part11
突然、封印が解けて引きづり出されたアユム―――、もとい第二の創造神は困惑していた。封印が緩まっていたのは知っていた。しかし、だからとはいえこんなにも早く出されてしまうのは想定外だった。
「全員が覚醒していれば封印は緩い。この水晶とギラティナのエネルギーを全て使えば……、グフッ!」
ルーツは困惑するアユムを見て喜ばしそうに説明する。その途中でダメージによるものなのか、吐血していた。水晶の主は全員ポカーンとしている。それも仕方がない。こうならない為に闘っているのにあっさりとそうなったのだ。絶望にも近い感情が辺りにざわつく。
しかし、マロンとテンコは状況に危険を感じながらも先程のルーツの言葉の真意を探り当てた。それは乗っ取っているギラティナの生命力を使い、強引に引きずり出すこと。それ即ち、ギラティナの命を削る捨て身の策。
だが、今回はあくまでギラティナ本人がやったのではない。精神はルーツという人間であるのだ。ルーツの目的はアユムの体を奪うこと。ギラティナの体はそれまでの代わりと言ってもよい。つまり、その方法を用いるのに何のためらいも無く出来るのだ。
「アユム!逃げろ!」
突如放たれた声、それはレオのアユムに対する警告。敵の目的を防ぐ為にもレオは早くアユムに逃げてほしかった。レオの声を聞いたムサシとクレメンスがアユムの前に現れる。絶対に守り抜かなくてはならないと悟ったのだ。
その直後にギラティナの体から半透明で何か不安定なモノが口から出てきた。レオはそのモノに今までに感じたことのない波動を感じる。何やら不完全で邪悪な波動だった。レオは一瞬考えると、正体に気づくのは容易だった。
「あれは……、ルーツね!」
アルビダも気づくのが早く、いち早く妨害にでた。頬に電撃を溜めて"十万ボルト"を放つ。今のルーツはギラティナではない。半減されることはないから有効だ―――、アルビダはそう思っていた。
が、しかし―――、ルーツは迫りくる電撃を全く気にせずまっすぐとアユムに接近する。それを一行は奇妙に思う。そして、その答えはすぐに明らかとなった。
電撃はルーツに当たらずスルリとすり抜ける。電撃はそのまま壁にぶつかり爆発する。相手は霊体、いわば悪霊。現世にいる者の攻撃は当たらない。その証拠にアムネジアが剣で攻撃をしてもすり抜け、刀は空を過ぎる。遠距離も近距離も当たらず水晶の主達にはまず手が出せないのだ。
「悪霊が神になるなんて認めないでござる!」
ムサシはあきらめずにアユムを守らんと自らを奮い立てる。技の効果で攻撃、特攻がアップするようなことはなく実際は悩んでいた。どうすればいいのか、まるで分らないのだから。ムサシは策を立てるのはあまり得意ではない。それをやっていたのはいつもはマロンである。彼女に頼れないか確認するために振り向くが、彼女もまた同様であった。
「ある意味今までの中で最強ね」
マロンが言ったこの言葉強ち間違ってはいないかもしれない。相手は攻撃できないが、肝心の自分たちがお手上げである。しかも、このままにしたら敵の目的を達成させることを意味する。それでは負けが濃厚となりかねない。
「あきらめるのはまだ早いわよ!」
突如として響く高い声。そのポケモンは口に炎を灯し光を見失わないでいた。赤い狐―――、テンコは"火炎放射"でアユム達がいるところを焼き払った。
「な!?」
「ど、どうして?!」
ムサシ、マロンは敵では無く自分達のいた場所を焼いた。これでは無駄な酸素の消耗でしかない。二人はテンコの行動の趣旨がわからないでいた。
「ムサシぃ!消火するんだ!」
今度はアムネジアから消火の指示が出る。今消火しても煙が立ち上るだけ、マロンは疑問に思うがムサシは二人を信じることにする。言われるがままに水を出し消火を急ぐ。
「仲間で無駄なエネルギーの使い合いか?笑わせる」
