part1
「ギヤアァァァァ!!」 何も知らなかった(治療でさえも乱暴である事を)クレメンスはマロンさんに開始早々トラウマを植え付けられた。俺やムサシのように重視されていないため拘束のみだ。
しかし、火に油を注ぐかのように抵抗するクレメンスには鉄槌が下ったのだ。マロンさんが全力で鞭を振り下ろしクレメンスを痛めつけた。それを食らうよりかは拘束された方がマシだと気付いたのか今は拘束を施されている途中だ。
俺とムサシには勿論最高級の拘束が施されている。見張りにアルビダをつけるという徹底ぶりもしてある。意味はないと思うんだが……。
そこにハンさんが現れ、俺達の悲惨な現場を目の当たりにした。これは引いてしまうな、間違い無く。
「楽しそうにしているな、御主ら」
「「「してません」」」 あんたはどういう神経をしてたら楽しく見えるの!?俺達M属性じゃないからね!……さすがに冗談だよな。
「私は昔、拷問官であってな。懐かしく見えたよ。それより、耳寄りな情報がある」
まさかの発言だよ。優しそうな面をしながら拷問でもしていたのだろうか?種族的に力はすごいだろうから苦しいだろうな。ドSだったら危なかったよ。まぁ、耳寄りな情報が気になるな。
「耳寄りな情報って何なんですか?最後の水晶の主の情報ですか?」
アルビダは耳寄りな情報というものが気になり問いかける。この場にいる誰もが思っている疑問をアルビダは代弁する。
「その通りよ」
「とは言っても、水晶だけだけどな」
不意にテンコとアムネジアがハンさんの代わりに答える。言おうとする前に言われたためにハンさんはムッとした表情をする。だが、すぐにいつもの表情に戻りアムネジア達に説明を促す。
「その前に"水晶だけ"って一体どういうことかしら?」
マロンさんはアムネジアが言った些細なキーワードを聞き逃してはおらず、疑問を投げかける。今までは主の情報だけなのに、今回は"水晶だけ"なのは確かに気になる。考えられる事は一つあるが。
「最後の主はまだ目覚めていない。しかも、最後の水晶は"Samsara"に奪われている」
アムネジアはマロンさんの疑問に淡々と答える。なるほど、最後の一文は最悪の内容だ。
「だから、私達はあなた達の治療が済み次第奴らのアジトに"leading"と一緒に乗り込む作戦に参加するつもりよ」
テンコは簡潔に今後の作戦を話す。目的は水晶奪還だろう。なんとも急な報せなんだ。今の実力なら悪い話では無いかも知れないが。
「勿論、危険が伴う。今度は敵のアジトに乗り込むんだ。今までの様にはいかぬ。最悪の場合は死だ。」
ハンさんは忠告をするかのように厳しい現実を突き付ける。間違ってはいない、今までがおかしかったのだ。この中の誰かが戦死しても不思議なことではない。
しかし、それを恐れて挑まない選択肢はほぼ無いに等しい。俺達はもう関わり過ぎているのだ。この戦いに深く入り込んでしまった以上戦う以外に道は無い。
「私は良いわよ。絶対に自分の身は自分で守る」
そんな複雑な雰囲気のなか一番に切りだしたのは水晶の主でもないアルビダだった。本来なら関わる筋合いは無い筈なのに、ここまで付いて来てくれた。糞村長の命令に嫌とも言わず、寧ろノリノリで引き受けてくれた。
「拙者もでござる」
「私もよ」
アルビダを見て勢いに乗ったのかムサシとマロンさんも名乗りを上げる。その時のムサシの姿はたくましく、武士の雰囲気を放つ。マロンさんは……、何だか恐ろしく見えるから考えない事にしよう。
「僕もボルトと決着をつけないといけないからね」
クレメンスは便乗の流れに沿ったのか、名乗りを上げる。覚悟を決めたらしい。前の様に暴走などしないだろう。
「決まりね」
「じゃあ、早速作戦を……」
テンコとアムネジアが俺達の決心を見て作戦について話そうとする。
しかし、思わぬ事で中断させられた。
『水晶の主達、聞こえているかい?レオ君とムサシ君以外は初めまして』
