やりのはしら3
サンは手持ち六体をすべて出してシロナたちと向かい合った。
横では既にマーズとジュピター対ジュンとジムリーダーのバトルが始まっている。
シロナたちもそれぞれポケモンを出してサンに対抗する。
「げきりんでミカルゲを攻撃、サイコキネシスでドクケイル、グレイシアはれいとうビーム、リーフィアはリーフブレードでカバルドン、ボーンラッシュでブースター、かみくだくでバリヤードを攻撃!」
その他の細かい指示は頭で伝えながら無駄のない動きで次々とポケモンを倒していく。
シロナたちも指示を出して動こうとするものの、動きが読まれているかのように攻撃が飛んでくる。
五対一で、圧倒的にサンに分が悪い勝負だと思っていられたのは本当に始めのうちだけだった。
こうもあっさり倒されるとは。
サンのポケモン六体は全員無傷。それに対してシロナのミカルゲ、リョウのドクケイル、キクノのカバルドン、オーバのブースター、ゴヨウのバリヤードはほぼ一瞬のうちに倒された。
何が起こったのかわかるのはサンとそのポケモンだけだろう。
それほどの速さと動きだった。
「最強と聞いていましたがこれほどとは……」
悔しそうにキクノは呟く。このままなら彼らがサンに勝つ見込みはゼロだ。手も足も出ない。
(このままでは何もできずに終わり、何か手はないの?)
横を見るとジムリーダーたちも幹部相手に苦戦していた。
ジュンやジムリーダーが必死なのに対し、幹部は余裕の笑みを浮かべながら相手をしている。
「……まだ終わってない。続き」
他を見ている場面ではなかった。
彼らを倒さない限り先へは進めない。
シロナはガブリアスとルカリオを出した。
それを見て四天王たちもそれぞれ二体ずつポケモンを出した。
十対六という数の差でシロナたちは勝負に出た。これでだめならもう残りの三体を出すしかなくなる。
「そうですね、これはリーグ戦ではありませんでした」
サンは思い出したように呟いた。
そしてまっすぐ前を見据えるとポケモンたちに指示を出し始める。
シロナたちも負けていられない。
全員で一体を狙う。
公正なバトルであれば最低な手段だ。しかしこれは勝つか負けるかの勝負。ただの戦いだった。
チャンピオンと四天王の攻撃が一度にサンのポケモン、サーナイトを襲う。
しかしいち早くサンは状況を察知した。
サーナイトに向かって一斉に飛んでくる攻撃を的確な指示で打ち消すとはいかないまでも、威力をかなり削がせた。
「……チャンピオンといってもこれくらいなんですね」
サンは誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
チャンピオンとなら互角以上のバトルができると思っていたのに。
「……もういい」
次々に飛んでくる攻撃を細かな指示で避けさせながらサンは考えていた。
そしてポケモンたちに最も攻撃できる範囲の広い攻撃をさせた。
カイリューにはげきりん、サーナイトにはサイコウェーブ、ウインディにはだいもんじ、ルカリオにははどうだん、リーフィアにははっぱカッター、グレイシアにはふぶき。
それぞれ味方の損害を最小限に押さえるように、最も敵ポケモンの偏った場所に向けて攻撃させる。
サンによる攻撃にシロナと四天王のポケモン以外のジムリーダーのポケモンたちも巻き込まれ大きなダメージを受けた。
残っているのは受けた攻撃が効果今一つだったポケモンだけだ。
「ウソ……」
信じられないとばかりに誰かが呟く。
しかしそこにいた全ての人間の気持ちを代弁していた。
サンのポケモンは先ほどの一斉攻撃によって無傷ではないものの、多少の傷を負った。
それでもシロナたちの受けたダメージと比べればかなり小さなダメージだ。
強すぎる、敵味方関係なくその場にいた全員がそう思った。
マーズもジュピターも、ここまでサンが強いとは思ってもいなかったようで驚くと同時にあきれていた。
「今までは実力のほんの一部だったわけね」
二人は改めてサンの強さを実感した。