04 クロガネシティ〜ヨスガシティ
サンはジムを出ると、東にそびえる山、テンガン山の方に歩いていった。次にヨスガシティに行こうと思ったからだ。
飛んでいった方が早いが、なんとなくテンガン山を抜けたいと思ったからだ。
テンガン山はシンオウ地方の中央にそびえる山で、この世界で最も高い山だ。神話では世界が始まった山だとも言われる。頂上には古代の遺跡があると言われているが頂上に通じる道は壁画で完全に塞がれているため奥に行くことが出来ず、外から行こうにも猛烈な吹雪や濃霧、強力な磁場などに邪魔されたりするため、たどり着けたものはいなかった。
『カイリューに連れってもらった方が速いよ?』
『テンガン山を見たいから』
『どうしたのさ』
『直に見てみたいから……ウインディ、乗せて』
彼女がそう言うとウインディは足を折り曲げ彼女を乗せた。
『あっち』
彼女はテンガン山の方を指差しウインディを走らせた。
テンガン山はシンオウ地方の観光名所となっていて、裾野に広がる森林でハイキング、テンガン山内の壁画を見に来る観光客がよく訪れる。
彼女がテンガン山を訪れた日も、観光客で賑わっていた。
「あっ、お嬢ちゃん、ここから先は入場料を払わないとだめだよ。あとポケモンもしまって」
彼女が他の観光客に混じって入り口を通りすぎようとすると、受付の男性に止められた。
彼女は横を歩いていたグレイシアを戻しながら言った。
「入場料?ここに入るのに必要なんですか?」
「ああ、そうなんだ。ここら辺の管理とか維持にはお金が必要でね、君達お客さんにも気持ちよく来てもらうために必要なんだ」
(わざわざ維持しなくても、今まででこうして残ってきたんだからこれからも維持する必要はないだろう。補修が必要なら地方が出すだろうに)
彼女はそんなことを考えたが、周りの観光客は当然のように入場料を支払っている。彼女はここではこれが普通なんだと自分に言い聞かせ、入場料を支払った。
彼女の周りにいた観光客がこれから向かうのはテンガン山内の壁画のようなので、彼女は観光客の流れに乗って進んでいった。
しばらく歩くと、テンガン山の入り口が見えてきた。
観光のために入り口は人の手が加えられ、洞窟の中につけられたいくつもの明かりが湿った岩壁を照らしていた。
「きれいな鍾乳石ね」
「ほら見て、ズバットがたくさんいるわ」
観光客はぺちゃくちゃと喋りながら洞窟を歩いていた。喋り声が岩壁に反響し、とてもうるさかった。
ズバットの住みかを見て、岩壁をくりぬいて作られた古代の燭台の列を見て歩いていると、ちょっとした広い部屋に出た。そこの壁には一面に神話の世界が描かれ、ほとんど色褪せておらず、まるで書かれたばかりのように鮮やかな色使いだ。
天井の中心にはこの世界を創造した神、アルセウスが描かれ、その横には時空の神ディアルガとパルキアが時空を産み出していた。彼らを囲うように感情の神エムリット、知識の神ユクシー、意志の神アグノムが舞い、その周りには他の多くの神々の姿が生き生きと描かれている。星空とも青空とも夕焼け空ともつかない不思議な背景には様々な色の光球が飛び交う。
下の方、観光客の目線の辺りに手に剣や弓を持って人間同士が戦う姿が、一番下は黒く塗られ、歪の神ギラティナがその中心で人間の争いを眺めている。
彼女はまるで目の前で神話が再現されるような錯覚を感じ、一筋の温かい液体が彼女の頬を伝って地面に落ちた。
しかし彼女は彼女の頬を伝うものを知らず、不思議そうにそれを袖で拭いさった。
彼女はしばらく壁画を眺め洞窟を出た。
洞窟を出ると、そこは高台のようになっていて、彼女の目の前には森と、ヨスガシティの街並みが見えた。
彼女は少し離れたところに移動すると、カイリューを出して一気にヨスガシティに飛んでいった。