part4
レオ達が戦いを終わらせている頃、クレメンスは一人で遺跡を巡っていた。見覚えがるのである。クレメンスにとってこの遺跡はレオ達と出会い、水晶の暴走をした等と忘れる事が出来ない場所である。
しかも、見覚えがあるというのは以前クレメンスが通った道と全く同じなのである。水晶の光に導かれただ探検家として、水晶遺跡を探検したあの日を思い出していた。
あの時は罠があってそれに誘われるように逃げて番人であったアブソルのシックルと戦ったのである。彼女とはクレメンスにとって敗北という苦い思い出しかない。今戦うとどうなるであろうか、クレメンスはそう思いながら遺跡の奥へと進んでいく。今回は罠なしで誘われているような感覚だった。
実際、罠のわの字もなくクレメンスはスイスイと進めていけた。待ち伏せがあると思っていい筈なのにだ。マーキングテレポートと思われるもので"北国"のアジトから"南国"の水晶遺跡までワープしたのである。単純に反対側へと向かった事になるこの移動が何のか最初は分からなかった。見覚えがる光景が見えた為になんとか水晶遺跡に居る事が分かった。
「どうして、奴らは襲ってこないんだ?それにこの遺跡にはスイクン達が居た筈…。まさか……」
クレメンスは敵の気配がまるでない事と、この遺跡の番人達であるスイクン達がどうしているのか心配になった。だが、今はどうしようもない。この遺跡は奴らに占拠されているかもしれない。でも、立ち止まれない。それなら自分が彼らを救うだけだ、そうクレメンスは心に決める。そうして歩みを進める内に別の部屋へと着いた。
「あ…、ここは」
クレメンスが着いた部屋は正にシックルと戦ったあの部屋であった。ここで、クレメンスは彼女に負けた。今戦うとどうなるか気になるものであった。
「グッ……、お前は…」
しかし、そんな感傷に浸る暇はすぐにない事が分かった。今聞こえた声がクレメンスの聞き覚えがあるものであった。クレメンスは声がした方を見る。その方向にはアブソルが倒れていたのである。間違いなくシックルである。傷がとてもひどく動けなさそうであった。
「遅かったですね、貴方が来る前にこいつ等と遊んでいたんですが……。退屈でしてね」
そして、今度はクレメンスにとって憎むべき者の声。エレキブルのボルトの声が耳に響く。どうにかしてこの声だけは聞きたくない。クレメンスはただそれだけ思った。親をボルトに殺された、この事は今でも忘れられない。
しかし、同時にボルトは少し気になる発言をしていた。"こいつ等"と言ったのだ。つまり、シックルを含めた複数と戦っていたというのである。
「!?クレメンス殿ですか……!お久しぶりです!シェイドです!」
それからすぐに何か急いだような声が聞こえた。それから、ふらふらとクレメンスの元へやってくるポケモンがいた。そのポケモンはシックルと同じくアブソルのシェイドであった。外見は血まみれで立つのがやっとというのが見て取れた。その横には同じく酷い怪我をしたシックルが立っていた。
「シェイドさん!もう無茶はよしてください!コイツは…………僕が仕留める!」
クレメンスはボロボロのシェイドを見て益々ボルトに対して憎しみを募らせる。それに反応して"緑の水晶"は怪しく光る。クレメンスが暴走していた時と変わっていない。だが、今回はただ憎しみにのまれるだけではない。
クレメンスは水晶が光った後に緑色のオーラを纏い、一気に力を上げる。そのオーラ―で空気が震え、"東国"との戦闘とは桁が違うのだとボルトに示す。
「…!これは……、本気で行かないと死ねますねぇ…」
クレメンスの力を感じ取ったのかボルトは一気に真剣な顔つきとなり、手に黒い電撃を通す。だが、クレメンスはビブラーバ。電気技は通らない。それは百も承知であろう相手が電気を使うのに、クレメンスは得体の知れぬ恐怖を覚える。
そして、一瞬だった―――。
