居場所
ジュンとハンサムが去ると、サンは自室に戻ってベッドに横になる。
ベッドの上には読みかけの神話が置かれていて、サンはそれを手に取る。
しばらく読んでいるうちに、ふと先程の出来事が思い出された。
(私を連れ戻しに、とはどういう意味だろう。連れ戻すも何も、私はもとからここの人間なのに)
サンには彼らが何を思ってそんなことを言ったのか全くわからない。
その時、サンはふと、彼女自身がいつまでここにいるつもりなのかわからないことに気付いた。
(私はいつまでここにいればいいのだろう。アカギが私を育てたから、今の私がある。だから私は少しでも助けになりたいだけだ)
今のサンがあるのはアカギのおかげだ。アカギの目的が達成されれば、サンは満足してアカギのもとを離れられる、そう思っていた。
(なのに、私は勝手に出ていった。自分がそこにいる意味がわからなくて。それなのに、私は何か得られたか?)
サンは数週間の内に起こった出来事を思い出していた。
ジムリーダーに挑んだり、いろいろなトレーナーと戦ってはみたものの、誰一人としてサンに何かを感じさせることはできなかった。
あれらは全て無駄だったのか。チャンピオンの実力も気にはなるけれど、以前のように戦いたいとは思わなかった。
(どうして、私はここにいるの?)
その意味はまだ見つからない。
戻れと言われたから戻ってきた。だからといってサンが何をしたのか。
(侵入者……ハンサムさんとジュンは別に私でなくても止められた。私はいったいどうすればいいの?マーズにも、ジュピターにも、サターンにもできない、私にしかできないことなんてあるの?)
ポケモンバトルができることは、彼女にとってなんの意味もなさなかった。
バトルなら幹部に任せてしまえばそれで十分、マーズは人を操るのに、ジュピターはコンピューターに、サターンは洞察力や人を見る目に、それぞれ長けていた。
(私は何をすればいいの?私にしかできないことは何?)
いくら考えても何も浮かばない。
浮かんでくるのは他の人間の、自身より長けた部分だけだった。