part2
「まさか小娘、貴様が水晶を覚醒させここまでやるとはな」
ルワールはいかにも不機嫌そうな面をしながらアルビダを睨みつける。そんなルワールの威嚇行為にアルビダはちっとも怯えず、逆に睨み返していた。
「あんたは…、シシマイさんを殺した。レオにとって最大の敵!でも、レオは前回あんたに勝った。でも、まさかあんたの正体が人間だったなんてね」
アルビダはルワールを睨みながら前回の"東国"での戦いについて触れる。あの時、レオは間違いなくルワールに勝った。なのに、まさかヨノワールから今のミロカロスの姿に変わるなんて誰も予想できなかった。
そこで、判明した事は伝説に出てきた人間であるという事。それも、ルワール意外に二人いるというのはつい先程までアジトに居た時に分かった事。その二人が伝説のポケモンキュレムとギラティナの体を乗っ取っている。
今考えると恐ろしい戦力だ、アルビダはそう思い目の前のルワールとの戦いに集中する。
それから、二人の間には沈黙が流れだした。どちらが先に先手を打つか探っているのである。アルビダはピカチュウ、ルワールはミロカロス。素早さ、タイプ相性でアルビダには良い条件である。それにも関らずルワールは余裕でいる。
ビショビショになった床に石ころがコロリと落ち、ビシャっと音を立てる。それを合図にアルビダが"電光石火"でルワールの元へ突っ込んっで行った。始めから迎え撃つつもりだったのかルワールは殆ど動かずアルビダに視線を注ぐ。
アルビダは"電光石火"を攻撃に使うのではなく、後ろに回り込む移動手段として用いる。ルワールが正面から迎え撃とうとしても後ろから電撃を浴びせるのは単純明快でいい案である。そのままアルビダは電気を溜め始めた
だが、ルワールはそれを読んでいたのか種族柄の巨体に似合わぬ速さで顔をアルビダのいる方向へ向ける。口にはアルビダの攻撃を迎え撃とうとして技を発する為のエネルギーを溜めていた。
「"10万ボルト"!」
「"冷凍ビーム"!」
アルビダはお得意の電気技、ルワールは水技が電気技に破れやすいのを嫌ってか"冷凍ビーム"を放つ。その技のぶつかり合いは水晶の力を覚醒させ力が増したアルビダに分があるものだった。もちろん、冷気をぶち抜き勢いを殺すことなく電気はルワールに向かっていった。
「ちっ!力では勝てぬか」
ルワールはそう言って自分の周りに緑色のシールドを展開する。ポケモンの技の中でも最高の守りを誇る読んで字のごとく"守る"。あっけなくバリアに電撃は弾かれた。
アルビダはそれを見て反撃に備えようとバックステップしようとするが、とんでもない事を起こしてしまった。
ツルンッ!
「あ……」
今は床がビショビショになっており、運悪く滑ってしまった。ルワールが窒息を狙おうと用意していた水は思わぬところで役に立った。
アルビダはこけるときに間の抜けた声を放つ。あの強敵相手に絶大な隙を見せる事になるのだ。おまけにピカチュウは防御方面の能力が低い。最悪の事態であった。
「お返しだ」
ルワールはこれを逃すまいと口から湯気が立ち込める"熱湯"を放つ。これは相手を火傷状態に出来る追加効果がある強力な技。火傷状態は攻撃力を大幅に下げたり、少しずつダメージを負う厄介な状態。特殊メインのアルビダでも厳しいものである。そのまま、"熱湯"は容赦なくアルビダを襲う。
「あああああああああ!ああっ!熱い!熱ーーーーーーい!」
アルビダは大声をあげて"熱湯"に苦しむ。覚醒しているおかげかダウンする事に放っていないが、肝心の追加効果である火傷になってしまった。
「ふふふ…、貴様がドジをやってくれたおかげでこちらが有利になったぞ」
ルワールは先程あれほど苦しそうにしていたのに今度は余裕綽々としており、それが現在の状況を表していた。形勢逆転とはこのことである。
「ふざけんじゃないわよ…」
アルビダはゆっくり立ちあがり、再びルワールを睨む。
「…これ以上騒がれても面倒だ」
ルワールはアルビダを睨み口にエネルギーを溜める。ここで倒しておこうという考えなのであろう。しかし、その行動はアルビダの目の前でやっているのだ。つまり、アルビダにとってまたとないチャンスである。
「ドジなのはどっちよ!」
アルビダはすぐさま、”10万ボルト”を放つ。覚醒しているお陰で威力は上がっている。痛手を与えられるのは火を見るよりも明らかな筈だ。
しかし、それは当たればの話である。
「甘い、気づかぬわけがなかろう」
ルワールはアルビダの攻撃を完全に読んでおり、自身の周りに緑色のシールドを展開していた。そのうえ、そのまま技を出す準備までしていた。
「さらばだ」
ルワールはそう言って、口から”熱湯”を噴き出す。再びアルビダは焼けるような熱さを味わう。
「あっ…、ああああああ!」
またモロに喰らい悶え苦しむアルビダは火傷のダメージも重なって限界まで体力が削れていた。
「そん…な…、レオの役に……立てない…なんて」
アルビダは倒れてしまったレオの役に立てなかった。そんな負の感情が今の彼女を支配していた。もう動けない、そんな絶望的な状況でアルビダは目をつむる。死を覚悟して。
「それは違うな」
しかし、不意にアルビダに馴染みの深い声が聞こえてきた。救世主とも言えるそのポケモンはーーー、
「レオ……」
ルワールはレオが起き上がるとは思っていなかったのか、注意をアルビダからレオへ瞬時に移す。ここに来て厄介なのがきた、ルワールの顔にはそう書いてあるようだった。
「お前は一撃で倒す」
レオはそう言って水晶と同じ蒼い色のオーラを纏う。その表情はやると決めた戦士のようで頼もしいものだった。
刹那ーーー、レオの右拳にオーラが集中して行った。
力を一点に集中させているのである。正に先程の宣言に相応しい技を放つ気でいる。
「くらいな、これが俺の一番の攻撃力!」
レオはそう言って、覚醒の力が右拳に集まっていてもその速さはルワールをゆうに超えていた。
「ま、まも…」
ルワールは慌てて防御しようとシールドを展開しようとするが時既に遅し。レオは完全に技を放つ寸前であった。
「一点集中ーーー、”波動槍ーガ・デルグ”!」
レオは右手を手刀のようにしてルワールに突き刺すかのように攻撃する。強力な波動を纏ったその一撃はレオの今までの攻撃とは比べ物にならなかった。
「がっ…」
ルワールはその一撃をくらい意識を失う。口から泡を吹き完全にダウンする。そして、レオの攻撃の後がくっきりと残っており、それが威力を物語っていた。
「遅いわよ!バカ!」
アルビダは泣きそうな顔をしてレオに怒鳴る。不安が最高潮に達した後の安心感によっての嬉し涙
。彼女の顔は涙でクシャクシャになっていた。
「ああ〜、すまねぇ。でも、無事でよかった…」
レオはそう言ってニコリと笑う。
それにつられてアルビダにも自然と笑みがこぼれた。
「しっかし、お前こけてそのざまかよ。…プッ」
しかし、レオは今のいい雰囲気を壊すような発言をする。アルビダはそれを聞いた途端急に怒りが湧き上がってきた。知ってるということはその時にはレオは既に起きていたのだ。恐らく先程の技の溜め時間であろう。
しかし、そんなことはアルビダには関係なかった。
「こんの!大バカァーーーーーー!」
水晶遺跡にアルビダの怒声が響くだけであった。