ルーツは奇妙な行動に対して、血迷ったかと思い出す。願いが成就しそうな喜びで頭がいっぱいだった。しかし、すぐにそうでないと気づく。
「くそ!煙で何も見えん!」
消化して水が蒸発した煙が視界を封じたのである。霊体とはいえ見えなければ追えない。これなら時間は稼げる。策を練らなければいけない。
レオは波動で皆をすかさず探知し皆を集め、隠れる場所を探す。アユムは巨体で隠れる場所が中々思いつかない。いっそこの部屋から出してしまった方がいい。
「行くぞ!」
レオはそう言ってアユムを連れて大広間を出る。ルーツには何もできない、それ故に今出来ることはアユムが取りつかれるのを防ぐことだった。
レオは走ってアユムを部屋の外へ連れていく。アユムは警戒しながら辺りを見回していた。ルーツがこれで来ていたらシャレにならない。
「ごめん、僕がうまく身体を扱えないばかりに……」
アユムはそう言って申し訳なさそうな表情をする。自分のせいで、そう思っているのだろう。
「大丈夫だ、アイツに渡すわけにはいかない。それに俺たちはもう友達さ」
レオはそう言ってニッコリと笑う。アユムはそれを見て嬉しそうに微笑んでいた。他の水晶の主達も笑顔でいた。
「全く、そんなの言うまでもないんじゃない?」
テンコはその言葉に言うまでもないといったものを付け加え、その場の雰囲気をよいものへと変えていった。しかし、それは油断―――敵はまだ倒していないのだ。
「じゃあ、これで……」
テンコがそう言って怪しげな雰囲気を晒しだした。レオはここで異変に気付く。それは感じる波動がテンコの物ではないことである。明らかに異常だ、それを皆に伝えようと口にしようとしたら悲劇は起こった。
「貴様の体はいただいたっ!」
テンコからルーツの霊体が飛び出てきた。それと同時にテンコは気絶する。それだけでなく大問題が生じてしまった。今、ルーツとアユムの距離は相当近い。逃げきれないのだ。
「アユムッゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
レオが叫ぶのと同時にアムネジアとムサシが駆け寄るが時既に遅し。既にアユムの中に入りだしていた。それを見たレオは絶望に落ちた表情をする。
アユムの波動が塗り替えられているのだ。邪悪な悪霊に、心と身体を奪われていってるのである。旅の初めの頃からよく話したりして来てようやく直接出会えたのに、悲劇に塗り替えられるのである。
やがて、アユムにルーツが入り切ったところで、異変は始まっていた。空は紅く染まり異常がすぐに始まっていた。
「くそぉ!」
アムネジアは警戒して剣を向ける。今いるのは現れてはいけないものだ。ルーツの目的は達成させられてしまった。
マロンは急いでテンコを起こしに走る。アルビダは頬袋から電気を出し戦闘態勢に入る。ムサシ、クレメンスもいつでも技を放てるようにしていた。
レオは絶望を突き付けれてもあきらめずに精神を集中させていた。絶望的であってもあきらめる意思はレオには無かった。
シュンッ!
突如として、何かがレオたちの横を通り過ぎた。それに全員が驚き、焦りだした。何故なら既にルーツが自分たちの後ろに立っていたのだ。
「これはいいぞ!これで私は神だ!あの忌々しいアルセウスに復讐を果たせる!」
ルーツはアユムの身体で高らかに笑っていた。レオは見るだけで怒りが募り、今にも食って掛かりそうだった。それをアムネジアは無言で剣をレオに向けて静止させた。
「怒るのは結構だが、焦るな。敵は俺たちとは次元が違う。そんな状態でいくと……死ぬぞ」
アムネジアはそう言って、ルーツの首を取らんと剣を強く握った。その言葉にレオは我に返り、状況を見ていた。
「まずはごみ掃除からだな」
ルーツのその一言が第2ラウンドの幕開けとなった。