part1
ここは何処だ…。確か俺はマーキングテレポートで“水晶遺跡”に送られたんだっけ?捕まってしまい奴らの思い通りになったんだっけ?…だったらまずい!
「アルビダ達は!?」
俺はつい先程着いた為に状況が把握出来ない。気がついたらここに着いていたのだ。
「私は大丈夫よ」
俺が探している仲間アルビダは何とか無事だった様で何処にも異常は見られなかった。
アルビダはそれからは辺りを見渡す。ムサシ達を探しているのだろう。その様子はさながら迷子になった子供の様に不安な表情をしていた。信頼する仲間が何処にいるのか分からないので当然であろう。皆強いので俺はアルビダ程心配はしていない。とは言ってもどこにいるかは把握しておきたい。
「皆、何処にいるの…」
アルビダはただただ皆が心配で今の部屋の中を見わたす。対してレオはこの部屋の構造に疑問を持っていた。
この部屋にはなぜか湖のようなため池がある。この遺跡は乾燥地帯なのでその為に用意された水なのだろう。
だが、レオ達は敵の手によりここに“運ばれた”のだ。この意味がさす事は水タイプのポケモンが潜んでいるという事が予測される事。つまり、既に罠にはまっているのではないかー、レオにはそう思えてならなかったのだ。
レオはしばらく敵の水タイプのポケモンについて考えていた。エレキブルのボルト、サザンドラのアドルフ、フーディンのウィル、そして残りの一人は……、レオに憎き敵ルワールだ。ルワールは人間でポケモンの体を乗っ取ることが出来る。今奴が乗っている種族それはーーー、
「アルビダ!その湖から離れろ!!!」
レオは急いでアルビダを逃がす為に叫ぶ。アルビダはビクッとしながらも“電光石火”を使ってその場から離れる。それと同時に湖から巨大な波が押し寄せてきた。これは間違いなく水タイプお得意の“波乗り”という技であった。
とてつもなく大きいエネルギーを持った波はアルビダの逃避がすぐに無意味だと分からせる。こうなると残された手段は技の“守る”を使うか、打ち消すのどちらかしかない。生憎レオとアルビダは“守る”を使う事は出来なかった。となると必然的に打ち消す以外に方法が無いのだ。
「仕方がねぇ!」
レオはそう言って“蒼の水晶”に手を当ててその力を解き放つ。今となっては自由に扱える代物。全員が出来るが安定して使えるのは恐らくはムサシとクレメンスであろうこの機能は使用者の能力を別次元の力へと変える。その力を使いしものは対応する水晶の色のオーラを纏う。今レオは蒼のオーラを纏っていた。
「“空波動”!」
レオは両手を使って見えない波動を放つ。衝撃波とほぼ同じであるこの技は覚醒したレオによって普段とは比べ物にならない力を得ていた。ただの衝撃波が波を二つに分けたのである。これだけでも波の勢いは弱まり脅威するほどのものでなくなる。波が部屋全体に行きわたり部屋が水浸しになる。
「凄い!これが水晶の力……」
アルビダは今のレオの一連の動きを見て思わず感嘆の声を上げる。すぐにレオに「静かにしろ」と言われ少し不貞腐れた表情になる。
バシャッ!
戦闘でありながらもほんわかした雰囲気をしているレオ達に注意を促すかのように湖から勢いよくポケモンが現れる。そのポケモンは大蛇の様な体躯をし、ふつくしい鱗を持つポケモンミロカロスであった。ルワールの今の種族それすなわち今目の前にいるミロカロスである。
「大分強くなったな…レオ。前回は疲労によって相手になっていないが今回は違う」
ルワールはレオが覚醒して“波乗り”を打ち消した様子を見てか笑みを浮かべながらそう言った。皮肉のようなこの言葉にレオは素っ気なく「どうも…」と言って返す。
アルビダはいつでも電撃を放てるように頬の電気袋から電気をぱちぱちとさせている。レオ、ルワールもお互いの目の前に居る敵を見据えており、完全にこの部屋は戦場へと化していった。
「“十万ボルト”!」
まず最初に動いたのはピカチュウのアルビダ。彼女はルワールに対して有効な電気技で攻める事が出来る。ルワールの種族であるミロカロスは特防が高い為に致命傷となる事はないだろうが言いダメージ源となる。
「“守る”」
ルワールはその攻撃をただ機械的に自分の周りに緑色のシールドを発生させることで防ぐ。だが、この一連の動きの中でレオが何もしない訳ではなかった。
「後ろがお留守だぜ!“螺旋波動”!」
レオはアルビダの攻撃を利用してルワールの隙を作らせた。それからルワールの後ろに回り螺旋構造の波動弾を放つ。その威力は覚醒した事により“守る”をも打ち砕く強力な波動となっていた。
ピキピキ!
