中途半端な存在
生活している洞窟に戻ると、お母さんはいなかった。
今夜の夕飯木の実でも取りに行ってるのかな?
僕は人間の姿になって洞窟の奥で横になった。個人的に寝るときはこっちの方が落ち着くんだ。奥だから見られることもないしね。
「起きなさい」
ゆさゆさと体を揺すられて僕は目を覚ました。
目を開けると僕の目の前にはお母さんが立っていた。
「んー?」
僕は目を擦りながらゆっくり起き上がった。
「ほら、夕飯のクラボのみ」
「わーい」
僕は辛いのが好きなんだ。一番好きなのはノワキのみなんだけど、あんまり生えてないし育つのも遅いからめったに食べれないんだよね。
僕は洞窟の床に座って、お母さんからクラボのみをもらった。ちょっとすっぱいのも美味しい。
「あんた人間の姿の方がいいの?」
不意にお母さんが聞いてきた。
「え?僕はどっちの姿も好きだよ」
「そろそろ決めないと、今のうちから決めた姿に慣れておかないと、いざ決めたときにボロが出るわよ」
ボロなんて出すはずないじゃないか。今自由にできてるんだから。
「そんな顔しないの。失敗してからじゃ遅いんだから」
「だってさ、もう僕は自由に変われるもん」
お母さんはとってもしぶい顔をしてクラボのみのタネを吐き出した。
「とにかく、早く決めないと……」
「お説教はもういいよっ!」
何でこんなに僕が怒られなくちゃいけないのさ!
妙にイライラして、僕は洞窟を飛び出してしまった。
気付いたらよくポケモンの姿で遊んでる池の横にいた。
月明かりに照らされた池ではバルビートとイルミーゼが舞い、その光が水面に反射しきらきら輝いている。
僕は池に近付いて、水面を覗き込んだ。
人間姿の僕が映る、ポケモンじゃない僕の姿。
力を込めて、僕はキバゴに変わった。
水面に映るキバゴの姿、これも僕の姿。
どっちも僕、どっちも本当の僕。
いったい僕はなんなんだろう。どっちが僕なんだろう。
人間でもない、ポケモンでもない、中途半端な存在。いったい何で僕はこんな中途半端な存在として生まれてきたんだろう。
水面に映る自分の姿。
その輪郭はぼやけて、もう今自分がどっちの姿になっているかもわからない。
僕は池のほとりに座り込んで、ただ飛び交うバルビート達を眺めていた。