ポケモンリーグ2
「 ごめんなさい、遅くなってしまって」
ドレスの女性、ポケモンリーグチャンピオンのシロナは丁寧に謝罪の言葉を述べた。
「ところで用事って何ですか?」
シロナは近くの椅子に腰掛けながら尋ねた。
ハンサムは先程した話をした。
湖の三神の話になると、シロナは表情を固くしたが気にせずハンサムは続けた。
「ギンガ団には幹部以外に一人、桁外れの能力を持ったトレーナーがいます」
「桁外れ?」
「幹部をも軽く凌駕するトレーナーがあそこにはいる」
「そんな話は初めて聞いたわ」
シロナの言葉に全員が一斉にうなずいた。
「なぜ我々に教えられていなかったのです?」
「国際警察の中でもごく一部の人間しか知らない情報で、事実なのかもわかっていなかったので伝えられませんでした」
「……それを伝えたということは、そのトレーナーは実在するトレーナーだったということ?」
ハンサムは黙ってうなずいた。
四天王とシロナの表情が強張る。
「名前や手持ちのポケモンなどの情報はあるの?」
「……そのトレーナーはサンと呼ばれている」
ハンサムがそう言うと、オーバとシロナの脳裏に一人の少女の姿が浮かんだ。
「それ以外の情報は?」
「手持ちのポケモンはカイリュー、サーナイト、ウインディ、ルカリオ、グレイシア、リーフィア、容姿は……まだ十歳にもなっていない少女だ」
最後の方のハンサムの声は絞り出すような声になった。
その瞬間、オーバとシロナの表情が凍り付いた。
名前、手持ちのポケモン、容姿、どれも彼らの知っている『サン』と一致していた。
「ナギサでハンサムさんが探していた女の子……」
オーバがあの時の事を思い出しながら呟いた。
「……覚えていましたか」
「あんな子を忘れるわけがない」
「会ったことがあるの?」
「デンジに挑戦しに来ていた。確かにすげー強い子だったけど……何でギンガ団に」
「捨て子だったらしい」
苦虫を噛み潰したような表情で顔でハンサムは言った。
「……シロナさん?」
ハンサムはシロナの様子のおかしいことに気づき声をかけた。
「ねえ、そのサンっていう子、黒い髪だった……?」
「シロナさんもご存じだったのですか?」
ハンサムは思ってもいなかったサンとチャンピオンの繋がりに驚いた。
「212番道路で出会って、カンナギまで一緒に行ったりして。この子もサンに貰ったの……」
シロナはモンスターボールから一体のポケモン、トゲチックを出した。サンに貰ったトゲピーが進化したのだ。
「このトゲピーはサンのポケモンだったのですか?」
「本当はサンが持っていたタマゴだったんですけど、ちょうど私が見ていたときに孵って、それで貰ったの」
なんのことか全くわかっていないらしいトゲチックは不思議そうに目をパチパチさせていた。
「……ギンガ団の幹部以上の強さって、どれくらいなんですか?」
オーバがハンサムに尋ねて、さらに続けた。
「デンジとのバトルは見てましたけど、それだけではわからないくらいの?」
オーバの問いにハンサムは言葉がなかなか見つからず、動きを止める。
「彼女の強さは未知数だ。幹部の話によると一晩でどこかの組織を一人で壊滅させられるほど……だそうだ」
想像以上の答えにシロナと四天王は全員思わずお互いの顔を見合わせた。
「我々全員でかかって勝算はありそうですか?」
「不明だ。それに向こうにはサン以外にも幹部がいる」
「……最強の組織と言っても過言ではありませんね」
「我々も人員はできるだけ出す。あなた方は」
「こちらも全力でかかるしかありません。いつ頃彼らはテンガン山で行動を始めるのかは、ハンサムさんの情報に任せます」
シロナは意を決したように強気な声で言った。
「……ジムリーダーやジムトレーナーにも協力を仰ぎましょうか」
「あまり大人数になるべきではないでしょう。ジムリーダーだけにしておくべきだわ」
「彼らの勢力は……」
その後数時間に及んで話し合いは続いた。
これといった完璧な策は見付からず、ある程度意見をまとめて、そこで一度話し合いは切り上げとなった。
その中でも、シロナとオーバはなんとなくもやもやした気持ちで話し合いに参加していた。
オーバ以外の四天王は実際にサンに会っていないからあまり実感がないのかもしれないが、サンはどこにでもいるような、普通の女の子なのだ。
なにもわからず、ギンガ団に協力しているサンの事を考えると、彼らはなんともいたたまれない気持ちになる。
他の四天王のようにサンというただの『敵』として考えることができない。
シロナとオーバは複雑な感情を抱えたまま、話し合いが終わってからもサンのことを考え続けていた。