part4
「貴様らから先に葬らせてもらおう」
キュレムの体を乗っ取った人間、フリーズはバーン達を睨みつけそう言う。それからすぐに辺りが冷気が放出される。戦闘態勢は万全である。
フリーズの出す冷気は氷タイプであるクロ―、炎タイプであるバーンには効果はない。水、飛行タイプのジャネールもちょっと肌寒いくらい。しかし、明らかに被害を受けるポケモンが居る。それは敵のボスである、ギラティナの体を奪ったルーツと草タイプのモリである。ルーツはどうってことないといった表情で耐えているが、モリはやはりきつい。彼の自慢のスピードが落ちる原因となりかねない。
「クロー、モリ。お前達はルーツと戦え、俺とジャネールはフリーズを倒す」
"leading"幹部のリーダーであるバーンはその状況を見て冷静に指示を出す。今は恐らくそれが一番得策だろう。クローは悪氷タイプなので相性的には完全に有利、モリは自慢の速さから翻弄がしやすいだろう。相性的にもルーツの相手をする方が妥当である。そして、消去法でフリーズを相手にするのはバーンとジャネールである。
「こいつらで"第八の水晶"を試させて貰うか……」
ルーツはもはや勝利は確信しているようで今目の前に居るバーン達を"第八の水晶"の力を試す為のサンドバックにしか見ていない。その隣でフリーズは冷気を完全に辺りに漂わせた。
「行くぞ!」
「「「おう!」」」 バーンの号令と同時にクロ―、ジャネール、モリは一気に予定通りの相手に突っ込む。まずは様子見と言わんばかりにモリがルーツに対して剣を抜き切りかかる。その速さは並みのジュカインとは比べ物にはならないものでルーツはその斬撃に少し当たる。その切り口からは少しだけ血が流れ、それはモリが本気で切りに来た事を暗に示していた。それから追撃と言わんばかりにクローが拳に冷気を込めてルーツに近づく。モリの方に気を取られルーツは完全にクローの事を忘れていた。
「その体は飾りかい?」
クローは挑発するかのように冷凍パンチをルーツに繰り出す。ルーツはクローの挑発を気にも留めずにシャドークローで反撃する。冷凍パンチとシャドークローがぶつかり力勝負が始まる。技のぶつかり合いでもタイプ相性は多少からんでくる。氷とゴーストがぶつかったので今回は関係ない。
しかし、ルーツはゴーストタイプであるが同時にドラゴンタイプでもある。ドラゴンタイプは氷に弱い。その結果少しだけクローが押していた。
「貴様が"第八の水晶"の力を使う前に倒す!」
モリは技のぶつかり合いの最中に剣をしまい、藍色の波動、"竜の波動"を作っていた。ドラゴンタイプの技はドラゴンタイプに対して効果は抜群。つまりモリの持つ有効打である。
竜の波動はクローを相手にしているルーツに迫り、確実に当たる。そうモリは計算して攻撃を放った。その計算は一気に狂う事になった。
ブゥゥン!
あっという間にルーツが消えてしまったのだ。クローとモリはいきなりの事に驚きを隠せずしばし動きを止める。その隙をルーツが狙っているのに一瞬気付かずに―――。
ゴォォン!
