part2
「アルセウスに復讐?」
アユムの発言に疑問を投げかけたのは、俺だった。他の皆も同じ疑問を抱えるだろう。この世界を創造した神に復讐すると言うことは世界を敵に回すとほぼ同義であるような気がしてならない。余程の理由がないとこれは有り得ない。
その余程の理由というのに、俺は一応心辺りはある。前回のルワールと戦ったときにアルセウスを"罪深き神"と言ったのだ。この言葉が間違い無く、奴らの動機に繋がっている。
『アルセウスは僕を水晶に封印する時にある生命体を"生け贄"に捧げた。ここまで言えば、その生命体は分かるよね』
アユムは皆の疑問に答える形で話し出した。最後の一言で大体察する事が出来た。
「人間が生け贄に使われたのね……」
マロンさんはアユムの伝えたいことが分かっているようだ。憎しみの根源はこの世界の神なんだ。世界を束ねる存在が生け贄を使い暴挙に出た、と見られても可笑しくないかも知れない。
『正解だ。しかも、その人間は罪の無い者も多くいた。その中に彼らの家族もいたかもしれない』
アユムは残念な表情をしながら話していた。自分が神になってしまった事が原因で起きた惨劇をアユムは見ていたのだろう。
もしかしたら、暴走したときに感じる狂気はその時の生け贄の魂そのものかもしれない。元は一部の人間が神の力を手に入れる為にやったことが神の怒りに触れたのだ。だが、その怒りの矛先は罪の無い者まで巻き込むものだった、ということなのだろう。
「どちらが悪いのかなんて分からないよ……」
アルビダは話を聞いてそう呟く。話だけを聞けばそうだが、奴らも同じ事をしている。水晶の主を目覚めさせる為に俺達の家族を殺したのは奴らだ。苦しみを分かっていながら、やっていることはアルセウスと同じだ。奴らの野望を止めるべきなのに変わりはない。
「結局、憎しみが根強く残っているのでござるな」
ムサシが言った内容は的を突いているように思えた。この戦いは"憎しみ"が根強く染み着いている。このままでは互いに汚れ、壊していくだけだ。アユムが欠番以外が揃っているときに話すのはこのことを理解して欲しいからだろう。俺に何度も同じ事を言っていたのだ。今なら意味がよく分かる。
「憎まれる側こそ分からなきゃいけない事なのにな……」
アムネジアは何か思い当たりがあるのか、自分なりの答えを導き出していた。アムネジアには何か悲惨な過去があるのだろうか……?
「私は大切な弟が殺され泣いていた……。奴らの気持ちも分からなくはない」
テンコは優しいのか同情の意を述べていた。憎んでいるが気持ちは分かっているつもり何だろう。
「僕が暴走する直前……、どす黒い何かが僕に"敵を殺せ"と語ってきていた。……だから、その話は信じるよ」
この中で唯一、暴走したことがあるクレメンスはアユムの話を自分の経験から信じると言った。その言い分に説得力は何となく感じた。あの悪魔のような暴走はもうあってはならない。
『あと、最後に僕が復活するのに必要な物は"7つの水晶"だけじゃないんだ。水晶の中の僕を復活させるのに第八の水晶"seal"がいる……』
アユムは最後の説明を加える。内容はぶっ飛び過ぎて何が何だか分からない。取り敢えず、"7つの水晶"が全部奪われたからってアユムは復活しないことは分かった。案外、保険が掛けられているものだ。
『まぁ、奴らに奪われてるけどね』
ダメだこりゃ……。負けられない戦いなのに変わりはないが、以外と絶望的な状況じゃないか。下手に失敗すれば世界が無くなるとかマジで勘弁。
『でも、もし復活しても"7つの水晶"の力を一つに纏めたら神を殺す力が発揮されるよ。一回だけだけどね』
「割と希望はあるのだな」
アユムは少し萎えた俺を宥めるために希望は幾らでもあると伝えたかったのだろう。因みに反応したのはハンさんだ。
そして、アユムが言い終えた後に若干点滅し始めていた。もう限界が来たのだろうか……。
「アユム、俺達は奴らに水晶を渡してはいけない事は分かった。でも、お前俺達が勝ってもずっと水晶に閉じこもる気か?奴らを倒した後に出ても問題ない筈だ」
俺は消えかけているアユムに気になっている事を尋ねた。本当にこのまま勝ってもアユムが水晶からでなければアユムは幸せではない。
『そんな希望はあり得ない。僕は死ぬか水晶に閉じこもる以外に選択は無いよ……。下手に復活するとこの世界が未曽有に危機にさらされるし、かと言って出なければ永遠に味わう生き地獄。因みに、奴らを倒した後といえども復活したら僕は力をコントロールできずに世界中に天変地異が起こしかねない』
アユムは長々と自分の置かれた状況を話す。正直言って訳が分からなかった。理不尽、そうとも取れる状況にアユムは苦しんでいる。
『それじゃぁ……、頑張ってね。もう、姿を現す事は無いよ』
涙を流しながらもアユムは俺達に声援を送る。最後の一言でもう姿を見せての会話はもうないものであると告げる。
「あぁ、頑張るさ。だから、お前は安心して水晶の中に居ろ。
俺が絶対に奴らを倒すからな」