part6
レオ達が戦っている頃、アムネジアとテンコは遺跡の大広間へと飛ばされていた。
「ここは……、どこかの遺跡ね」
「んな事はわかる。問題はレオ達とはぐれた事だ。ある程度作戦を練ったのに、役に立ちやしない」
テンコは辺りを見わたしながら古い壁などから遺跡と判断する。アムネジアはそんなことなど気にせず、せっかくの作戦が無駄になることを嘆く。
アムネジアはそれからすぐに敵が来てもいい様に、刀をいつでも抜ける様に手を刀から離さずに歩く。テンコもそれにつられて、周りに目を配り始めた。今二人に必要なのは、仲間との合流である。それが事前に練った作戦を活かすことにもつながる。
二人は遺跡を歩いていく中で、ある事を考えていた。二人にとって宿敵であるサザンドラのアドルフの事である。身元の分からないアムネジアに手を差し伸べてくれたテンコの両親を殺したのはアドルフだ。
アムネジアにとっては、記憶が無く曖昧な存在な自分を暖かく家族として迎えてくれた恩人である。その二人の命を奪ったアドルフは当然許せない存在である。今でもはらわたが煮えくりかえりそうであった。
しかし、前回のアドルフとの接触時に自分がモリと一緒にアドルフの父が創り上げた暗殺組織のエースであると告げられた。その上、自分は記憶を失う前にアドルフの父を殺したのだと言っていたのである。自分もアドルフとなんら変わりの無い鬼神だったのである。
自分も奴と同じだ、アムネジアは自分に知らない内にそんなレッテルを貼り付けてしまっていた。他の水晶の主は"Samsara"の幹部に大切な人を奪われ憎んでいるが、自分は互いに憎み合っているのである。それも、同じ事をし合っていた。
自分は"leading"の幹部のモリと一緒にアドルフの父が率いる暗殺組織に所属していた。その時に恐ろしいほどの数のポケモンを殺してきたはずだ。実際に"東国"では陰謀での暗殺は多発している。記憶を失い、王の親衛隊に所属してきたためにそういう場面は沢山見てきた。自分は間違いなく数多くの陰謀に加担していたに違いない。自分の記憶はまだモリとフォックスから聞いた部分しか戻ってきておらず未だに全貌が明らかにならない。それとも、今思ってる通りの事で自然と拒んでいるのかもしれない。アムネジアは自身の悪行を非常に悔いていた。
アムネジアは深く考え込む内に周りが見えずテンコが「前、気をつけて」と言ったのが全く聞こえておらず遺跡の柱と激突してしまった。テンコはその光景を見て目が点となる。らしくない、彼女はそう思いアムネジアに寄り添った。
「あんた、どうしたの?まさか、あの事を考えているんじゃないでしょうね?自分が奴と同じだって思ってるんでしょ?」
テンコはアムネジアを心配しながら、見事彼が思っている事を引き当てる。アムネジアはその台詞に疑問を覚えた。教えてはいない筈である。何故知っているのか疑問に感じながらもある可能性に辿り着く。
「モリさんから聞いたわ。あなたの過去の事を。どうせ、生きてていいのか考えてるんでしょうけど、一つ言わせてもらうわ」
「……何だ?」
テンコが完全に自分の事を知っていると分かり、テンコの続けて言う言葉が気になりアムネジアは聞く態度をとる。
「あくまで"スラッシュ"がやったことで今私の目の前に居る"アムネジア"がやったことではないわ。それでも、も、もし……あ、あんたが自分の過去の過ちを償いたいって思うなら、私が手伝ってもいいわ……。わ、私があんたの隣でずっと……」
テンコは続く言葉を恥ずかしがりながらも言いきった。アムネジアはそれを聞いて心の奥底に突っかかっていた物が取り払われた様な解放感を味わった。目には少し涙が浮かび、アムネジアはそれを必死に拭う。
「……ありがとう、テンコ」
アムネジアは手で目を覆いながらテンコの顔を見ずにお礼を述べる。テンコはそれを見て心配そうに歩み寄り、涙を流すアムネジアの頬をなめる。
