part8
一方、水晶の主が戦闘している間の反転世界では……、
「「「ゼェ……、ハァハァ……」」」
三人の荒い息が響き渡っていた。その三人とはアルセウスとルーツ(ギラティナ)、フリーズ(キュレム)である。彼らは反転世界で2対1の死闘を繰り広げていた。
さすがに、神のレベルに達するポケモンを二人同時に戦うのはアルセウスでも至難の技であった。その上、実際に戦っているのはギラティナ、キュレムに取り付いている人間である。アルセウスはこの二人の命を奪いたくない為に全てが後手に回っていたのである。
「そろそろ終わらせないとですね……」
ルーツはそう言ってフリーズを見つめる。フリーズはそれを見て何をすべきか察したようでアルセウスに突っ込んでいった。この行動にアルセウスは目を見張る。
何故なら、キュレムは遠距離攻撃を中心に戦うのである。乗っ取ったフリーズもそれに従い遠距離攻撃を使用していたのだが、何かの合図を受け取ったのか近接戦闘を挑んできた。明らかに怪しく危険なものであるとアルセウスは悟った。
「くっ!」
アルセウスは背を向けてフリーズから逃げ出す。その行為は神として恥ずべきことである。しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。アルセウスはまずキュレムの解放のための策を練り始めた。
最悪、殺さなければいい。酷いものであるが仕方がない。そう考えてアルセウスは意を決し、振り返った。
キィィン!
アルセウスの体色がそれと同時に光を放ちながらタイプを二人の相性に合わせたものに変える。身体にピンク色がかかりフェアリータイプへと変わったのである。
それに合わせてフリーズも"凍える世界"を放ち、アルセウスに攻撃をさせまいと牽制をする。アルセウスは難なく冷気を避けエネルギーを溜めていた。
「"裁きの礫"!」
アルセウスはキュレムからフリーズを引きはがす為に妖精の力を纏わす礫を放つ。
アルセウスのみが使いこなせる専用技。あの時この技で幾度となく人間を葬った記憶がアルセウスの中に蘇る。そして、生き残りの多くをポケモンと人間を切り離し、水晶に"第二の創造神"を封印する為の生け贄として使用した。
今思えばルーツ達が怒るのも無理はないのである。その中にもし彼らの大切な人でもいたらどう思うだろうか、アルセウスには分からなかった。あの時他の選択肢を探そうともしなかった自分を憎んでしまう。
しかし、今ルーツ達がやろうとしている事はそんな自分の犯した過ちと同じ事である。今度はポケモン、人間ともに危なくなるものだ。せめてもの償いとしてそれは阻止しなくてはならない。
フリーズはアルセウスの攻撃があるにもかかわらず全速力で突っ込んで行った。どういうことか、アルセウスは考えルーツを見つめる。そして、アルセウスは彼らのやろうとしている事に気がついた。
「やめろ!そんなことしちゃいけない!!」
アルセウスは止めるように大声で呼びかける。当然の如くフリーズは特攻を止めない。今からルーツ達がやろうとしている事をさせてしまうとキュレムの命が本格的に危機にさらされてしまう。
フリーズは特攻により、"裁きの礫"を諸にくらってしまった。しかし、それでもフリーズは怯むことなくアルセウスへと突っ込んで行った。
「もう遅い!!貴様はこの世界で永久に幽閉されるのだ!!」
ルーツが持つ"茶色の水晶"は黒いオーラを放ち、黒い立方体の塊を徐々に形成させていった。その塊は先ずフリーズを飲み込み、大きく拡大していった。
それを見たアルセウスは絶望した表情となり、自分の力の無さを悔いた。これに飲み込まれたら自分もキュレムも助からないのである。
「この塊はフリーズごとキュレムの生命エネルギーを媒介とし、神をも封じる牢獄となる……。フフフ……、待っていたんだ!この時を!!」
ルーツは勝ち誇った表情をしながら高らかに笑う。そのすぐ後に涙を流し道連れになったフリーズに対して自責の念を背負う。
アルセウスはその光景を信じられなかった。何故涙を流すぐらいなら始めから犠牲にしたのか。フリーズがルーツに後を託して死を選んだのか、定かではないがこの方法はまさしくアルセウスが取った行動と同じである。
アルセウスは段々黒い塊に吸い込まれていき、感覚の自由を奪われていった。吸い込む力は段々大きくなり、塊の中でフリーズはまだ生きていた。
そして、とある声が聞こえてきた。様々な声が飛び交っているが共通点があった。
それは、アルセウスが生け贄にした例の人間たちであった。当然アルセウスを憎んでおり、その力は水晶の暴走より、濃く禍々しいものであった。
『キタ、ワレラノテキ。』『シネッ!』『ナンデワタシタチヲヒキズリコンダノ!!』『ヨクモワタシノジンセイヲ!』『オマエモオナジウンメイヲタドルガイイ!』
『ミンナ……、ミンナ……』
「道連れだぁぁぁぁぁ!」
塊の中に居たフリーズは、生け贄となった人間の台詞の続きを言ってアルセウスにかみつく。これによりアルセウスは絶対に逃げられなくなった。
「くそっ!こんなと……」
アルセウスは吸い込まれる中でも声を発し、米粒程度の抵抗を示す。勿論勝てる筈がなくアルセウスは段々力を失い、黒い塊に完全に飲み込まれてしまった。
それと同時に"茶色の水晶"が塊になり損ねた黒いオーラを徐々に吸収し始めた。sれにより、色が段々オーラと同じ黒色へと変わっていった。
それはかなりの力を有し少しずつルーツの傷を治し始めた。ルーツはその嬉しい誤算に満足げであった。
「フフフ……、アッハハハハハハハハハハッ!アルセウスの次は水晶の主共だ!必ず"第二の創造神"を引きずり降ろしてくれるわ!」
ルーツは高らかに宣言した後反転世界に穴をあけて現実世界に向かっていった。その先は今レオ達が居る大広間。
ついに来た、ルーツはそう胸をたからせ穴の中に飛び込む。長年の計画がついに成就する時が近いとなれば自然と笑みが止まらなかった。そうしている内にルーツは穴から出ていた。
そして、穴の中から出た先には仕向けていた下っ端を少し体力が削れていながらも倒し切っていたレオ達が居た。
「お出ましか……!」
「まだ全員が居ないこの時に来るなんて……」
レオはすぐに警戒態勢に入る。アルビダは少し不利だと感じ焦りを浮かべる。二人は目の前にいる最大の敵を前に今までにないものを感じていた。
それは他の幹部とは違い覇気がある。伝説のポケモン、"ギラティナ"の体を持てば威厳などと言ったものを感じる。つまり、ルーツからとんでもない"プレッシャー"を感じているのだ。
「さぁ!始めようか!!!地獄の宴を!!」