part9
「マズイでござるな」
ルーツが現れ戦闘態勢の中、最初に放たれた言葉はムサシの弱気な言葉だった。こういう言葉は全体の士気にかかわる為禁句のようなものである。マロンはそんなムサシの言葉を聞いてイラッとした表情を見せる。ムサシはそれに気づき的に意識を集中する。
(でも、アルセウス様と戦っていた筈よね……。それにフリーズとかいう奴も居ない)
マロンはムサシに集中しろと促しはしたが、本人も非常に驚いていた。"北国"のアジトで世界の反対側へキュレムの体を持っていたフリーズと共にアルセウスと交戦している筈である。それがここに居る理由は一つしか考えられなかった。
(アルセウス様はフリーズと相討ち……、なのかしら?)
マロンはその結論の後、事態は最悪だと把握した。彼女はアジトへ出発する前にバーンに他の伝説のポケモンが関われない理由を聞いていた。
それは、複数の伝説のポケモンが同時に戦うのは3人までが限界らしいのだ。敵の伝説のポケモンは2人、こちらは必然的に1人だ。おまけにそれぞれ伝説のポケモンは世界を支える基盤になっている為に多く動かすのは不可能であるらしい。
つまり、もう自分達だけで本気でなんとかしなくてはいけないのだ。敵は伝説、こちらは水晶で異常なパワーアップをした一般ポケモン。気を抜けば待つのは死であるだけだった。
「"波動弾"!」
マロンが考え込む間にレオは挨拶代りにレオの技のベースである"波動弾"を放つ。ルーツは自分がギラティナなので当たらないと高を括り、動じもしなかった。
しかし、"波動弾"はルーツに直撃する。威力は大したものではなかったが、ルーツは笑みを浮かべて自分も"波動弾"を放つ。
今度はその"波動弾"をムサシが"シェルブレード"で切り裂いた。それに続いてアルビダがすかさず"10万ボルト"を放つ。ルーツはその攻撃が当たる前に一瞬でレオ達の前から消える。
マロンは皆の様子を見て今は戦闘中であると再認識し警戒態勢を取る。そのままこの状況でどうすればいいのか策を練り始めた。どうすれば今の消える力を防げるか。
一旦マロンは目を瞑って冷静に考え始める。バーンからギラティナについての情報はある程度聞いていた為に、今消えているのが"シャドーダイブ"であると推測した。詳しくは分からないが物理攻撃である事は知っているのだ。
物理攻撃であるという点で、マロンはとっさに対処法を思いついた。
「レオ!波動を探知に使ってどこから出てくるのかを私達に知らせるのよ!」
マロンはすぐにその策をレオに実行させる。策は単純明快でいつどこで出てくるかをレオに探知させるというものだった。どう出てくるにしろ、必ず実体が出てくるのだ。その時に集中砲火を浴びさせればいい。
レオは目を瞑り、耳の房を立たせて波動を探り始めた。どのタイミングか、何処に出てくるのか、全てを見逃さない様レオは全神経を研ぎ澄ませる。この闘いは今までとは比べ物にならない、誰もが極限の緊張感を味わいながら立っていた。
ピクッ!
レオの房が僅かに揺れ動いた。この瞬間レオはすぐに来ると確信する。誰もがそれを見逃さず、当たりの緊張は更に増す。
「……、ムサシ!」
レオはムサシに警告と言う名の大声を張り上げた。ムサシはその声だけ"シェルブレード"を形成し現れるルーツに切りかかった。
「ちっ!」
ルーツは僅かにムサシに切られ血を流す。ルーツの攻撃は全く当たらなかった。それゆえか舌打ちをし、同時に侮ってはいけないと悟る。全員が"覚醒"してしまっている今、アルセウスの次に侮ってはいけないと悟る。
「大技が当たらぬならば、小回りの効くもので応戦すればいい」
ルーツはそれだけ言って、口から淡色の波動"竜の波動"を放った。正確にアルビダに狙いを定めており、一体ずつ処理していく事にした。
だが、アルビダは簡単にやられる様なことなく"十万ボルト"で波動を弱める。消し去るのは不可能であるが、弱めるのは十分可能だ。パワー負けしている証拠ではあるが当たらなければどうという事は無い。避けてルーツに攻撃を当てる、シンプルイズザベストだ。
今度はこちらからだ、と言わんばかりにマロン、レオがルーツに自信が出せる全力のスピードで接近する。レオは手に波動を溜めこみ、マロンは尻尾の先に木枯らしを纏わせていた。
「"波動槍 ガ・ボー"」
「"グラスミキサー"」
レオとマロンは同時に技を放つ。波動で造った蒼の波動の槍をレオが、荒れ狂う木枯らしをマロンが。二つの技は同時にルーツに直撃する。でかいポケモンである分的が広いのが災いした。
ように思われたが、そんな事は無かった。
あれだけの攻撃を喰らっても尚、ルーツはぴんぴんしていたのだ。相性もあまりよくないのもあるが、何よりも種族的に大きな差があり過ぎたのである。レオは"見破る"で攻撃をちゃんと通せるが、他の皆はギラティナがゴースト・ドラゴンである為に半減なのだ。
「お返しだっ!受け取るがいい!」
お返しと言わんばかりにルーツは無情な"竜の波動"を放つ。アルビダが弱めようと電気を練るが、どう見ても間にあわない。
それを察したレオは手をアルビダ達にに向ける。"空波動"で皆を吹き飛ばした。その後自分も同じように逃げる為に足で"空波動"をする。
「うおぁ!?」
しかし、レオだけはタッチの差で間にあわず淡色の波動が直撃する。威力はさすが伝説のポケモンと言うべきだった。"覚醒"しているレオでさえも大ダメージを負い、勢いよく吹き飛ばされる。
ドゴンッ!
