やりのはしら4
サンの強さを目の当たりにし、全員が戦意を喪失したとき、不意に何かが揺らいだ。
足元もどこも揺れてなんていない。それなのに全員が何かを感じた。
あわてて全員がやりのはしらの中心部に目を移す。
そこではにわかに信じられない光景が広がっていた。
やりのはしらの中心部の核にして空間全体が歪んでいた。
その歪んだ空間が広がっている部分は、他にもおかしなことが起きていた。
柱の一部が砂のように細かく崩れていき、柱が倒れる。
まるでそこだけ時間が異常に速く過ぎていっているかのように。
それは見る間に広がっていき、ついにやりのはしらの空全体を謎の歪みが覆う。
「これは……」
敵も味方も忘れ全員が一斉に中心部に走りよってきた。
何が起こっているのかを確かめる。
ただそれだけのために。
中心部の核、それはよく見ると先ほどアカギが持っていた二本の赤い鎖でできていた。
その横に二つの小さな裂け目のようなものができていき、徐々に裂け目は大きくなる。
アカギと共にいたはずの研究員たちは何がなんだかわからなくなり、少し離れた柱の影で全員が一緒になってうずくまっていた。
アカギだけが異常なことになっている歪みの中心で平気そうな顔で立っている。
長年の夢が叶ったような、誰も見たことがないほどに高揚した面持ちでアカギはじっと裂け目が広がっていくのを見ていた。
パキリと薄いガラスが割れるような音を立てて空間が砕けた。
一瞬とてつもなく眩しい光にやりのはしら全体が照らされ、彼らの目は一時的に見えなくなる。
彼らの目に景色が戻ってくると、そこにいたのは圧倒的な存在感を放つ二体の神だった。
時間の神ディアルガ、空間の神パルキア。
シンオウ神話の神が現れていた。
その二体の神の周りを何か赤いものが回っている。
赤い鎖が彼らを縛るように空中を舞っている。
圧倒的な力を放つ神に恐怖を感じると同時に、人の世界を越えた、神秘的な光景に見とれた。
どれくらいの時間がたったのか、不意に二体の神が咆哮を上げた。
咆哮で放たれたものが声であるのか、力なのかはわからない。
ただ世界全体が震えるのを感じる。
二体の神の間に小さな点が生まれ、見る間に成長し、小さな星が産まれた。
輪郭もあやふやで、少し透けてはいるが誰もがそれが星であることを直感的に悟る。
だんだん大きくなっていく星を見て、サンは不意に違和感を感じた。
新たな星はどこに置かれるのか。
新たな星にサンの今いるような星は邪魔だ。
この星はどうなるのだろう。
邪魔だから消えるのか。
それは間違っている、サンは心の中で叫んだ。
新たな世界が創られるのはかまわない。しかし以前の世界を壊してしまう。
この世界にはたくさんの人がいる。
シンオウ地方をほんの数日まわっただけだというのに、サンは数えきれないくらいたくさんの人を見て、何人かと話もした。
彼らはこの世界をアカギが否定していても、そこで生きている。
それは自分も同じで、サン自身もここで生まれて育った。
それはアカギだって同じはず。
どこか納得できない。それがなんなのかはよくわからなかったが。
「新たな世界の種、新たな銀河がついに産まれる。この不完全な世界に、私自身の手で終止符を打つ!」
アカギが新たに産まれた星に手を伸ばした瞬間、三本の光がやりのはしら上空を横切った。