アムネジアは急なテンコの行動にびっくりし、顔を赤くしながらテンコを見る。気がついたら目に浮かぶ涙は消えていた。
「フフフ……、な〜に?そんなに顔を赤くしちゃって」
テンコは悪戯な笑みを浮かべてアムネジアをからかう。このような事は珍しくアムネジアがたじたじとなって「う、うるさい!」と反論するがいまいち効果が無い。
テンコの話しにより二人は暗い雰囲気を取り払い再び周りを警戒し始めた。
「さて、お楽しみは終わりましたか?」
そこに、二人の警戒心を一気に頂点までに引き上げる声が聞こえてきた。アムネジアはすぐに抜刀し、戦闘態勢に入る。テンコも六つの尾の先に紫色の炎を作り出す。
声の主―――、アドルフはフフフッ、と笑い二人を見据える。目的は二人の水晶を回収する事である。その為に殺すのも厭わない、アドルフはアムネジアに対抗するかのように殺気を辺りに轟かせる。
それは猛獣の咆哮の如く迫力があり、二人の動きを一瞬止める。アドルフはその隙を見て技の為のエネルギーを口に溜め出した。
しかし、アムネジアはいち早く動作を再開しテンコを抱え込んでその場を急いで離れた。その動作、僅か1秒ほどの動きで迅速な対応であった。
アムネジアのこの行動はすぐにテンコを救う事となった。アムネジアが離れたその直後にアドルフの口から"竜の波動"が放たれており、アムネジア達が居た場所は一瞬で爆発した。その威力は中級の技ながらも床が綺麗に深く抉られており、言うまでもなく危なかった。喰らえば大ダメージは明白である。
テンコは、この一瞬のやり取りの中で自分はまだアドルフに太刀打ち出来るほどの力が無いと痛感する。アムネジアはしっかりと冷静に判断し、自分を助けた。これではアムネジアに自分というハンデが居るようなものだとテンコは深くショックを受けた。
「テンコ、お前まさか自分が足手まといだと思ってんのか?」
アムネジアは落ち込むテンコを見て、先程のテンコの様に励まそうとする。テンコはそれを見て、あれだけアムネジアが沈んで、自分は励まそうとしたついさっきの事を思い浮かべる。僅かな時間で今度は自分が同じ事になっていた。テンコはそれに気づき頑張らなくてはならない、そう思わされた。
しかし、実力の差はこれで埋まった訳ではない。だが、戦闘は始まって数秒しか経ってない。正確にわかるわけではないのだ。やるだけの事はやる、今のテンコはそれをすればいいのだ。
「数では有利、それにどんな敵だって僅かな隙はあるんだ。奴の動きを見逃すなよ―――、俺は今から鬼になる」
アムネジアはアドバイスといったものではなく、自分は今から非常になると言う旨の言葉を伝える。この言葉を発した後、アムネジアの雰囲気はがらりと変わり、オレンジ色のオーラを纏う。テンコもそれに続き赤いオーラを纏う。
「……来るか」
アドルフはそんな二人の様子を見て目つきが更に鋭敏なものになる。そして、二人の動きを見離そうとせず仕掛けるタイミングを窺った。
アムネジア達も同じ様にアドルフの動きから目を離さず、タイミングを見計らっていた。
そして、アムネジア達とアドルフの間に緊張が走り、場は一気に膠着する。先程のアドルフの様に先手必勝と言わんばかりの動きと違い、今度は誰もが待っていた。
そんな膠着状態の中、先に仕掛けに言ったのは通常赤い部分を持つところが青色になっている色違いのザングース―――、アムネジアが刀を持ってアドルフに横に切りかかる。アドルフは刀を振るう速さから技で迎撃するのではなく空中へと逃げる事を選び、ギリギリのところで一閃を避ける。
すると、テンコは読み切っていたのかアドルフが居る空中に向かって"火炎放射"を放っていた。覚醒して技の威力が並みのロコンの域を超えており、いかに半減で抑えられるサザンドラのアドルフとはいえ喰らうのは避けたいものであった。右手の頭に黒いエネルギーを溜め火炎に"悪の波動"を放つ。技同士の衝突で爆発が起き、大きな砂埃が舞う。アムネジアはそれに乗じて球を地面に投げつける。その球が床にぶつかるとそれは割れて煙が部屋の殆どを覆った。
