part7
アムネジア達が戦っている間、レオ達は奥の広間で"Samsara"の下っ端と戦っていた。下っ端とはいえ、数も質もある程度備えており、レオも苦戦するほどだった。
「ちっ!力をセーブしてじゃあキリがないな。こうなったら……」
「レオ、今は力を温存しましょう。まだ他の"六皇"やルーツまでいるのよ……」
レオが少しいらだち始めたところにアルビダがブレーキをかける。まだボスが残っているのに余計な力を使うのは好ましくない。ましてや先程ルワールと戦ったのだ。アルビダはその疲れが今にも現れそうだった。
しかし、力を温存しながら戦うのも難しい話だった。理由は今の下っ端が単純に強いからである。精鋭で挑みに来ているのは明らかだった。少しでも体力を削る腹なのであろう、とレオは考える。
「その水晶!貰ったぁ!」
一人の下っ端がレオの背後で大きく拳を振りおろそうとし、大声を上げる。レオは後ろの敵には既に気付いており、他の下っ端も同じようにレオを狙っていた。
「……、"空波動"」
レオは足から衝撃波を出し、その勢いで敵の攻撃をギリギリで避ける。敵はものの見事に攻撃をぶつけ合い、技の消費を少なくさせれた。波動で探知が出来るレオだからこそ今の様に相手の攻撃を利用できた。
攻撃をぶつけ合った敵は少しいがみ合いを始める。精鋭とはいえ所詮その程度か、レオはそう思いその敵を技ではなく普通の蹴りで仕留める。こんな調子で仕留めていきたいところだが、全員がこんなに簡単に引っ掛かるほどアホではない。
「"放電"」
対してアルビダはルワールとの戦いの疲れを残しながらも広範囲に電撃を放つ。このおかげで殆どアルビダが敵を倒していた。レオとは違い広範囲攻撃が多いのである。
「おい、無理するな……。お前は戦いのダメージがあるぞ」
レオはそのアルビダの様子を心配しながらも、敵に技ではなく体技で攻撃をする。ルワールに止めを刺したのは自分だが殆どアルビダが戦っていたのは火を見るより明らかである。
「あんたには……、敵を倒す為に出来るだけ……多く体力を残して欲しいのよ」
アルビダは疲れを徐々に疲れを表しながらも気丈に振る舞う。自分よりレオが残って戦えるようにしたいようであった。レオはその様子を見て出来るだけアルビダを庇うように立つ。
「体力を残すのはね……!!」
「アルビダ殿も同じでござる!!」
不意によく知っている声が自分達の耳に入る。その声は二人を安心させるのに十分であった。声が聞こえた直後にレオ達の近くに居た敵は木枯らしと青いエネルギーを纏ったホタチに蹴散らされていた。
「案外早いじゃないか……、アルビダさん!!ムサシ!!」
レオ達が苦戦する中、現れたのはアルビダとムサシ。彼らもまた勝負に勝ちレオ達の加勢をする。こうなるとレオは嬉しくて仕方が無かった。
「よし!反撃だっ!」
レオは威勢よく声を上げ敵陣へと飛び込んで行った。
★(アムネジアサイド)
辺りはアドルフの"竜星群"により、荒廃しその上で敗北感を味わいながらアムネジアととテンコはアドルフを見上げる。してやられた事にアムネジアは腹が立って仕方がない。
しかし、怒りに身を任せても勝機は無い。まだ、自分は立てる。水晶の覚醒により耐久も上がっていたのが幸いしたようだ。テンコも同じくまだ戦えるようであった。
テンコは口に次の技のエネルギーを溜め始める。それに対してアムネジアは剣を取り、ゆっくりとアドルフに近づいて行った。心なしかアムネジアの雰囲気が黒く殺気立っていた。
「……まだ立てるか、恐ろしい力だ。前の貴様らだったら確実に立てまい。まぁ……、ふらふらだけどな」
アドルフはアムネジア達が立てる事に驚きながらも余裕を崩さずにいた。おまけに、すぐに二人とも立つのがやっとであると見抜いていた。
だが、アドルフの見解とは違いアムネジアはすぐに水晶を覚醒させ剣を握って渾身のひと振りをアドルフに浴びせる。アドルフは舌打ちしながらもそれをかすり傷に済ませる。
かすり傷は大したことは無いが、アドルフにとって問題なのがアムネジアそのものだった。今にも倒れそうなのに彼からは何か"さっきとは違う"雰囲気が漂っていた。まるで"別人"になったかのようである。
「はぁ!」
