テンガン山
過去
仮眠を取れと言われ、寝袋の上にサンは横になったが、寝付くことができないでいた。
ちらりとアカギの方を見ると、アカギは岩に座って目を閉じていた。
目を閉じてはいるが完全に寝ているわけではない。なにかがあればすぐに起きることのできるようになっていた。
サンは眠ることもできず、立ち上がって見張りをさせられていたしたっぱの方に向かっていく。
眠たそうに目を擦りながらしたっぱたちは通ってきた真っ暗な通路の方を見ている。
誰もくるような気配はない。
したっぱたちは不意に後ろにやって来ていたサンを見てぎょっとすると慌てて言った。
「何を……仮眠を取れと言われているのでは」
眠気が吹き飛んだように慌て始めるしたっぱを無視して、サンはその近くの岩にもたれかかり通路を見たまま言う。
「私に仮眠は必要ない。私が見ている」
「しかし……」
したっぱたちは今日の作戦で初めてサンの実在と正体を知って驚いたばかりで話すらしていないのに、そのサンが自ら側にきて話しかけてきたのだ。驚くばかりで何も言えていない。
「あなたたちが見張りでは意味がない」
話は終わったとばかりにサンは何も言わなくなった。
したっぱたちは困惑したものの、休みたいのはやまやまだったので地面に腰を下ろして目を閉じる。
しかし眠いのに眠れない。
サンについて考えてしまうからだ。
ギンガ団最強とされていたサンは本当に実在していて、しかもまだ幼い子供。
そしてどことなく不気味に感じていた。
まるで感情がないかのような無機質な目と表情、これが一番無邪気であろうかという子供の表情だろうか。
もちろんアカギの顔にも普段一切表情は浮かばないし、無機質な目をしている。
それなのにこの少女はアカギとも違う、なにか異質な雰囲気を持っている。
したっぱの脳裏にはじっと真っ暗な通路を見つめるサンの姿が焼き付いて離れなかった。


じっと暗い通路を見つめながら、サンはひとつのことを考えていた。
私はなにをしたいのか?
このところずっとその事ばかり考えている。
アカギのしたいことがしたいこと。
この結論は揺らがない。そう思っていた。
なのに、アカギが壁画を破壊したとき、サンはそれをやめてほしいと思った。
口には出さず、止めることもしなかったけれどアカギのしていることを止めたかった。
初めてのアカギの行動に対する拒絶だった。
アカギのしたいことは全ての認めたい。認めなくてはいけない。
サンはポケットに入れた壁画の欠片を握り締めた。
なぜ、たかが物を壊しただけのことであるのに、普段ならなんとも思わないような、物が壊れるという当たり前のことなのに。
(私の壊れてほしくないもの……)
彼女はベルトに取り付けたモンスターボールを見る。
(この子達が壊れたら……私は今みたいな気持ちになるのかな)
一緒にいようと約束したポケモンたち。
不意に今までの出来事が次々浮かんでくる。
初めて神話を読んだときのこと。
マーズが来たときのこと。
ポケモンを初めて手に取ったときのこと。
ジュピター、サターンと合ったときのこと。
シンオウを旅して、人と関わりを持ったこと。
(これだけいろいろなことがあったのに、私は何を見付けたんだろう。自分の考えすら理解できない。自分のことすらわからないのに、私に何がある)
暗い通路には今まで通過してきたサンの過去がある。
戻り、手を出すこともできない過去が。
(なにもわからない。過去にも、どこにも『自分のこと』の考えなんてないんだ)
サンはひたすら闇を見つめていた。

アリデーハン ( 2014/07/27(日) 18:13 )