ボルトが"高速移動"でクレメンスの後ろへと回り込み黒雷を纏った拳を振りおろす。クレメンスは間にあわないと踏んでかガードの態勢になりダメージの軽減を試みた。それが今回は思わぬ結果を生んだ。
「があああああああああ!」
だが、ボルトの攻撃は今までとはまったく違っていた。地面タイプであるクレメンスが電気技をまともに食らったのである。何故であるか分からないが今のボルトの手には黒雷が纏ってあった。あれがこの事にかかわっているのは間違いなかった。これがクレメンスにとって初めての電撃体験である。
「フフフ……、"黒雷拳"。私はこの技で多くの地面タイプを倒してきました。あなたの親もこの技に苦しんだんですよ」
ボルトはニヤニヤと笑いながら次の黒雷を用意していた。だが、クレメンスもただ黙ってやられるわけではなかった。
「ハッ!」
クレメンスは"砂地獄"を一気に四つだし、ボルト周りを回る様に近づけていった。ボルトは逃げようと先程と同じように"高速移動"で逃げきろうと考え走り出した。それをクレメンスが許す訳が無い。
「無駄だよ!」
クレメンスは巧みに"砂地獄"に隠れてボルトに対して"超音波"を放つ。"砂地獄"に対して必死なボルトはそれに気づかず音波をくらい、自分の思うような方向へと逃げきれなかった。
「ぐあああああああ!」
ボルトは自分の思うように避けられず、悲痛な叫びを上げる。だが、それで意識がはっきりしてきたのかクレメンスのいる方向をしっかりと睨んでいた。
ボルトは素早くクレメンスへと走り出し、手に黒雷を纏わせる。地面タイプにすらとおるこの電撃の拳はクレメンスにとって脅威以外の何物でもない。
しかし、それも当たればの話。クレメンスは高く跳び上がり遠距離から攻撃を仕掛ける態勢に入る。拳で攻撃する為にリーチが短い為この手段は有効的であると判断したのである。
「甘い!」
ボルトはクレメンスが高く跳び上がっても怯むことなく突っ込み続け、そのまま一気にクレメンスが居る所までジャンプした。驚いているクレメンスを尻目に"黒雷拳"をクレメンスに当てる。
クレメンスはガードも出来ず完全にダメージを受けてしまい、地へと落下する。それに対してボルトは綺麗に着地を成功させる。これが二人の差を如実に表していた。
クレメンスはまだかろうじて立ちあがる事が出来た。"覚醒"しているので全体の能力が上がり、それに救われたというところである。
ギリギリ残っている力を振り絞りクレメンスはボルトを倒す策を練り始めた。倒すには"竜巻砂漠"をボルトに当てる必要がある。当たれば間違いなくボルトを倒せると確信しているのである。
だが、今の体力を考えると放てるのは一回だけである。範囲が広く生成する時間もそこまでかからないが、一度だけという事は外したら負けである。クレメンスに緊張が走る。
そこにふらふらとシェイドが近づいてきた。クレメンスはそれに気づきシェイドに近寄る。
「……クレメンスさん、あなたの攻撃はあと数回しか出来ないんですよね?……私が隙を作ります。その内に僕ごと奴を吹き飛ばしてください」
シェイドの口からとても出来はしない作戦とは言えないものを伝えられた。クレメンスはそれを聞いてすぐにダメだ、と反対する。
「あんたは一撃に集中しなさい、私達が隙を作る。大丈夫、私もコイツも死なない」
今度はシックルがクレメンスにシェイドと同じような作戦をつたえる。違う点はシェイドの様に捨て身の覚悟で突っ込もうとしないところである。
「……わかった」
クレメンスは二人の覚悟を見て"竜巻砂漠"を作り始めた。
「作戦会議は終わりか?お前らを纏めてこの手で倒してやるぞ」
クレメンスが意を決したところで、ボルトはクレメンスと同じように黒雷を拳に多く纏わせていた。本気で一撃で終わらせるつもりの様である。
「二人とも……、死なないでね」
クレメンスは祈る様に二人にそう告げる。それを聞いた二人は一気にボルトの元へ走りだした。