テンコはアドルフが考えている隙に"火炎放射"を放つ。策は練らせまいとテンコは妨害の為に放ち、アドルフは何とか避けきる。牽制であるのは明らかだが、一人違うのが居た。
次の光景は二人の目を疑うものだった。
「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁ!」
アムネジアは"火炎放射"が死角になっているのをいい事に業火の中突っ込んでアドルフに接近したのだ。炎から掻きでてくるザングースを見てアドルフは恐怖する。毛は所々燃えていた。
アドルフには色違いで青くなっている部分が本来の色の様に赤くなっているように見えた。赤い部分は彼の血である。
「っっっしゃあぁぁぁぁっ!!」
アムネジアは勢いよく腕を振り下ろし"ブレイククロー"を先程のかすり傷に正確に当てた。なんの迷いもなく、先程の行動みたいに狂わずに的確な場所へと攻撃する。
アドルフはこれで間違いなく今のアムネジアは"別人"と判断する。そう判断した瞬間に身体に鞭を打ちながらアムネジアは斬撃をアドルフに仕掛ける。ダメージがでかく動きが取れなくてもおかしくないのに―――。
「があぁぁっ!」
アドルフは何とか避けていながらも遂に斬撃が直撃する。鋭く且つ確実にアドルフの体力を奪っていった。いつの間にか特攻が"竜星群"で下がっているとはいえ、当たればすぐに倒れそうな死にぞ来ないに圧倒されているのだ。
「……何あれ?」
テンコはそんなアムネジアを見て恐怖を覚える。暗殺者の眼、今のアムネジアの眼は冷たかった。見るだけで切り刻まれそうな程鋭く怖いものだ。思わず後ずさりする。
違うのだ、目の前に居るザングースはアムネジアではない。彼そのものが"斬撃"―――、"スラッシュ"みたいだ。テンコはそんな事を考えながらアムネジアを見る。そしてすぐにある事に気づく。
「スラッシュ……?まさか!?」
テンコは気付いた。今アムネジアはかつて暗殺者として暗躍したスラッシュへと急速に戻りつつあるのだと。アムネジア、いやスラッシュはアドルフを殺す気だろう。そんな事させると忽ちスラッシュへと戻ってしまう―――、テンコは怖かった。さっきまであんなに明るかったアムネジアが居なくなるような気がして。
「やめて!アムネジアッ!!これ以上スラッシュに戻らないで!!!」
テンコは叫ぶ。いても立ってもいられないのだ。大事な者を失うのが怖い。ただその一心だけで声を張り上げる。その声でアムネジアはハッとなる。
「……、テンコ」
アムネジアは一瞬殺意を引っ込めテンコを呼ぶ。テンコはその様子に安心してか猛ダッシュで近づく。アドルフはその隙に距離を取る。
テンコがアムネジアの近くに来るとアムネジアは剣を持ってない方の手を大きく上にあげる。そしてそのまま勢いよく振りおろした。
「すまない、邪魔だ」
アムネジアはそれだけ言うとテンコに軽くショックを加えて気絶させた。ここからはテンコに見せられはしなかったのだ。
「……決着だ」
その様子を見ていたアドルフは待ってましたと言わんばかりに口をあける。邪魔者は消えた、両者はそれだけでホッとし決着の為に構える。
「消えろ!」
アドルフはそれだけ言って"悪の波動"を放つ。大技は隙を生じやすい上に今のアムネジアは立つのがやっとの筈なので一番適していた。
対するアムネジアは全くスピードを落とさず黒い波動を避けきる。途中腹部から血を流していたがそれでもかまわず目の前の敵を切る事だけを考えて突っ込む。痛みを忘れて。
全ての波動が避けられたところでアドルフは自分の死を覚悟する。こちらはちゃんと痛みを感じ切られた傷が段々広がっていたのだ。これでは間違いなく死ぬ、そう判断し目を瞑る。
アムネジアはそれを見て剣を投げ捨て自分の拳に力を込める。アドルフの目の前に来るとアムネジアは拳打、蹴りなどを合わせて猛攻する。"インファイト"でアドルフの傷を外して攻撃していた。
アドルフはアムネジアの猛攻を喰らった後、ゆっくりと地面に落下し間もなく動かなくなる。アムネジアも着地し倒れて意識不明のアドルフにこう言った。
「俺はもう二度と誰かを殺さねぇーよ、あばよ……」
アムネジアはそう言って剣を回収する。その後にテンコを担ぎ今いる部屋から出る。自分の傷のおかげで歩きづらいが。
「あとは……、レオ達と合流だな」
アムネジアはそう言いテクテクと歩き出した。