テンガン山2
通路はまるで壁画が描かれる直前まで人が通っていたかのように整備されたまま残っていた。
壁の窪みの燭台にはまだわずかに蝋燭の欠片が残されていて、人間の存在を感じさせる。
彼らの足音が岩壁に響いている以外は不気味なほど静かな通路。何者の気配もしない。まるで空間だけが現代に移動してきたかのようだった。
その時、アカギの着けていた通信機器に信号が送られてきた。
「……何があった」
『テンガン山の入…り口を突……されま……した。国際警……察とジムリーダーがい……した。他にも何人……通過し……』
通信はノイズだらけで、使えなくなるのも近い。
「そうか」
アカギはそこで通信を切った。それ以上聞く必要はないとでも言うかのように。
「後ろから付けられている、足止めしろ」
アカギは最後尾を歩いているしたっぱにそう告げると、再び何事もなかったかのように歩き続けている。
「……私が行こうか?」
アカギのすぐ後ろを歩いていたサンがアカギに提案した。
「お前が行く必要はない。山頂に向かうことが先決だ」
そう言われると何も言い返すことはできず、サンは再び押し黙る。
先程の壁画の空間とはうって変わって、通路には火を灯すための燭台以外には何もない。
剥き出しの黒い岩肌が永遠と続いている。
ボスであるアカギが無言であるからか、誰も何も言葉を発することはない。
通信がほぼ途絶えたために、後ろから追いかけてきているシロナたちが今どの辺りにいるのかも不明だ。
所々で休憩をとってはいる。
すでにテンガン山に入ってから数時間は経っていて、普段あまり運動などしない研究員は息を切らしていた。
テンガン山の外は日が暮れていた。
しかし洞窟内にずっといるために時間の感覚がなくなってきているので、そんなことはわからない。
歩き続けているうちに、彼らは今までと違う、少し大きな空間に出た。
所々にこういう場所はあったが、ここが今まででは最も大きな空間だ。
アカギはそこで一旦立ち止まり後ろを振り向いた。
「ここで仮眠をとり、二時間後に出発する」
全員が無言でうなずいた。
疲れて声を出すのも嫌だったから。
なんでボスは疲れていなさそうなのか。
全員がそう思った。