part5
「貴様…」
ムラサメは颯爽と現れたイナズマを睨みつける。レオ達にとっては、アルビダだけでは不安があるがこれで勝ち目が見えてきた、といったこの状況。両者に沈黙が走る。
「この檻は切らせて貰おう」
最初に沈黙を破ったのはアムネジアだった。彼は剣を抜き、檻を切ろうとする。もっとポケモンらしい突破法は無いのか、とレオは心の中でツッコむ。
ジャラララ!
不意に鎖がどこからともなく現れ、アムネジアを縛りつけた。ついでにと言わんばかりに鎖はレオ達にも縛られる。
「どどど、どういうことでござる!?」
「ここまで綺麗にやられたんだし、始めからこうするつもりだったのかしらね…」
ムサシは突然の拘束に癖なのか必要以上に驚いていた。それに対しては落ち着いた感じで状況を考えていたのはマロンだ。
「皆、この鎖"マーキングテレポート"が施されてる…」
テンコは鎖に縛りつけられながら鎖に記された"マーキングテレポート"を見抜く。"マーキングテレポート"は簡単に言えば同じマーキングされた場所にテレポートするもの。つまりは奴らはある場所にレオ達を送り込みたいのだろう。
「完全に向こうのペースですね…」
物腰和らげにクレメンスが呟く。その表情は堅く、苦しいものだった。鎖は完全にクレメンスを縛りきっている。他の皆も言うまでもない。
「打つ手無しだな…、すまないアルビダ」
レオはさぞかし悔しいのか、表情が浮かばれない。まんまと罠に皆で掛かってしまったことを恥じているようにも見て取れた。
「レオ、大丈夫。私達が絶対に勝ってみせるから!!」
アルビダはレオを安心させようと精一杯の声で虚勢を張る。あくまで自分は足手まといと戦う前から気づいていた。
「アルビダ、お前は水晶を解放しろ…。そして、お前が…」
イナズマはレオを元気づけようとするアルビダに水晶の解放を命じる。その後の文で此処に居る皆は驚きを隠せなかった。
「……水晶の主になるんだ…」
イナズマが言った言葉はあまりにも衝撃的であった。レオ達も言葉を失ってしまう。だが、事情をよく知りある程度戦闘力はあるアルビダがなる事はむしろいいことである。
「ふん、そんな事どうでもいい。俺は貴様と決着をつけるだけだ」
ムラサメは驚いてはいたがすぐに冷静になり、闘志をイナズマに向ける。要は止める気など毛頭ない、と宣言したのある。「職務放棄じゃないですか……」とクレメンスが言う。その後に「全くでござる」とムサシが言ったのを、お前が言うなとマロンに突っ込まれる。
「助かるねぇ、俺もお前と本気で決着をつけたかったしな」
その瞬間、イナズマは頬の電気袋から電気を生みだしムラサメに攻撃を仕掛ける。
☆
―――、所変わって南国の"水晶遺跡"
「思ったより簡単に制圧出来たな」
体全体が黄色基調で背中にはコンセントの差し込み口ような模様があるポケモン、エレキブルのボルト。彼の横にはボロボロとなったライコウが倒れていた。
「ほぉ、よく言うじゃねぇか。意外とボロボロなくせによぉ…」
黒基調で背中には黒い羽、両手は顔があって浮いているポケモン、サザンドラのアドルフ。彼はそう言いながら自分の下で倒れている猛々しかったエンティを見た。その後即座に「さすがに強かった」とボソッと呟く。
「貴様等、ルーツ様とフリーズ様に見られたら叱られるぞ」
軽い口喧嘩になりそうと思われたのか仲裁が入ってきた。その仲裁は両手にスプーンを持つポケモン、フ―ディンのウィル。彼はサイコキネシスでスイクンを運んで来ていた。その横にはミロカロスの体を持つルワールが居た。
「儀式はここでしか行えん、これで我らの願いがかなう」
ミロカロスの体を持つ男、ルワールはフフフと笑いながら嬉しそうに述べる。ルワールの言う"我らの願い"と言う物は、この世界を自分たちの思い通りに創り直すことである。
彼らは絶望していたのだ。
一人は幼いころに盗みを働いていくことでしか生きていけない世の中に。
一人は父を水晶の主に殺された事。
一人は殺しの快感を覚えてしまい、歯止めが利かなくなった自分に。
一人は自分の家族を神が生贄に選択し、世界を混沌に音しめた無能な神に。
「我らはロクデナシしかいない。殺人鬼がほとんどではないか」
「全くだ」
ルワールが冗談交じりに言った事をボルトが笑って返す。ウィルはそれを聞いて黙秘を決め込む。アドルフは何かを思い出しているような感じで顔を空に向けていた。
「あぁ、私が殺しに快感を味わうのもこれで最後であろう」
ウィルはそう言いながら、思い出していた。自分はムサシ、マロンの両方の家族を殺し、実はアドルフの父を殺す事に手を貸していた。この中で自分は一番のロクデナシであると改めて実感していた。
「これで全てを最後にしよう。ムラサメがうまくやってくれると信じてな…」
アドルフは空を見上げながらそう言った。彼は自分達にはもう不要なアジトで作戦の遂行のために動く仲間に祈りをささげる。そのアドルフの様子を見てルワール達も空を見上げ祈っていた。
「終戦の時は近いな…」
ボルトは空を見上げながら自分の過去を振り返る。思い返せばマシな事が無い。自分は新しい世界でやり直したい。たとえそれがさらなる重罪を犯す事でも、彼はやるつもりだった。
「あとは我々が小僧どもを殺して水晶を奪うだけだ」
ルワールはそう言ってその場から離れていく。ある作戦の為に特定の位置に行かなくてはいけないからだ。
四人はそれぞれ、思い直したところで自分に課せられた使命の為に動き出した。
―――、全ては自分たちの理想の為……。