part10
「来るか……」
アムネジアは冷静にルーツを見ていた。タイミングを図り剣をいつでも抜けるように手を伸ばした。他の二人は既にアムネジアから離れていた。ルーツはそれを気に留めずアムネジアを標的にする。
ルーツが"竜の波動"を形成し、至近距離で放とうとしていた。出来ればここで一番強い者を倒そうと考えたからだ。対するアムネジアはゆっくりと剣を抜き、走り出した。
「……」
アムネジアは沈黙し目標の観察をし、剣を振るった。その直後に二人は互いを通り過ぎる。その結果はアムネジアは無傷で避けきる。対するルーツは剣で斬られ血を流していた。
「……すげぇ」
レオは沈黙の後に驚きの声を上げる。相手に臆することなく冷静に敵を斬ったのだ。まだ、アムネジアとは長く時を過ごしてはおらず、正確に実力が判っていなかった。恐らく自分より上だと思っていた。"覚醒"しているとはいえ、ここまで出来るものなのかと感服する。その事実は今この場においてはとても嬉しいものだった。
だが、ルーツは更に上を行っていた。斬られてもすぐに"波動弾"を放つ。アムネジアはその切り返しに驚き、咄嗟に剣でガードする。それでもアムネジアは吹き飛び大ダメージを負う。効果抜群の技を諸に喰らった。これは致命的なものであった。
「"烈波"」
そこにレオが今まで溜めていた波動を放出する。それはルーツを吹き飛ばすほどで、レオが助けに入る為に放った。凄まじい衝撃波でルーツを吹き飛ばした後にレオは急いでアムネジアを回収し距離を取った。それを守る様にテンコとアルビダが、"火炎放射"、"十万ボルト"を放つ。吹き飛ばされたルーツは更に炎と電撃に苦しめられる。じわじわと着実にルーツの体力を削っていた。
ルーツも黙ってやられる様な事は無く、アルビダとテンコに即座に"竜の波動"を放つ。それを今度はムサシが二人を即座に自分に乗せ回避する。間一髪であった。そこにクレメンスが"竜の息吹"でルーツを牽制する。効果抜群の技は避けたい為、ルーツは素直に後退する。
「……、いい感じに時間は稼げそうね。アムネジアさんを少し治療をします。幸いまだ動けそうですからね」
マロンはレオが回収したアムネジアの手当てをしていた。水晶が加護をしてくれたのかダメージはでかいが戦闘にはまだ参加出来る様であった。それを聞いたアムネジアは無言でマロンの治療を受けていた。あまりに早く出し過ぎたせいか威力はあまり無かったらしい。とはいえ、馬鹿に出来ないものでアムネジアは治療中痛みを隠せないでいた。
「敵さんは随分と気味悪い…」
アムネジアは今までに無い強い力に君が悪いと言った表現を使う。無理もない事で、相手は精神は別とはいえ伝説そのもの。裏の世界の神、何もかもが違う。自分はこの中では一番強いと自信があった。レオやムサシ、クレメンスが中々といった印象ぐらいである。しかし、今は不覚にも自分が簡単に一時退散している。調子に乗り過ぎた、アムネジアはそう自分を責め、気を引き締める。
「アムネジアさん、終わりました。あまり無茶をしない様に」
アムネジアの治療を簡単に済ませ、マロンは皆の元へ走る。アムネジアはその後すぐに立ち上がる。ならばここから挽回するのみだ、そう自分に言い聞かせるように頬をペチペチと叩く。その後、ゆっくりと呼吸をし集中して敵を見据える。刀を携え、敵を切ることに意識を重点に置く。その姿は武人の如く、ムサシに勝る覇気を放っていた。
「厄介なのが、来たか……!」
ルーツはそのアムネジアの覇気を感じ、気を引き締める。それと同時に潰せなかったのが悔やましかった。
アムネジアは歩き出し、徐々に足を早く動かしていた。途中から"電光石火"となり、助走の勢いは凄まじいものになった。
「でやあぁぁぁぁぁ!」
勢いが最高潮に達したところでアムネジアは叫び、刀をルーツに勢いよく刺す。刀を使ったものでは最もシンプルで尚且つ最も殺傷力のある技、突きが完璧に決まる。アムネジアはすぐに刀を横に回して引き抜く。そのコンボはとてもエグいもので普通のポケモンなら死んでもおかしくない。伝説のポケモンはその巨体に見合った生命力の強さを持つので痛みが強い程度だ。だが、恐ろしい反撃が始まっていたのだ。
レオはその刺した部分に手を当てて、"烈波"を放つ。中に伝わる衝撃波は激痛などと言う言葉で表せるものではなく、幾ら伝説とは言え、気絶しそうなものである。それに続いてムサシが"冷凍ビーム"を傷口に当てる。大した威力を持たないが中を凍らされ、ルーツは激痛のあまり声を大きくあげる。
「がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びようが尋常ではなく、勢い余って殺しそうなものとなる。しかし、伝説は気絶することは無く、ただ怒りを募らせるだけであった。
「"超音波"」
そこにクレメンスが相手を追い詰めるために超音波を放つ。ルーツはすぐに気づき、クレメンスから遠く離れる。そして、ピンチになっていながらも薄ら笑みを浮かべていた。
「ようやく、力を溜めれた……。アルセウスで大量に消耗した力が……。近くには覚醒して封印が緩まった主ども、フフフ……、ハァーハッハッハッハッ!」
ルーツはブツブツと呟き、最後に大声で豪快に笑う。その姿は不気味でその場にいたものが嫌な気分になるものであった。だが、その笑みの理由をすぐに目の当たりにすることとなった。
「な、なによこれ!?」
アルビダが初めに驚きの声をあげたのを境に全員が仰天することになった。
「水晶から何か出てる?」
「これは……なんでござる……?」
テンコ、ムサシは水晶から白い煙のようなものが徐々に出てくるのに疑問を浮かべる。テンコは水晶の力が抜けてるのかと心配したが、そんな感じはしないのでおかしく感じ始めた。ここに来て故障でもしたのか、殆どがその不安を抱く。
「まずいものに変わりはないでしょうね…」
クレメンスは白い煙をこちらにとって不都合なものだろうと推測する。敵があんなに嬉しそうに笑った後に起これば誰でもその線を疑うものだ。
そして、レオだけは正確に何が起こっているかわかった。
「これは……、そんな、冗談じゃねえ!なんで出てくるんだよ!これじゃあ、向こうの思う壺だぞ!……アユムッ!!!」
レオの叫びの後、全員がこの世の終わりの様な顔をして煙の向かう方向を見る。その先には見覚えがあるものだった。アルセウスに酷似したポケモンがその場にいるのである。
「……封印が解けた!?」
そこには、驚くアユムの姿、"第二の創造神"の姿があったーーー。