない。この方法を進めたのはアユム、彼はある意味自分をこれで殺せと言っていたのではと今になってレオは思った。
突然、威圧感の様な強大な力を感じた。発しているのは当然ルーツ。今にも殺しにかかりそうであった。
「遺言は告げ終えたか、貴様らを今すぐに消し去ってやる!」
ルーツはそう言って一瞬で消える。技の"神速"だろうか、"電光石火"で追いつけるようなものではない。違う段階に足を踏み入れている。
「来るよ!皆構えて!」
アルビダはそう言って戦闘態勢をとる。他の皆もどこからか来るか分からない敵に怯えることなく構えていた。皆の腹はもう括られているようである。レオもクヨクヨしてられないと気を引き締めて波動の探知を始める。
波動の探知を始めて早速ルーツを捉える事が出来た。出現するポイントを把握し誰が狙われているかすぐに判断した。ルーツが狙ったのはこのチームの回復の要と言えるポケモンだった。
「マロン!危ないでござる!」
ムサシはそう言ってマロンを突き飛ばす。あまりに突然なことでマロンはキャッ!?と声をあげながら吹き飛ばされる。この間数秒の事である、これでムサシの動きが確実に数秒止まる。
「ガハッ!」
ムサシはルーツの足に勢いよく蹴られ吐血する。威力が尋常なものでないとそこから悟れた。反応できたのはムサシのみ、アムネジアは遠かったのか間に合わずレオは気づくのが一瞬遅かった。それでこの有様である。
幸いなことにムサシは水晶の覚醒で耐久力が増している。それでも大ダメージを負ってしまったのは言うまでもない。ムサシはくらった後も戦おうと立ち上がろうとしていた。
「無茶はよしなさい!」
テンコはそのムサシの様子を見て一括する。その表情には少し疲れの色が見え始めていた。振り返れば皆連戦してきたのだ。徐々に疲れが表に現れてきていた。
種族的にスタミナ豊富でルワール戦ではあまり戦わなかったレオやアムネジアはスタミナは保っていた。しかし他はあまり量は無いとはいえ濃い戦いのあとである。ここにきて消耗が始まっていた。
「これは……、本当にやばいね」
クレメンスは今の状況を見て悪化する状況を何とかしようと頭を捻る。このままでは圧倒的に負け濃厚だ。早いうちにアユムから教わった神殺しで消し去るしかない。
「レオ!ムサシを回収して下がれ!お前にはアレをやってもらう」
アムネジアは攻撃を受けたムサシの回収をレオに命じて"あること"をやらせようとしていた。それは言うまでもなく……。
「"神殺し"」
レオはすぐさま理解してムサシの元へ駆け寄る。ルーツはそのレオを狙って"神速"をしようとする。好きにさせるつもりは毛頭ないようである。レオに向かって異常なスピードで接近する。一撃で鎮めるつもりであろう。
「……っ!」
ルーツはレオに攻撃しようとすると先に待ち伏せされていたことに気付く。待ち伏せしていたのはアムネジア。その右手には剣があり、殺気を漂わせていた。
「お前の考えは読めるんだよ!」
アムネジアは叫び、剣を振り下ろす。"神速"に動じず振り下ろされた太刀筋は迷いなくルーツの肉を切る。
「お前が一番厄介だな、アムネジア」
「俺だけを見てると痛い目見るぞ」
ルーツが先に消すべきはアムネジアと決め、視線をアムネジアに移す。それはアムネジアの狙い通りであり、今はレオを守ることが先決なのである。
何故ならば……。
「ムサシ、マロン、アルビダ、クレメンス!俺に力を」
レオに力を集中させるからだ。正確にはレオの水晶に力を集めて、"神殺し"の力をレオ自身に宿すのである。その力は波動、つまりレオに適した力だからである。
自分もあのように力を渡す必要があるが他の主達が力を渡しているときに誰も守りがいないとなったらすぐさまあの世行きだ。だからこそ逃げられない。自分が時間を稼ぎ、アルビダ達と交代するのである。流石に一人では無理なので自分がよう知る相棒も一緒だった。
「さぁ、いくわよ」
それはテンコである。自分との付き合いは誰よりも長くコンビネーションを合わせやすいと思ったからだ。
力の引き渡しが終わり次第すぐさま入れ替わるこれが最も勝負時の瞬間である。打ち合わせはしていないが、やるだけやるつもりである。時間稼ぎとはいえ、自分たちは死んではいけない。時間稼ぎをしつつ生き残る、相手が相手なだけに非常に難しい事である。
「こちらから行かせてもらうぞ!"大地の力"」
ルーツが先制攻撃に"大地の力"という大技を放つ。自分の真下からエネルギー体が溢れ出す。テンコを意識しての攻撃だろう、まずは周りから削いでいくつもりらしい。心配なのはレオの方だった。
心配していたレオ達はレオがうまい具合に皆を誘導して避けていた。あれなら心配しなくても問題ないだろう。
「派手な先制ね……、今度はこっちよ!"火炎放射"」
テンコはお返しにお得意の"火炎放射"で反撃する。ルーツはそれを難なくと避けて次の技の準備を始める。アムネジアの剣が迫っているのにも敏感に反応して紙一重で避ける。
アムネジアはチッと舌打ちし剣をしまって今度は懐に潜り込んで"インファイト"をかます。剣でチクチク切ってもダメージは少ない、相性のいい攻撃でダメージを稼ぎにいった。
ルーツは何とか避けきろうとするが、わずかにヒットしダメージを負ってしまった。そこにテンコが"炎の渦"で攻め立てる。間髪入れられたコンビネーションにルーツは一瞬押されていた。
「調子に乗るな」
ルーツは自身の身体の白い部分以外の色を朱色に変えて、周りに礫を集め始めた。見るからに危険な攻撃、アムネジアとテンコは各自回避しようとする。
「無駄だ!"裁きの礫"」
ルーツは狙いをアムネジアに定めて、殺すつもりで放った。この礫は格闘タイプとなっており、アムネジアはザングースでノーマルタイプだ。くらったら一溜りもない。下手したら死の危険だってあった。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
ドガァァン!
アムネジアはそれをダイブするかのようにジャンプして回避する。爆音が鳴り響き威力は言うまでもないだろう。ギリギリで運よく避けられた。
確認としてアムネジアは礫が飛んだ方向を見る。その先の光景は信じられないものだった。
「い、遺跡が……」
テンコはその光景に愕然としていた。アムネジアも同様である、これがポケモンの放つ技なのかと疑問に思ってしまう。
遺跡の壁がごっそりと吹き飛び、遺跡が壊れだしたのである――――。