「ぐぅあ!…一体どういう事だ!?何故……、上から…?」
油断した一瞬を狙いルーツは厄介であるモリの真上をとり、一気に急降下した。モリには当然何が起こったのかは分からなかった。気がついたらルーツに身体を押し潰されていた、ただそれだけである。
「"シャドーダイブ"……、ギラティナ様だけが使用できる技…」
クローはこの技に覚えがあるのかそう呟く。彼は神に仕える身である為か伝説のポケモンとも一般のポケモンよりかは接点はある。そのおかげで少しだけ知っているのだ。
「ご名答、さてこれでこのジュカインは戦闘不能だ。骨をいくつか折ってやったしな」
ルーツはニヤリと笑みを浮かべながら淡々と説明する。クローはチラッとモリの方を見るとモリは仰向けに倒れ血を吐いている。普段見ないモリの様にクローは気を引き締める。
それを見たバーン達はチッ、と舌打ちをしフリーズとの戦闘に向かう。そして、ルーツは今までの一連から考えて余裕だと考え調子に乗った発言をする。
「これだと……、"第八の水晶"を試す前に終わりそうだな…」
☆ (レオサイド)
今、レオ達はアジトの通路を七匹と言う小人数と見るか大人数と見るか微妙な数で進軍している。
「クロー達に先に行かせてもらったのは良いものの、水晶が何処にあるのか分かんないじゃ意味無いじゃない!」
アルビダは先の見えない今にイライラしてかそう言い放つ。アルビダの言い分はごもっともで現在は水晶が何処にあるか分からずに迷走している。
「アユム……、場所を教えてくれないか?分かるんじゃねぇの?」
先頭を走るリオル、レオは蒼の水晶に語りかける。彼の水晶だけに眠る精神、この闘いの中心に居るアユムに呼び掛ける。
〈大丈夫、此処をまっすぐに突っ切れば辿り着くよ〉
アユムは呑気にレオに答えて黙る。その声は他の皆にも聞こえてきた様で自然と皆の足は早くなっていった。
「あれから、私…アユムっていう人間の声聞こえるのよね……」
「幻聴かしら?」
テンコ、マロンは確かに聞こえたと言って疑問に持つ。それから他の皆も聞こえると声をそろえる。一回姿を見せて会話したせいか皆に聞こえるようだ。レオはそれを聞いて早い内にやっておけばよかったのでは?と疑問を持つ。
「見るでござる!ここから先に明かりが見えるでござる!」
「…と言う事は、あの部屋の先に"黄の水晶"があるんですね。……、どんな罠があるでしょうか…」
ムサシは目の前の光に気づき、皆に呼び掛ける。クレメンスはこの先にある事について考えているようだった。クレメンスの言うように罠の可能性は極めて高い。ここで一網打尽にする気かもしれない。
だが、今はここで力を手に入れるしかない。"Samsara"に勝つためにも必要となるだろうから。
そして、レオ達は光が差してきた部屋へ入る。罠の事を考えずに一気にだ。
「まさか、簡単に引っ掛かるとは……」
その部屋ではそんなレオ達を見て呆れているキリキザン、ムラサメが立っていた。ムラサメは以前、レオとアルビダがアルビダの父、イナズマに出会ったときにイナズマと少しだけ戦いそうな雰囲気になったキリキザンである。
ガチャン!
レオ達の上の方からなにか仕掛けが動いたような音がし、レオ達は一斉に上を見る。幅広い鉄の牢屋なるものが降ってきていた。それももの凄い速さでだ。このままでは簡単につかまってしまう。
「仕方ない……、すまないアルビダ」
レオはそう言って、今一番近くに居るアルビダの背中を触り"空波動"で吹き飛ばす。戦えるのがレオ、ムサシ、クレメンス、アムネジアの誰かだったらよかったかもしれないが運悪く今はアルビダしか届く可能性はない。残りの三人は完全に最後列なのだ。
「え……、えぇ〜!?」 アルビダは当然驚き、仕方なく受け身をとりダメージを抑えた。一番有利に戦えるレオではなく自分なのか、と凄く文句をアルビダは言いたかった。ここでガシャンと音を立てて仕掛け牢屋が完成する。綺麗にレオ達は捕まってしまった。
「ほう、お前は確かイナズマの娘…。お前が相手になるか」
ムラサメはアルビダを見て戦闘態勢に入る。明らかにやる気満々である。
「んもう!!こうなったらやってやるわよ!」 アルビダはそれを見て焼けになったのかほっぺから電気を出して威嚇する。あまりムラサメには効果はない。
しかし、ここでアルビダに思わぬ救世主が現れる。
ドガンッ! 急に大きな音を立てて壁が爆発したのだ。その光景にその場に居る全員が動きを完全に止める。爆発して部屋には煙が立ち込め、視界が悪くなる。
その煙の中電撃が正確にムラサメを狙って放たれた。不意な一撃にムラサメは驚き完全に避ける事は出来ずかすめてしまう。
「いや〜、やっぱ爆弾は良いねぇ〜。面倒な事を吹き飛ばせる」
呑気にバカなことを言って煙の中現れたのはアルビダとムラサメが特に覚えている奴だった。
「お父さん!」
「イナズマ!」
現れたのはアルビダの父、ライチュウのイナズマである―――。