技と技の衝突は相殺に終わり、これがテンコに自分はまだやれるという自信をつける事になる。慢心などは無く、テンコの行動に勢いがこれからつき始めた。
テンコは砂埃が舞う中、その中枢に向かって駆けていく。次は自分が先手を取ると言わんばかりにアドルフを探る。少し見わたすと黒い影が宙にまだ浮かんでおりアドルフの位置は明らかだった。
すぐにその位置に向かって再び"火炎放射"を放つ。アドルフは今度は相殺しようとはせずに後ろに飛んで逃げる。視界が悪いと判断してか、煙の中から勢いよく出てくる。今度はテンコが自分が見えない、アドルフにとって反撃のチャンスであった。
しかし、煙から出てきたら今度はアムネジアが刀をまっすぐこちらに向けて突進してきていた。喰らえば串刺しは免れない。さらに上へと舞い上がりその攻撃を避ける。
アムネジアは刀をすぐに前方の壁に投げて突き刺す。そして、走る勢いを少し緩めて壁の前で急カーブする。刀を壁から勢いよく引き抜き今度は"電光石火"で助走をつけて高く跳び上がった。アドルフとの距離が間合いに入り、再び横に一閃する。今度はアドルフの腹に切り傷が出来、そこから血が流れる。
そこに、テンコの"大文字"が飛んできてアムネジアは既に落下中であった。完璧なタイミングで大技を叩きこむ。その様子を見てアムネジアはテンコは足手まといなんかではないと確信する。
「なめるなぁぁ!」
アドルフは迫りくる大の字の業火を口に淡色のエネルギーを溜めて"竜の波動"を放つ。今度もまた相殺して爆発、とはいかず僅かに"大文字"が勝る。アドルフに炎が届く前に雲散しダメージは無かった。
この出来事にアドルフは苛立ちを覚え、反撃に出る。
「調子に乗るなっ!!」
アドルフはいいようにやられた苛立ちから少し冷静さを欠いていた。その証拠に我武者羅に"悪の波動"を打ちつづけていた。
だが、我武者羅とはいえ危ないのに変わりはない。壁に当たり瓦礫が飛散したりするので、非常に避けるのも難しかった。アドルフはそれを見てニヤニヤと笑う。初めから冷静でいたようである。
「さて、そろそろ決めるか」
今度は"竜の波動"をテンコのいる天井に放つ。勿論天井は崩れ瓦礫が先程以上に多く落ちてきた。
テンコは逃げようと必死に後ろへ逃げようとするが、尻尾があるものにぶつかる。テンコはチラッと見るとそれは壁であった。先程の我武者羅に見えた攻撃の目的は逃さないことだと気づく。
やられた、テンコはそう思い目を瞑る。自分に防御出来る技はないのである。
しかし、アムネジアはそれをわかっていたのかテンコの前に立ち刀に光を灯す。
「"ブレイクスラッシュ"」
アムネジアは白い斬撃を瓦礫に向かって放つ。瓦礫は一つも漏れることなく真っ二つになり、テンコ達に一つも当たらなかった。
「やはり、これでは無理か……。ならば、これでどうだ?」
アドルフは次に地底から大量の水を呼び出し、大きな波を作る。"波乗り"という広範囲で中級クラスの技である。壁際に寄っているテンコ達には逃げ場はなかった。
「ならば……、"守る"」
アムネジアはもうこれしかないと、自分の周りに緑色のシールドを作る。テンコもそのシールドの中で水の勢いが止まるのを待つ。
波の勢いは止まり防ぎきったところでシールドは消滅した。暫くは出せそうになかった。
「これで、とどめだ……」
だが、アドルフの攻撃は止むことはなかった。シールドが消えた今隙だらけである。
しかし、ここで空から大量の岩が降り注いできた。テンコはそれを見てこの世の終わりのような顔をし、アムネジアは悔しそうに隕石を見つめていた。これ以上凌げそうにないこのタイミングは正に絶望であった。
「"竜星群"」
アドルフは自身の最大規模の攻撃を容赦無く放つ。正に袋の鼠であった。
「ち、ちくしょおおお!」
アムネジア達はただ、この状況に絶望するしかなく降り注ぐ大量の隕石を受けるしかなかった。