part3
「そんな事言わずに早く行かんか」
やっぱり正直な爺さんじゃないな。
「じゃあな」
俺は去り際にそう呟いてアルビダと一緒に村の外に向かって走りだした。
「あやつが覚醒するその日が楽しみじゃのう」
村長は俺達が去った後に誰にも聞こえない程の声で呟く。
★
「来ちゃったね」
アルビダが俺にそう言う。
俺達はつい昨日村長が言い放った言葉によってここに来ることになった。
ここは村の出入り口である木で出来た門。
「俺達の旅はここから始まる。最後にこの村にサヨナラを言わないとな」
俺はアルビダに最後に自分達が住んでいた村へ別れを告げる事を提案した。
アルビダはニッコリと笑い頷いた。
「じゃあ、せ〜のでいくか」
俺はアルビダに笑いながらやり方を伝えた。
「そうね、あと観客がゾロゾロと来たわ」
アルビダは了承して直ぐに村の住人の見送りに気づいた。
「レオ!頑張れよ!!」
「アルビダちゃんも頑張れよ!!」
「2匹が居なくなるなんて寂しいぜ」
「偶には帰ってくるんだよ!!」
住人達から様々な声援が送られてきた。
そうか……、俺達はこれからこの賑やかな村から旅立とうとしてるんだな……。
俺は旅立ちの直前に気づくなんてな。
まだ声援は続いており、賑やかな声が村の出入り口の門の前に響いた。
「アルビダッ!!」
だが、その賑やかな声援も不意に放たれた一言で消えうせる。
目の前に立っていた者は俺もよく知っている。
アルビダの母である。
アルビダの母は娘と似た笑みで現れる。
ちなみにアルビダ母の種族はライチュウである。
「まさか急に旅立つことになるなんてね、あのアホ村長は何を考えてるでしょうね」
オバサン、俺も同じくそう思う。
でも、昨日今日で糞爺の愚痴は充分言って気がすんだのか俺の口から同意の意見は出なかった。
しかも、旅立ちの時にこんなこと言うもんだろうか……。
「レオ君、アルビダをしっかりとリードしてあげてね」
たぶん逆に成ると思うがな。
その言葉を聞いて周りの住人達はなぜか「ヒュー、ヒュー」と吠えている。
どういう心境だ、お前らは……!
「な、なんでそうなるのよっ!!」
アルビダは顔を赤くして怒声を放つ。
アルビダ母はそれを楽しそうに見つめていた。
「夫にも見せてやりたかったけど………」
アルビダ母は悲しそうな表情でそう呟く。
そういえば、アルビダの父さんを俺は見たことがない。
「大丈夫よ、バカ親父はちゃんと見つけてくるから」
アルビダはアルビダ母にそう言って笑顔で振る舞った。
その笑顔は少し苦しそうにしていたがすぐにいつもの笑顔になっていた。
なんか、旅立つ前に気になることが増えるな……。
この水晶やアルビダの父親………。
この旅はそれらの答えをくれるだろうか。
それとも、分からずじまいなのか……。
俺はふと旅立ちの前に考え込んでしまった。
しかし、アルビダは家族の迎えがあるもんだな。
俺には誰一人としていない。
母は俺の卵を産んだ時に死んでしまったらしく、顔を直接見てはいない。
写真で見たことがあるがごく普通の雌のルカリオにしか見えなかった。
父さんは……、もう思い出したくない。
あの悪夢はもう考えたくない。
もう……、なにも……。
―お前は目を逸らすのか?
いきなり、聞き覚えのある懐かしい声が俺の頭に響く。
「誰だ……」
俺は小声で呟き、謎の声について考える。
俺の呟きは住人がまた騒ぎ出したことで誰にも聞こえはしてはいなかった。
だが、たたみかけるかのようにまた声が響きだした。
―お前はこの旅で知ることになるぞ、お前の内に眠る巨大な心の闇を……。
謎の声はまた俺に話しかけてきた。
なんだ、俺の心の闇って……。
俺はその“心の闇”に少しどころか大きな不安を抱く。
でも、気になる声がするが今は気にしてはいられない。
せっかく村の皆からの出迎えがあるのに謎の声で害されたらたまったもんじゃない。
「それより、早く行かないと」
アルビダは村の皆に外に出る意思を伝える。
それを聞いた住人達は急に静まり返って、俺とアルビダを見る。
これでやっと俺達は旅立つことになる。
「じゃぁ、アルビダ打ち合わせどうりにやるか!」
「そう……ね!」
俺は最初に言ったあのやり方で出ることをアルビダに伝えた。
何人かの住人達は何をするのかを悟り、待っていた。
反対に分かってない住人は「何するんだ?」とぼやいている。
「じゃぁ、行くよ」
「分かった」
何でだろうな、ここまで来るのに大分かかった気がする。
さて、準備はもう万端だしあとはやるだけだ。
「せ〜の、」
『行ってきますっ!!!!!!』
俺とアルビダは精いっぱいの大声でそう言った。
それと同時に心の中で村の皆そして、この村に“ありがとう”と言った。
村長はもう言ったから、いい……よね?
そして、村の皆はまるで待ってましたかの様に大きく息を吸っていた。
『行ってらっしゃいっ!!!!!!!!!!』
俺とアルビダの出した数十倍の声はしたがとてもうれしかった。
こんなに祝福されてるなんて、やっぱり離れるのはさびしいな……。
俺達は村の皆による壮絶な出迎えに満足し、村の出入り口の門に向かう。
門はゆっくりとギギィと音を立てながら開いてゆく。
そして、門は完全に開かれ俺とアルビダは顔を見合わせる。
「それじゃ、ロマンと困難の溢れる旅に……」
「出発しちゃいますか♪」
おい……、
俺が言おうとしたことを横取りしたなコイツッ!!!
そして、俺とアルビダは同時に門の外に足をかけ村の外に駆け出した。
後ろの寛大な声援を後にして……。