part3
"北国"の"Samsara"のアジトでは―――、
「ルワール、ウィル、ボルト、アドルフ、フリーズ。お前達は"水晶遺跡"を襲撃せよ。ムラサメ、私はアジトを守る」
「「「「了解、ルーツ様」」」」
"Samsara"の六皇の四人が忠誠を誓う者、ルーツと呼ばれる者は"Samsara"のボス。言わば黒幕と呼べる存在。残りの二人は沈黙を貫いていた。その内の一人であるフリーズはルーツとは部下と上司としての関係ではなく実質的には対等の立場だった。何故なら彼とルーツはルワールと同じ志を持つ人間。ポケモンの身体を乗っ取れる人間である。
六皇の四人が目的の場所に向かうと、ムラサメは黙って決められていた場所へ行った。それを見計らってフリーズはルーツに話しかける。
「ルーツ、乗っ取ったギラティナの体はどうだ?こっちはもう万全だ」
フリーズは自分の仲間であるルーツに調子を尋ねる。ルーツは今ギラティナの体を乗っ取っており、そこらのポケモンとはケタ違いの力を手にしている。
「フリーズ、お前こそキュレムの体をうまく扱えるんだろうな?」
「おいおい、さっき言ったばっかりじゃないか。万全だとよ……、俺等は絶対にあの腐れきった神への復讐を誓った仲だぜ」
ルーツはフリーズに問い返すが、フリーズはけらけらと笑いながら答え、言っている内容が冗談にもほどがあるものだが彼等は本気で言っていた。ルーツは「そうだな」と言ってフリーズに背を向ける。
「それより今はな……フリーズ」
「ん?」
「配置に付け」
ルーツのこの一言にフリーズは「あ…いっけね」と言って急いで自分の配置へと向かった。
「まったく、ドジにも程があり過ぎるぞ。もう既に奴らは来ているのに……」
ルーツはそう言って部屋にある大画面に目を移す。その画面には11人と多めに映っていた。その11名の内4名は"現・導きの六柱"。残り7名は……。
「水晶の主とイナズマの娘だったかな……。"黄色の水晶"を狙ってきただろうが、あの部屋はムラサメが守っている。私とフリーズで多く殲滅すればいい」
ルーツはそう言ってゆっくりと自分の配置にへと向かう。殆どの戦力は"水晶遺跡"に向かったがさほど問題ではない、とルーツは戦力に関しては特に気に留めていない。
「覚悟するがいい、貴様等の水晶はここで纏めて手に入れてやる」
ルーツはそう言った後に部屋から去っていった。
☆ (レオサイド)
「俺達は今、"Samsara"のアジトにいるが……可笑しくないか?」
俺達は奴らのアジトを走り回りながら探索を続けていて俺は疑問を抱く。
「思った以上に敵が少ないこと?」
「あぁ」
俺が思っていた事に気づいたアルビダは「なるほど」と言った。
今まで物量作戦で俺達に襲ってきた奴らがその作戦を用いない。アジトなら尚更用いるべきである作戦の筈だ。どこかに大部屋があってそこに誘い込む気なのかもしれない。
「どういうつもりだろうと戦わなくちゃね」
ここでクローが相変わらず呑気そうに答える。実は今、クロー、ジャネール、バーンさんがこの場にいるのだ。俺達がまた船を使って"北国"に向かっていたら乗り込んでいたのだ。モリが呼んでいたらしい。
「まさか、奴ら……もう戦力の殆どを"水晶遺跡"に回したのか?」
「かもな、あそこから先に制圧する気何だろう。だが、それはこちらも同じ」
ジャネールとバーンさんが何やら意味深な会話をしていた。"水晶遺跡"には何か他に特別な意味があるのだろうか?"第八の水晶"の存在など隠し事が多すぎる。
アルセウスが意図して行っているのだろうか、事実を隠蔽したいのではないか、俺はそんな風に思えてしまう。自らの罪を隠すために……。もし本当にそうなら奴らから反感を買うのは当然。奴らも同じ様な事をやっているから同情はしないが。
「それより……、前を見るでござる」
ムサシがそんな話に全く気にとめていないのか、どうでも良いといった態度だった。ムサシの言ったとおりに前を見ると大部屋に繋がっていた。
罠があると見るだけで分かりそうなくらい、怪しい。下手に突っ込むのは得策ではないだろう。
「「よし、行くぞ」」
しかし、クローとアルビダは俺のそんな考えを無視して突っ込んでいった。可笑しいだろ、ここに来てふざけるなよ。
「「もう知らん」」 モリとアムネジアが呆れながらその光景を見ていた。呆れてないで止めろよ!!
「何も知らない、何も知らない、何も……」
ジャネール、お前もか。
「敢えて止めてみないで様子を見よう」
バーンさんは笑ってそう言った。確かに良いかもしれないが慎重に行くという考えはないのか。
結局、俺達は大部屋に入り辺りを見渡していた。
「案外何も無かったわね」
「そうみたい」
マロンさんとテンコは仕掛けといったものが無いことに安堵していた。
拍子抜けだ、本当にアジトには戦力が殆どいないかもしれない。となると、今回の襲撃はとんだ無駄骨だ。
「果たしてそうかな?」「誰だ!」
クレメンスは正体不明の声に声を荒げる。ただならぬ威圧感を感じる。
「お初にお目にかかる水晶の主達」
今度はさっきとは違う声が聞こえてきた。
ズン…、ズン…!
何やら巨体のポケモンが近づいているのか足音が響く。クロー達が言っていたが奴らは伝説のポケモン二体の身体を乗っ取っているらしい。もしや……、
「こりゃあ、マズいな」
バーンさんは俺と同じ事に気づいたのか冷や汗をかいていた。
「君達は先に進んで今ここに束になっても奴らの内一人も倒せない。それよりも今は奴らから"黄色の水晶"を取り返し神と同等な力を手に入れるんだ」
「おい待てよ!それじゃあお前達が……。犠牲になるつもりか!?いくら何でもここにいる全員で立ち向かえば勝てる筈だ」
クローのいった内容を俺は信じられなかった。だから俺は反論する。さすがに敵を強く見積もりすぎだと。
「今、奴らの手に"第八の水晶"があるんだ。その力に今の戦力じゃ勝てない」
バーンさんはそう言って俺達を後押しするかの様に笑っていた。
「……行くぞ、早く」
アムネジアは非常な事を言って次の場所に行こうとする。
「分かったでござる。拙者は必ず目的を達成させるでござる」
ムサシもただ従い、目的の為に動く。彼なりの礼儀なのだろう。敬意を込めている。
「……分かった、絶対に死ぬなよ」
俺は意を決しそう言ってアムネジア達を追う。それに残りの四人もついていく。
「頼むぞ」
モリはただそれだけを告げて戦闘態勢に入る。もう何も語る気は無いらしい。
「レオ、次にあったら俺と本気で勝負だ!」
ジャネールは以前戦った事がある。あの時は本気じゃなかったジャネールは再戦の意志を告げる。
「あぁ!またやろう」
俺はその意志を汲み取り全力でかける。
絶対に生きて帰ってこいよ!
俺は心の中でそう思いながらクロー達を見ないように走り、その場から一気に離れていく。
「レオ……」
アルビダはそんな俺を見て心配そうな表情をしていた。
心配させちゃいけないな……。何度も思ったはずなのに。