テンガン山
サンはジュピターにテンガン山に登る用意を手伝ってもらい、動きやすく、防寒に優れた服に着替えた。
その後サンは一人部屋に戻り、出発を待った。
彼女は一人で椅子に座っている。
アカギの求める新たな世界、たとえそれがどんな世界であっても彼女は何も思わない。
アカギの目的が達成されても、彼女はアカギと共にいようと思っていた。
どんな世界になっても、自分の居どころを見つけられないような気がした。
それならいっそ、アカギのもとにいる。そう決めたのだった。
数十分後、着替えと食料だけを持って、サンはヘリコプターに乗り込む。
テンガン山のそばまでヘリコプターで移動し、そこからは徒歩。
彼らがテンガン山に到着すると、観光客がざわつき始める。
そんなことを全く気にしない様子で、アカギは観光客を押し退けてテンガン山内に入る。
警備の男の制止を無視し、無理やりそれを振り切った。
テンガン山の麓は大騒ぎとなり、観光客はしたっぱの数にものを言わせテンガン山を追い出された。
突然すぎる出来事に、人々は呆然としている。
攻撃されても即座に返り討ちにあい、その場にいた誰にも、ギンガ団は止められなかった。
アカギたちはテンガン山の壁画のある空間に到着した。
サンが以前来たときと変わらない、美しく神話の世界がその空間には広がっていた。
描かれた当時から全く変わっていないように鮮やかな神話の壁画をサンとマーズとジュピターはぼんやりと眺めているが、アカギと研究員は何も感じていないように着々と何かの準備を進めていく。
アカギが全員を一度下がらせると、ドカンという低い音と共に、壁画の一部がガラガラと崩れ落ちる。
今まで壁画で閉ざされていた通路が彼らの前に姿を表した。
ちょうど人と人とが争いをしているところ、そこに通路は隠されていた。
古代の人々はなにを思ってこの通路を塞いだのか。テンガン山山頂までの唯一の通路がなぜ塞がれたのか、誰にもわからない。
「神話は改編される、他ならない、私によって。過去の神話は捨て去られる」
なにか言いたげなサンや幹部に向けてアカギは言う。
その力強い言葉に、サンを除く、全員がうなずいた。
サンはうなずきこそしなかったものの、何も言わず崩れ落ちた壁画の破片を拾い上げた。
まだ温かい、武器を持った人の手の一部。
「……忘れ去っては意味がない」
誰にともなく呟き、その小さな欠片をポケットに入れた。
「お前がそう思うならそうすればいい。神話が改編されるのは事実だ」
アカギは通路の先を見据えてそうとだけ言う。
まるでその先に新たな世界が見えているかのように、ただ通路のさきあだけを見据えていた。
サンは崩れていない残った壁画を一瞥し、通路の先に進んでいくアカギの後を追った。