part6
「辻斬り!」
「瓦割!」
ムラサメは自身の刃をイナズマに向けて切りつける。それに対してイナズマはムラサメに対して一番の有効打である"瓦割"を放つ。それを見たムラサメは"辻斬り"は諦め避ける事に専念する。そのおかげかムラサメにイナズマの拳がかすることすらなかった。
「意外とこの勝負は搦め手が多いみたいね」
マロンは今の一連の出来事を見てそう呟く。それに対して「搦め手?」とテンコが尋ねる。マロンの推論を聞いた皆は一斉に視線をマロンに集める。唯一理解したアムネジアは戦いを集中してみていた。
「イナズマさんの"瓦割"がある限りムラサメは攻撃できないってことか?」
レオはマロンの言う搦め手の推測をマロンにぶつける。マロンは「えぇ」と言って頷く。それを聞いた皆は成程と言いたげな表情をしていた。簡単に言うと、イナズマが攻勢に出れていて若干有利であるという事だ。
「ですが、相手は"六皇"の一人。突破する手段が無いとは限りません」
クレメンスはイナズマが完全に有利ではないといった旨の発言をする。彼の言うとおり、相手は相当な実力者。しかも、元はイナズマの仲間。彼の戦い方を熟知していてもおかしくはない。それはつまり、ムラサメにはこのような状況であっても起死回生の一手がある可能性を示す。
「十万ボルト!」
イナズマはムラサメから距離をとり電撃を放つ。接近戦では埒が明かない事を彼は理解したのだろう。しかし、その考えがかえって彼を危険に陥れる。
「!…来たな」
ムラサメはこの行動に待ってましたとい言わんばかりな事を口走る。ムラサメはそれから一気に"十万ボルト"に突っ込んでいった。まさかの行動にムラサメ以外の全員が驚く。
「な、なに!?」
イナズマはこの行動にもの凄く驚いたのかその場から動く事はなく電撃を放ち続ける。ムラサメはそれでも徐々に前進してきていた。
バシュッ!
電撃が完全にムラサメに突破されてムラサメがイナズマの目の前に立つ。
「……、メタルバースト!」
ムラサメは完全に棒立ちしているイナズマの目の前で自身のダメージに比例してダメージを与える技、メタルバーストを放つ。完全に出ばなをくじかれたイナズマはメタルバーストをもろに食らって吹き飛ぶ
「こういう一手があったでござるか……」
ムサシは吹き飛ぶイナズマを見て呟く。肉を切らせて骨を断つ戦法。彼にはそれがよく分かっていた。苦しいものであり、状況は選ぶが有効なものであるという事を。 しかし、これは悠長にしている場合ではない事態である。アルビダは水晶を奪い返しに行ったせいで気づいていない。レオ達も助ける事が出来ない。絶体絶命である。
「これでお別れだ、イナズマ……」
☆ (アルビダサイド)
ガキンッ!
ガキンッ!
「あぁ!もう!!壊れないわね!!!」
アルビダはただ一人水晶を取り戻すために奮闘中であった。"黄色の水晶"はガラスのようなもので固いガードに包まれており、アルビダの攻撃を通さずにいた。
「ぜぇはぁ、一体全体どうなってんのよ!父さんが乱入するわ、それからすぐに水晶の主になれとか…」
アルビダは息を切らしながら愚痴をこぼす。それからすぐになんでこの旅に着いてきたのかを思い出す。ある日、自分とレオの住むデルト村の村長のリューから命じられた旅からだ。あの時はなぜ、レオだけでなく自分が行くのかは分からなかった。今になって分かったのだ。"私は既に水晶の主だったのだ"、と。
今も自分の父は戦っている。ここで休んではならない、今すぐにでも動かなきゃいけない。
「ぜっっっっったいになってやる!!」
アルビダはそう言うと早速カバーを壊しにかかる。待っている自分の父や仲間の為にもここで踏ん張る必要がある。
―よく言ったね。君は合格だ。
不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。つい最近聞いた声だ。この闘いの根源ともいえる存在だ。何故、今のタイミングで話しかけてくるのかがアルビダには分からなかった。
「合格?一体何の事よ」
アルビダはその声に向かって話しかける。実体もなく、幻影が見えるわけではない。声に話しかける。
―君を今度こそ認めるんだよ、水晶の主にね。
"あの声"はアルビダの問いに答える形でそう言った。それからすぐ後にカバーが剥がれ水晶がアルビダのもとに向かってきた。
「始めからやりなさいよ、それ」
アルビダはそう言いながら、迫ってくる水晶を両手の上に乗せる。これにより水晶の主は全員そろった。
―早く行くんだ、君のお父さんが待っているよ。
水晶を受け取ったアルビダに対してせかすように呟く。彼の言う事はもっともだ。
アルビダはそれから無言で走り続ける。自分の父、自分の仲間を守る為にただ果たすらに走る。息が切れそうでも走った。
息切れしそうでも走り続けたのが功を奏し、父のいる場所へと早く戻れた。早く決着をつけよう、アルビダはそう考えていた。
しかし、真っ先に見えたのは自分の父―――、イナズマがぼろぼろで倒れている光景であった。ムラサメもボロボロであるが立っており、イナズマに止めを刺そうとしていた。
「させるかぁ!!」 アルビダは注意を引く為に技と大きく叫び自分の手に電気を集める。それからすぐさまその電気は槍状へと変化する。
「"雷槍"」
アルビダは以前よりも早くこの技を生成し、尚且つ威力を底上げしていた。当たれば勝ちである。実際は牽制用に放ってはいるが。
ムラサメはいけなりの電気の槍に対して完全に避けきる事は出来なった。これが大きな一撃だったのかムラサメはゆっくりと倒れる。
残ったエネルギーはそのまま前進し壁に激突する。そのエネルギーは壁に当たるとその壁には綺麗な穴が出来た。それから察するに切れ味は半端ではない。
「私もこれで水晶の主だよ」
アルビダはそう言ってニッコリと笑った。