“守る”はあえなく崩れ去ってしまいシールドの展開で動きが止まっていたルワールに“螺旋波動”は直撃した。
今は二対一である為にこのような単純な陽動を仕掛けることも可能だった。加えてアルビダはルワールに対してのダメージが大きく見込める。状況だけみれば有利なのは明らかにレオたちなのである。
「……ていた…」
ルワールはこの単純な陽動作戦に引っ掛かったせいか何か小声でぶつぶつ呟いていた。
「なめていたよ。お前たちを……簡単に下せる相手だと思ってたからね」
ルワールはそう言うと表情を一変させてアルビダを見据える。その様子から見てアルビダを狙っていることは明白だった。
レオはすぐに気付きアルビダの元へと走る。アルビダはルワールが喋っている間に攻撃を仕掛けに行ったようでその事に気づいてない。我武者羅にルワールに突っ込んでいった。
「待て、アルビダ!まだ勝負を決める時じゃねぇ!」
レオはルワールに攻撃を仕掛けようとするアルビダを見かねてそう叫ぶ。これで二度目だ、レオはそう思いながらアルビダのカバーへと向かう。
「“冷凍ビーム”!」
だが、時既に遅し。ルワールはレオより先手を取っておりアルビダに冷気のこもったビームを容赦なくアルビダにぶつける。“短期は損気”というのはこういう事を言うのかアルビダは下半身に“冷凍ビーム”が直撃してしまった。
アルビダの下半身は徐々に凍り始め、本体を苦しめていった。終いには全身が凍る事は避けれても下半身は完全に使いものにならなくなった。これによりアルビダは走るどころか歩くことすらままならなくなってしまったのである。
「言わんこっちゃねぇ!」
レオはその結末を呆れながら見ており、救援に急ぐ。このままでは間違いなくアルビダが倒される。それだけでなくひどい場合は……、考えたくはなかった。
「窒息するがいい!“波乗り”!」
ルワールはアルビダ付近で先程より巨大な波を発生させる。その波はアルビダを呑み込めレオに接近していった。
今、巨大な波にアルビダが飲み込まれており早く救出しなければならない。だが、今度はさすがに格の違いが大き過ぎた。最初の様に“空波動”で分断させる事は叶わず、下手に攻撃してもアルビダに当たる可能性がある。
レオはひとまず目を瞑り波動を使ってアルビダの居場所を探る。意識を集中させ波に対して探知を行うと、アルビダは見事に波の中で動きが止まっていた。息苦しいのか波動は不安定で危ない状況だった。
「くそぉぉ!」
レオはやけくそになったのかアルビダの居る方向へ“空波動”を放つ。その衝撃はは正確に彼女に当たり巨大な波から脱出させる事が出来た。
だが自分はどうするのかー、レオはそんなことなど考えてはいなかった。ただアルビダを助けるために自らが危険な道を選んだ。
「……後は頼むぜ、アルビダ」
レオは仕方がないといわんばかりにそう呟くと目を瞑る。それからすぐさま巨大な波がレオを呑み込みレオを壁に叩きつけるかのように流し込んだ。
ゴンッ!
鈍い音が静かになった。その衝撃と水中に居ることでの苦しさが重なりレオは静かに意識を止める。
「……これで仕上げだ」
ルワールはそれを見てニヤッと笑うと部屋の上から大量の水が流れ込んできた。これは彼が事前に用意していたものでさらに窒息死しやすいようにするためのものだ。
これで勝ち誇ったかのような表情をするルワールに予想外の事が起こる。
「だまれ!あんたが死になさいよ!」
その声はルワールが予想だにしなかった声主によるものだった。そして急に巨大な電撃が放たれた。それは先程のような電撃とはわけが違った。当たったら大ダメージは避けられない、いや危ないのだ。
「なっ!ま、まもっ……」
ルワールは急いで自分の身を守ろうと技を発動させようとするが完全に遅れてしまったので技の展開は間に合わなかった。
「がっ!あああああああああああああああああああああああああ!!!」
思わぬ不意打ちを喰らってしまったルワールはこれまでとは比べ物にならない悲鳴を上げる。
「…ハァ、貴様ああああ!」
ルワールは苦しそうにしながらも先程の攻撃を浴びせたものに美しい鱗を台無しにするような表情で睨みつける。
「だまりなさい、あんたは必ず私が沈める」
そう言って黄色いオーラを纏ったピカチュウー、アルビダはルワールをにらみ返す。それに臆することなくルワールは今にもくってかかりそうな戦闘態勢を再びとる。
自分の不注意で招いたこの事態にアルビダは酷く恥じていた。足をひっぱた、それだけが気がかりでならなかった。
しかし、今は悔いている場合ではないのだ。部屋の上から水が流れてきておりこの部屋は暫くしたら水で満たされる。そうなると助かるのは水タイプのルワールだけである。レオとアルビダはそのまま窒息死である。おまけにレオは気絶しておりここから自力で逃げ出すのは暫くは無理である。
つまり、アルビダが今ここで早急にルワールを倒す必要があるのだ。
この事が分かり急に緊張感を覚えるアルビダはとっさに首を横に振り、余計な緊張感は振り切った。今ここで私がやらなきゃだれがやるのかー、そう自分に言い聞かせる。
「小娘ぇ!覚悟は良いだろうな!」
ルワールはそう言ってアルビダへと向かう。
「望むところよ!」
水晶が覚醒しフルパワーのアルビダもそれに対抗するようにルワールの元へ向かう。
(レオ!あなたが助けてくれたこの恩はすぐに返す!)
アルビダは心でそう誓って頬の電気袋に電気をためる―――。