派手に大きな音を立ててレオは壁にぶつかる。吹き飛ばされた先は当然遺跡の壁で勢いがあまりにも強く一気に気絶してしまいそうな程の激痛が走る。それでも尚、辛うじて立つ事は出来た。頭から血が流れており見るからにボロボロであった。
「レオッ!」
アルビダは大怪我を負ったレオは急いで駆け寄ろうとするが、それが命取りとなった。ルーツはそれを見逃さず、すかさず姿を一瞬で消した。
ルーツはアルビダの上に現れ押しつぶそうとする。自分の辺りに影が大きくかかっているので分かりやすいので、アルビダは冷静に回避する。
しかし、ルーツが遺跡の床を押しつぶした衝撃波が並みの物ではなくアルビダ達を吹き飛ばしそうな程だった。誰一人として吹き飛ばされはしないが、全員吹き飛ばされないように必死にこらえていた。
ここで全員が感じたのは圧倒的な差である。先程感じた通り全てが桁違い。流石は伝説なだけはある。その事実が全員の顔色を一瞬で悪くさせた。
今まで自分より格上相手でも越えてきた彼らは初めて絶望と言う物を味わう。今までとは次元が違う。そんな事は全員頭では分かっていた。だが、全員が思っていたのと肌で感じた事は180度違うものだった。
「レオ殿!動けるでござるか!?」
それでも、ムサシはレオを心配し直接尋ねる。レオはそれを聞いて一瞬でボロボロになった体を酷使しムサシ達の元へ向かう。
戻ってきたレオはルーツを強く警戒しながら波動を練り上げていた。そして、マロンはレオの状態を見て、戦わせるのは危険だと感じる。戦うのは可能かもしれないが次は本当に命が危ない、マロンは直感で感じ取った。
「っ!…まだいける!今度は……」
レオは強がりながらも戦う意思を見せ、"波動弾"を打とうとする。仇討ちも終わり、戦う理由がいつ間にかなっていた"水晶の主"としてのものになった。気がついたら世界をかけた戦いに足を突っ込んでいる。不思議なものだ、そう思いながら"波動弾"を放つ。
「甘い!そんな者消し去ってしまえばいい」
ルーツはそう言って"竜の波動"でレオの波動を打ち消す。その直後に余裕な表情を見せ今度こそ止めを刺そうと"竜の波動"を打とうとしていた。
しかし、それは思いがけない攻撃によりレオ達に向けられる事は無かった。大きな砂嵐のような竜巻が現れた事によりそれを打ち消すのに放たれたのだ。この攻撃にレオ達の誰もが安堵した。
竜巻はルーツの波動を打ち消し、勢いを弱らせながらもルーツに直撃する。ルーツは少し苦しそうにしながらもすぐに抜け出し態勢を立て直す。その時に床に着地する。
だが、そこに既に今度は白い毛並みのポケモンが剣を持って突進するポケモンが居る事に気付く。身体を逸らし避けようとするが巨体が災いし剣が刺さる。強力な突きに続いて白い毛並みは勢いよく剣を抜く。
そして、今度はルーツの顔に業火が迫っておりタイプ相性の関係でダメージは少ないが完全に面喰っていた。
「大丈夫ですか、皆さんっ!!」
「俺達も"水晶の主"…、救援に来たぞ」
「一気に攻めるわよ!」
クレメンス、アムネジア、テンコが良いタイミングで現れる。これにより、"水晶の主"は全員揃う。目の前には敵のボス、最終局面へと確実に進んでいた。
「最高だっ……!これなら!」
レオは仲間が全員揃った事で普段よりテンションが上がり、闘争心を湧き上がらせていた。他の三人もそれに続いて希望に満ちた面をしていた。
「丁度良い、これで……。フフフフフ……ハァーハッハッハハハハハハ!」
ルーツはこの状況をまるで望んでいたかのように笑いだし、乱入してきた三人に高速で接近する。
それを拍子に最終決戦第二幕が下ろされた―――。