俺の水晶の中に居る精神であるシンドウアユムが話しかけてきた。今回は全部の水晶から声が聞こえてくる。水晶の主で無いアルビダやハンさんまで聞こえているようで辺りを見わたし声の主を探している。
「その声は、あの力を授かった時の……」
ムサシは水晶の主としては完全に覚醒している為なのか声を聞いた事があるらしい。あの各色のオーラを纏った状態までいくと完全に覚醒している証拠なのだろう。俺の時もアユムが話しかけてきたところから間違いない。
「レオ、あんたは知っているのよね?この声の主の正体を明かして頂戴」
マロンさんは突然の出来事に戸惑いを感じながら鞭を取り出している。どうしてだ、いちいち拷問なんかしなくていい。
『ごめんね、姿を現すよ』
アユムはマロンの様子を見ていたのかそう言って、俺の水晶が強く輝きだした。その光はとても美しく蒼かった。
それから徐々に光が収まり、姿が見えてきた。俺は今まで姿を見た事が無いのでドキドキしてきた。そう言えばどんな種族なんだろうか?ポケモンですらないかもしれない。
―――、しかし、現れた姿は俺達の想像をとても遥かに超えていた。
「え、その姿って……たしか……、ア、アア、
アルセウスゥ!?」
アルビダは姿に見覚えがある為に非常に大きな声で驚く。もっともだ、こんなに衝撃を受けたのは初めてだよ。俺が今まで話してたやつがアルセウスだったなんて、思う訳がない。映っているのは半透明であるが……。
『まぁ、驚くのも無理ないよね。でも、同時におかしいと思わないかい?』
アルセウスの姿をしたアユムは、驚く俺達に対して疑問を持たせるような発言をする。他に何がおかしいのだろうか、もうおかし過ぎて分からん。
「お主の本当の姿は本当にアルセウスの姿なのか?」
俺達が気になっていたところに、ハンさんがアユムに尋ねる。その発言でピンと来たのかアムネジアもハッとなっていた。何が分かったんだ、こいつ等は……、まるで意味が分からんぞ!!
『良い事に気がついたね。そう、僕の本当の姿はアルセウスじゃない』
アユムのこの発言はいかにもおかしかった。だったらアルセウスじゃない本当の姿で出てくればいいだけの話だ。コイツは何がしたいんだ?
「お前の正体は……、水晶伝説に出てくるアルセウスのコピーを吸収した人間だな」
……、どういうことだ?アユムが人間!?
『そう、僕の正体は……"第二の創造神"だよ』
アユムは何の躊躇いもなく俺達の正体を告げた。初めから話す気で出てきたから出来る事だろう。
これで分かったのは、アユムはこの世界を作り直すほどの力を持つ完全な神に近い存在であることだ。その力はアユムがアルセウスのコピーを吸収しているから出来ることだ。
しかし、"Samsara"にはルワールの様にポケモンの体を乗っ取れる人間が居る。そいつがその力でアユムの体を乗っ取る事が出来るのなら世界を作り直すことが出来る。
「つまり、お前が復活してしまうと……」
『この世界は終わる。人間の世界も一緒にね』
事が大き過ぎる。それが達成されると俺達は恐らく死ぬ。いや、存在が無かった事にされてしまう。人間をも巻き込んでだ。
『でも、復活しても希望はあるよ。その為の水晶だからね』
アユムは不敵な笑みを浮かべて、さらに俺達を驚きの渦に引き込む事を言い放つ。もし、状況が最悪でも希望はあるらしい。
しかし、他に気になる事がある。それは、最も聞くべき事でもあるかもしれない。俺は浮かんだ疑問をアユムにぶつけることにした。
「その前に一つ聞く。奴らがそんな事をする理由とは何だ?知っているなら教えてくれ」
俺のその一言を聞き、アユムを含めた全員が黙る。特にアユム以外の皆も同じ疑問があったのだろう。
『分かった。奴らの動機を言うよ』
アユムは俺たち全員の視線がアユムに向けられているのに気付き、話す気になった。その後に『言わなきゃやる気が起きないもんね』などと呟く。能天気な性格だな……。
そして、その能天気な奴から話された事はアユムの姿ほどではないが度肝を抜かれそうだった。
『彼らはねぇ、アルセウスに復讐するつもりでやっているんだよ』